近年、社員を取り巻く生活環境や価値観・就労観の変化などにより、企業における「福利厚生」の持つ位置付けが大きく変化しています。単なる福利厚生ではなく、社内コミュニケーションや人材戦略に生かそうという動きが出ており、その中でもチケットやカードによる「食事補助」が大きくクローズアップされるようになってきました。この動きにはどのような背景があるのでしょうか。社員に満足度の高い食事を提供する福利厚生用食事補助システム「チケットレストラン」を展開するバークレーヴァウチャーズの営業部部長・高橋偉一郎さんに、福利厚生における「食事補助」が占める意味合いや期待される効果・効用、人材戦略上における有効な活用方法などについて、具体的なお話を伺いました。
- 高橋偉一郎
- 株式会社バークレーヴァウチャーズ 営業部 部長
たかはし・いいちろう/外資系半導体会社、通信機器向けソフトウェア会社にて事業開発、マーケティング、営業に携わった後、大手外資系オンラインショッピング企業において、国内のギフト券事業を統括。2015年11月にバークレーヴァウチャーズ(Edenred Japan)に入社、同月より現職。日本国内における福利厚生向け食事券の営業を統括。
社員のニーズと、会社が提供する「福利厚生施策」とのギャップ
近年、福利厚生が多様化していますが、今、企業における福利厚生にはどのような課題があるとお考えでしょうか。
大きく分けて、三つの課題があります。一つ目は、会社員の給与の手取り額(可処分所得)が減少していること。給与から差し引かれる社会保険料が年々上がっています。その結果、給与の手取り額が右肩下がりとなり、その上、近年の消費税率アップに伴い、会社員の「財布の中身」及び「「購入出来るもの自体」が年々少なくなっています。
二つ目は、福利厚生の中身が社員のニーズと合っていないこと。つまり、社員にとって“ありがたみ”を感じる福利厚生を導入している企業が少ないのです。例えば、当社の行った調査では、社員が望む福利厚生は「住宅手当」や「年金」「食事手当」など、過半数が生活に直結する事項で占められています。また、マンパワーグループが2015年に行った調査でも、「実際にあった福利厚生でよかったと思うもの」の1位が「食堂、昼食補助」で、2位が「住宅手当・家賃補助」となっています。
ところが、実際に企業の方と話をしていると、増やしていこうと考えている福利厚生施策は、全国の宿泊施設や娯楽施設、スポーツジムなどを割引価格で利用できる福利厚生代行サービスであり、生活とは直結しないオフタイムをいかに充実させるかに着目した内容です。これらは一見、社員にとって魅力的であると映ると同時に、企業としても手っ取り早く対応できる施策だからでしょう。しかし、実際の利用率は、あまり利用されていないことが多いのが現状です。社員からすれば、生活に直結しないが故に「あればいいな」という程度の感覚なのではないでしょうか。これらの結果からも分かるように、社員側のニーズと企業が提供している福利厚生施策との間に、大きなギャップがあることが問題です。
三つ目が、会社員の「昼食事情」がひっ迫していること。手取り給与が減っている現状にあって、小遣いも減っています。新生銀行が2015年に行った調査では、男性会社員の1ヵ月の平均お小遣い額が約3万8000円となっていますが、実際に昼食代に1日いくら使っているのかを聞いてみると、平均で601円です。これは平均値で、半数以上の方が500円以下というのが実情です。
ファストフードやコンビニのお弁当の相場と比較してみると、昼食代として使える金額としては、かなり厳しいものを感じます。それこそ、学生時代には安い学生食堂があったでしょうから、当時より貧しい食事をしているケースも十分に推測されます。まさに昼食にお金をかけたくてもかけられない会社員の現状が浮かび上がっています。
とはいえ、社員食堂で対応しようとすると、非常にコスト高となります。相当な大企業、あるいは大きな拠点でないと社員食堂を保持するのが難しいのです。福利厚生の一環として社員食堂があるのは社員にとってうれしいことなのですが、現実的に対応しづらい状況となっています。
以上、三つの課題を挙げましたが、最初の給与の問題については経営者や人事担当者の方はよくご存じだと思います。しかし、提供する福利厚生が社員のニーズと合っていないこと、厳しい昼食事情などに関しては、相当な認識不足、理解のギャップがあります。むしろ、この点が大きな問題だと思います。
そのような問題認識から、食事に対する補助をお考えになったのですか。
その通りです。今後、企業が価値のある福利厚生を提供していく一つとして、昼食を中心とした「食事補助」があると考えました。食事補助に関しては、税務上の優遇措置を踏まえ、社員と会社が折半をしたうえで月額7600円までとしています。そこで、7600円を実稼働日数として20日で割ると、1日380円。仮に昼食代を500円とし、食事補助の380円を足すと880円となるわけで、昼食メニューの「選択の余地」が相当広がります。あるいは、お弁当を持参している人の場合でも、1~2品加えることができますから、今までとは違った昼食時間を過ごすことができるのではないでしょうか。このような観点から、社員の方々に満足度の高い食事をしてもらうために、且つ企業が食事補助という目的を担保できるよう、現金とは違い何でも買えるのではなく、飲食に特化して使える、福利厚生用食事補助システム「チケットレストラン」を提供しているのです。
健康的な生活を維持するために、「食」は必要不可欠な条件です。充実した昼食を食べることができれば、社員のやる気、仕事の生産性に必ず良い影響を与えます。結果的に、会社の業績に与えるインパクトは少なくありません。
しかし、このような重要性がありながらも、日本の場合、社員の食事に対する企業の認識およびサポートが、お世辞にも高い水準にあるとは言えません。そのため、食事に対するサポートが充実している欧米諸国と比較すると日本の労働者の生産性は低くなっています。日本生産性本部が毎年発表している「日本の生産性動向」の2015年版を見ても、食事補助の進んでいる国々は総じて労働生産性が高くなっている一方、日本の労働生産性は OECD加盟34ヵ国中21位で、この順位は2005年から変わっていません。主要先進7ヵ国では最下位となっています。
つまり食事補助と労働生産性には、少なからぬ関連性があるわけですね。
そう思います。これから企業間の競争が激しくなる中、このような食の状態を放置したままでいいのでしょうか。特に、社員の心身の健康管理を司る人事担当者は、社員の目線に立った福利厚生のあり方、特に食事補助についての認識を新たにする必要があります。
事実、この点に気づいているいくつかの日本企業や外資系企業では食事に対するサポートが非常に手厚く、充実しています。さらに、社内のコミュニケーションを活性化する、ストレスを軽減し健康経営を実現するなど、明確な目的意識を持って運用している企業があります。
ところが、多くの日本企業ではとりあえず食事補助のメニュー(社員食堂)を置いているというケースが多くなっています。そこで何を実現したいのか、社員に対してどのような価値を提供したいのか、目的意識が希薄なのです。また、その多くは、実施する目的があまり社員に向いていないように感じます。限られた原資を有効に使うためにも、何のために食事補助をするのか、この点を今一度、深く考えて施策を講じる必要性を感じます。
チケット・カードによる食事補助を、 「人材戦略」として位置付ける
最近では単なる福利厚生ではなく、食事補助を社内コミュニケーションなど人材戦略に生かそうという明確な目的を持った企業も出ているようですね。
そうなんです。食事補助は、人材を採用し、育成し、活用し、定着させる、また、社員の健康を維持するなど、人材戦略上のいろいろな目的で提供できるものだからです。そのためにも、自社はどのような目的を持って食事補助をするのかを考え、明確にすることが大切です。
ところで今、日本企業の人材戦略上でキーポイントになっているのが、「ダイバーシティ」への対応と、会社に対する「エンゲージメント」の向上ではないでしょうか。このどちらに関しても、食事補助が有効なソリューションとしてあると思います。しかし、食事に対して日本企業はあまり重要視していないためか、なかなかこの点での議論が進みません。
例えば、ダイバーシティについて考えてみましょう。社内に多様な人材、立場の人がいる中で、決まった食事メニューを提供することが、果たして全員のニーズを満たすことになるでしょうか。ダイバーシティが進めば進むほど、同じような食事メニューを提供していてはダメです。一人ひとりの選択の自由度を上げないと、ダイバーシティには対応できません。だからこそ特定の食事メニューを支給するのではなく、チケットやカードを使って自由に選んでもらうシステムが有効なのです。
また、エンゲージメントを向上することを考えた時に、住宅補助や住宅手当の支給を行う企業があります。しかし、このような現金を支給する場合を想定すると、給与明細に「住宅手当〇万円」と記入されるだけですから、給与の一部と認識され、福利厚生としての“ありがたみ”をあまり感じてもらえません。それに対して、チケットやカードを使って食事補助をする場合では、「会社が自分たちのために食事補助をしてくれている」と、一定の“ありがたみ”を感じるシーン(支払い場面)が必ず生まれます。そこで会社のことを思い出したり、 “ありがたみ”を喚起するような状況が増えれば増えるほど、心のどこかで会社への忠誠心が生まれることになります。
これは、現金支給などでは生まれてこない大きな「価値」と言えますね。
つまり、チケットやカードを使うことによって忠誠心を喚起させ、会社に対するエンゲージメントを高めていくことができるのです。その結果、従業員満足度も向上するでしょう。このような点からも、食事補助が単なる福利厚生でなく、組織の人材戦略を促進する上で重要な手段であることがお分かりかと思います。
しかし、多くの企業経営者や人事担当者の方は、このような食事補助による効果・効用をほとんど知らないのではないでしょうか。その結果、いわゆる福利厚生代行サービスなどにあるような、必ずしも有効とは思えない施策で忠誠心を向上させようとする手法に走りがちです。繰り返しになりますが、食事は誰もが毎日行う生活に密着した行為であり、生存のための根源的な行為とも言えます。だからこそ、食事に対してしっかりとサポートすることが非常に有効なのです。
福利厚生の予算には限りがありますから、この点に企業の人事担当者が少しでも早く気づくことが大切ですね。ところで、貴社が提供する、社員に対して食事補助を行う「チケットレストラン」サービスには、どのような特徴・メリットがあるのでしょうか。
「チケットレストラン」の特徴は、現金支給ではなくチケット・カードによってサービスを提供すること。全国5万5000店以上の大手飲食チェーン店やコンビニで利用できる、食事補助システムです。現在では、使いやすさ、加盟店の多さなどを評価していただき、導入企業は2000社以上、利用者は15万人以上に及んでいます。また、食事補助は家族手当や住宅手当などと違って、全従業員が利用できるもので、極めて平等なサービスと言えます。
ところで、会社としては食事補助という目的を持って予算を組む以上、それ以外の目的に使われてしまうと意味がありません。しかし、食事に使ってほしいと思っていても、現金だと何にでも使うことができるので、会社側がコントロールすることができません。しかし、我々が提供するチケット・カードという「ソリューション」を使うことによって、使える場所やモノに制限をかけることができるため、本来の目的にかなった利用を実現することができます。
ちなみに、税制の優遇を受けるという点では現物支給が基本となりますが、チケット・カードは現物支給と同様であると見なされるので、全く問題はありません。つまり、税制優遇面も満たし、かつ企業の目的を達成する担保を提供することができるサービスというわけです。このような点からも、現金支給よりコントロールが効くチケット・カードによるソリューションの方が企業の目指す目的を果たすことになります。
また、食事補助をすることによって、さまざまなメリットが期待できます。一つ目は、会社の価値向上につながること。食事補助を行い、社員のために充実した福利厚生を行っていることが会社の認知度を高め、ブランドイメージが向上し、採用面などで大きな効果を生むケースがよく見られます。
二つ目が、社員間のコミュニケーションを促進(活性化)すること。パソコンで仕事をする時間が大半となっている現在、社員同士が言葉を交わす機会は以前と比べ、大幅に減っています。そこで、ランチタイムに、社員同士が顔を会わせ、仕事中ではなかなか話すことのできない内容を話すことによって、お互いの気持ちや本音を理解し合い、社員同士の気づきが生まれるようになります。近年、ストレスマネジメントの重要性が言われていますが、会社が社員のストレスに気づかないケースが少なくありません。なぜなら、社員は悩みの全てを上司や人事担当者に話すわけではないからです。ランチタイムに社員間のコミュニケーションが促されれば、上司や人事担当者に言えない悩みやストレスを共有することになり、解消につながることも十分あるのではないでしょうか。
三つ目が、今日的な人材戦略の実現です。採用面での効果をはじめとし、厳しい経営環境の下、仮に思うように給与が上がらなくても、このサービスの利用によって、会社への忠誠心の向上が図られ、社員のモチベーションや定着率が高まることが期待されます。
多様な食事メニューに対応していくために、「食事補助」へのニーズが高まる
一般的に、福利厚生は「衛生要因」の要素が強いと思いますが、食事補助に関して言うと、「動機付け要因」になるように感じました。
現金支給と言うことで給料の一部に含めて考えると、「衛生要因」になります。しかし、食事補助はいわゆる福利厚生とは異なり、「動機付け要因」になる独立した一つの存在価値があると思います。また、現在は一人ひとりの持つ価値観・就労観が異なってきており、食事補助の持つ意味合いが大きく変わってきました。
いずれにしても、これから企業は目的意識を持ち、課題解決のためのソリューションとして戦略的に食事補助を活用していくことが大切です。なぜなら、目的を持って実施しないと、効果が測れません。最近の当社に対する問い合わせ内容では、「他社よりも良い人材を採用したいので、チケットレストランの導入を考えたい」というケースが増えています。これはベンチャー企業だけではなく、大手企業からもよくある問い合わせです。
また、採用場面について言うと、業界ごとの給与格差の問題があります。例えば、福祉・介護業界などは全産業平均と比べると低い水準にあり、なかなか人材を採用することができません。そのため、産業としてのニーズは非常に高いのに、これまで慢性的な人材不足の状況にありました。そこで、人を集めるためのツールとして福利厚生の充実、その中でも生活に直結する食事補助を積極的に取り入れていこうとする動きが出ているのです。
このような目的があるためでしょうか、人材募集や採用促進の一環として食事補助を検討する企業も少なくありません。
今後、グローバル化が進み、外国人採用が進むことを考えると、多様な食事メニューに対応するためにも、食事補助サービスに対するニーズが高まっていくように思います。
メニューが限られている社員食堂では、対応が難しいでしょうね。その意味でも、食事補助サービスなら柔軟かつ迅速に対応でき、また先行者利益を得ることができます。結果的に会社のブランドイメージの向上につながり、人材の採用・定着へと結び付きます。問題は、このような食事補助の有用性に多くの企業が気づいていないことです。
人によって食に関する好みはさまざまです。育ってきた家庭環境などによって、好き嫌いがあります。そのためにも、いろいろな選択肢を用意することが重要です。また、働きながら子育てをしている人にとって、食事を用意することは大変な苦労です。食事補助によって、その苦労を軽減することができます。金銭的な補助だけでなく、栄養バランスの面でも効果があります。
ただ企業からすると、食事補助はコストになるので、余計なコストは払いたくないという思いもあることでしょう。社員が満足する福利厚生を、いかに低コストで提供できるかが、大きな課題なのです。その際、私は「チケットレストラン」で得られる直接的な結果・利益、間接的な効果を考えた時、かけたコスト以上のものが得られると考えます。
これは弊社のスウェーデンでの取り組みの一つですが、高校生に対する食事の改善が出席率の向上に結び付いたという事例があります。これまで、食の乱れが生活の乱れにつながり、学校への出席率が低下し、生活態度が荒れてしまったという状況がありました。そこで、まずは食事をきちんととれる環境を作り、かつ多くの食事を選択できる仕組みを用意して、食事補助のサービスを運用したところ、出席率の向上に大きく寄与したということです。その結果、学生生活を安定して送ることができるようになりました。
これは、食事補助が労働生産性に関係するという点につながる話ですね。
そうですね。仮に、高校生に直接的なお金を与えた場合、食事に使うことは期待できないかもしれません。多分、大人も同じだと思います。しかし、チケットやカードによって有効期限と目的を限定すれば、食事以外には使うことはありません。海外ではこのような食事補助による効果・効用の例が、数多く出ています。今後、当社は、日本で同様のリサーチを行い、目的に合致したかどうか、導入前後での効果測定を行う予定です。
もちろん、社員の食事は各人が考えればいいことで、会社はそのことに特に関与しない、という考え方もあると思います。しかし、それでは社員の会社に対する忠誠心は向上しません。食事を補助することは、戦略的に教育機会を提供することで人の活用と定着を図ることと同じ考え方・アプローチなのです。まさに人材に対する「投資」の一環として、食事補助が位置付けられると思います。
いくら給与を上げても、そこには限度がありますし、しばらくするとその効果も減っていきます。結果、忠誠心を向上させることにはつながりません。その点から言っても、企業の人事担当の方々、あるいは中小企業の経営者の方々は、食事補助の持つ重要性・有用性、いわば「食育」の大切さを少しでも早く認識してほしいと思っています。
働く環境が大きく変わっている現在、企業における食事補助のあり方も変わっていかなくてはならないということがよくわかりました。本日はありがとうございました。
株式会社バークレーヴァウチャーズは、食事券「チケットレストラン」を開発した、Edenred (エデンレッド) の100%子会社です。Edenred は、従業員の生活の向上と組織の効率化の実現を支援する企業向けサービス、設計、管理を提供す る世界リーディングカンパニーです。NYSE ユーロネクスト・パリ証券取引所に上場しており、日本を含む世界42か国で 6,000人以上の従業員を擁し事業を展開し、約66万社の企業・公共団体において4,100万人の会社員が140万店の加盟 店を利用しています。2014年度グループ納品額は177億ユーロです。
ホームページ:www.edenred.jp