中小企業の経営者のための人事戦略入門
本コラムは【第1回】で述べたように、秋山がみのり経営研究所ホームページに発表した記事を転載するものです。
「中小企業の経営者のための人事戦略入門」
【第9回】役割の測定(1)
(1)役割の差と処遇の差
この項から役割の測定に関して説明します。前章まで説明して来た役割が人事制度として使われるためには、この測定のステップが欠かせません。役割の測定という概念は日本では馴染みの無い概念です。歴史的に日本では身分制から始まり職能資格制度迄、どちらかと言うと人の属性を基に組織内の序列を作る傾向があります。あの人は年齢も上で優秀だからこの組織で高い地位、高い処遇を得ていて当然だという議論が受け入れられる風土であると言えます。
役割の測定の概念が発展して来たアメリカを見てみると、状況は全く異なります。組織内での地位・処遇の高さが、属人的な要素で決まることには大きな抵抗があります。人種の坩堝と言われるアメリカにおいては雇用の機会そして雇用条件が属人的な要素で行われることに対する法的規制も厳しいものがあります。AさんとBさんが同じ会社で同じ仕事をしているときに給与に差がある場合、会社として合理的な説明をする責任があります。年齢・性別・人種が違うからという理由は通りません。その場合は即訴訟となるでしょうし、会社が敗訴することは目に見えています。
合理的な説明要素とは何でしょうか?それは仕事の内容即ち役割です。これは二つの意味で大変重要です。一つは役割が明確になっている必要があるということと、二つ目は組織内の序列とその処遇条件が、属人的要素ではなく役割によって決まるという処遇の大原則を意味するからです。AさんとBさんに処遇の差がある場合、その合理的根拠は役割の違いとその役割をどの程度果たしたかによる差なのです。どちらかが能力が高いという一見合理的に思える根拠は、その能力が役割に基づかない限り意味のないものであることを、この大原則は意味しているのです。人はそれぞれ様々な優れた能力を持ちあらゆる可能性を秘めており、決してその能力により序列出来るものではありません。しかし役割は組織の中において、明確に位置付けられるものです。
(2)役割に序列をつける方法の変遷
ではどうやって役割に差・序列をつけるのか問うのが測定のテーマです。役割の明確化は前章まで説明して来た内容でご理解いただいていると思います。測定の手法に関してはアメリカにおいても試行錯誤の連続でした。当初は直感的なやり方で測定されていました。例えばランキング法(Ranking)とかクラシフィケーション法(Classification)など単純に組織内で大きなもの・重要なものから並べ、その序列を処遇条件を決める根拠にして行くやり方です。
ところが組織の規模が大きくなるにつれ、単純な比較では収まりきらない仕事が多数出て来ます。こうなるともう少し仕事の中身を見ない限り序列付けはできません。そこで出てきたのがファクター・コンパリゾン法(Factor Comparison)です。これは仕事の要素を分解して、それぞれを比較して総合的な序列を決めるものです。これだと多少分析的になるのですが、要素が増えるに従い総合的な序列をつけるときにそれぞれの要素の重要度を加味するなど複雑になり過ぎてしまい、実用的ではありませんでした。
その試行錯誤の結果、今の段階で完成形と言われるのがポイント・レイティング法(Point Rating)です。詳細は次節以降に譲りますが、分析的かつシステマティックなやり方で仕事の序列がある程度機械的にできるように工夫されたものです。これにより処遇決定の合理性は一気に高まり、大規模組織における仕事に基づく人事制度の設計が大幅に進んだと言えます。
アメリカでの展開を見ると、戦後の成長期にこの方法が浸透し、1970/80年代には人事制度の基本として定着し、組織設計・人事制度設計する際の当たり前のやり方となってしまいました。その後80年代後半に入り日本の躍進、アメリカの相対的な衰退の時期に、新しいやり方を模索した結果、コンピテンシー(Competency)に基づく人事処遇制度などが開発されています。これはある意味では日本の職能資格制度の輸入版とも言えます。ところが日本ではそれを新しい制度として逆輸入しています。従来からヒトを中心とした運用を行ってきた日本にとって、見かけは新しいが運用が変わらないという都合のいい考えでしたから、持て囃されているというのが実態です。
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秋山 健一郎(アキヤマ ケンイチロウ) 株式会社みのり経営研究所 代表取締役
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