経営者は人事部に何を期待しているか?【第1回】
今回は2014年『月刊 人事マネジメント』に掲載した記事をご紹介します。「経営者は人事部に何を期待しているか?」というテーマで連載したものですが、第1回目のテーマは「人事部よ、経営に貢献しよう」でした。現在当サイトのコラムに毎週金曜日に掲載している「中小企業の経営者向けの人事戦略」と異なり、ここでは主に規模の大きな企業の人事部の仕事に関して触れています。昨今は「人的資本経営」が叫ばれていますので、「経営戦略と人事戦略の一体化」ということが当たり前のことのように言われていますが、実態はどうでしょうか?10年前に書いた内容ですが、人事のあり方についてこれから人事が変わっていくべき方向を考える上で参考になれば幸いです。
「経営者は人事部に何を期待しているか?」
【第1回】人事部よ、経営に貢献しよう
大企業の人事部には人事の専門家がたくさんいます。専門家の特徴は自分たちの知識で会社の出来事は全て説明がつくと信じる傾向があることです。説明は理路整然として整合性が取れています。それでも会社の業績が改善しないとしたら、専門家はどうするでしょうか?それは人事の仕事ではなく、うまく行かないのは現場の管理職あるいは社員の力不足が原因であると考えがちになることです。自分たちの知識とそれに基づく判断が間違っているとは考えない傾向があります。経営者含め人事の専門外の人たちは、人事の土俵で議論している以上納得せざる得ない状況に立たされ、議論は不完全燃焼で終わることが多いのです。
私自身総合商社や自動車会社で現場での仕事を中心に社会経験を積んできた人間として、この状況は大変不思議なものでした。「現場が理解できない人事の論理がある」!幸いなことに私は人事専門のコンサルティング会社から声を掛けられ、そこが経営と一体化した人事を標榜していることを知り、その道に入ることになりました。そこでの経験を基に、またその後私自身が人事部長の役割も一通りやらせて頂いたことを通じて、経営の現場と乖離した人事の論理をつぶさに検討する機会を得ることができました。
人事の役割は、「一人ひとりの社員が、長期にわたり前向きに仕事に向かい、会社の使命実現に向けて貢献する環境を整えること」と言えます。会社は人で成り立っています。会社の業績が振るわなければ、その責任の一端は人事部にあるのは明らかです。この自覚があれば、今の会社の状態を「人事的な視点から説明が出来ればことは済む」では片づけられません。場合によっては今まで持っていた知識を放り出してでも、事態の改善を画策しなければならない。それが人事の専門家としてのあるべき姿だと思います。
企業経営者からこんな悩みを聞くことがあります。「社員からの不平・不満が多く、事態は一向に改善しない。人事部は色々説明してくれるが、何をやっているか良く分からない」。これに対して多くの人事の専門家は「経営者は人事の仕事を良く理解しておらず、現場の声だけを聴いて簡単な解決策を求めて来る」と不満を感じる傾向にあります。お互いそれぞれが見聞きしたものだけを信じて事態を理解しようとしているので、水掛け論になり議論は平行線をたどります。こんな時人事の専門家から、社員の不平・不満が具体的に何に由来しているのか調べてみましょうという提案があれば事態は一変します。こんな初歩的な一歩が平行線をたどっている議論に解決策を見出し、更なるすれ違いを防ぐ糸口になります。
人事の問題を議論するとき大切なのは、人事制度が会社を経営して行くうえでどのような位置付けになっているかを明確にし、人事が扱う問題の範囲を企業経営全体の中で明確に位置付けておくことです。これは人事の仕事を経営の重要な一つの分野として位置づけることを意味し、人事が経営そのものを「人を中心として」支えていくことを意味します。社員の不満解消には制度の手直しより、全く別の視点の解決策があるかも知れません。そのためには人事に携わっている社員が、経営全般に関して議論する用意が無くてはなりません。
図1をご覧ください。
これは我々がみのりコンセプトと呼ぶ企業理念・経営戦略を支える総合的人的資源マネジメントの概念図です。従来日本の企業は人事管理を事業経営とは切り離して考える傾向にありました。そのため人事の世界が事業の現場から離れがちで、議論が一方通行になりがちでした。相対評価などが典型的な例です。もちろん従来の人事管理の考え方で良いところはたくさんありますが、経営を支える人事という視点からは大きく欠けるものがあると言わざるを得ませんでした。このコンセプトの特徴は中心に役割があり、それが企業理念・組織構造・事業計画と密接に繋がっていることを表しています。従来からある評価制度・給与制度も役割を中心につながっているのがご覧頂けると思います。さらにこの概念図は短期的な年度計画から評価・報酬への流れだけでなく、長期的な人材育成の方向付けも含んだものであることです。
昨今の事業環境の大きな変化の中で、どの企業でも「人材」の獲得・育成ということが大きなテーマになっています。このような課題に取り組むときも、「採用」とか「研修」とか従来の人事の仕事の枠組みでとらえようとする限り、経営者が求める真の人材の獲得・育成に対する的確な対応策を提供することは難しくなります。それではどのような位置付けで、どのような対処の仕方が可能か、これから6回の連載で説明して行こうと考えています。これは経営が求める人事の姿であると同時に、人事の専門家が狭い人事の世界から飛び出して、経営の一翼を担う経営人材として飛躍することも意味します。
大企業と異なり、中小企業は規模的に人員の余裕が無いことが幸いし、人事だけをやっているという人は少ないのが現実です。我々がお手伝いする会社でも人事の方は、職務経験も現在の仕事も人事一筋という方は少なく、様々な経験を持たれています。従って我々の「現場と直結した人事」という考え方が比較的受け入れやすいようです。待った無しの状況で目の前の重要問題に取り組んで行かざるを得ない状況で、人事の仕事の範囲を限定してはやっていられない現実を反映していると言えます。人事の専門家が経営に貢献するカギは何か、これからの人事に求められるものとして、説明をしていきたいと思います。
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秋山 健一郎(アキヤマ ケンイチロウ) 株式会社みのり経営研究所 代表取締役
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