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病院・クリニックにおける人事制度構築のポイント

病院・クリニックにおける人事制度構築のポイント
本コラムでは、病院・クリニックにおける人事制度を見直すためのポイントや基本ステップを解説していく。


病院・クリニックの組織・人材上の現状

まず、病院・クリニックの人事制度導入は、企業と比較すると難易度が非常に高いことが伺える。

筆者は、民間企業や医療機関における人事制度導入コンサルティングを行ってきたが、
特に、医療機関(病院・クリニック)の人事制度導入~運用に関しては、様々な問題が生じている。

はじめに、組織・人材上における問題として、次の2点が挙げられる。

(1)病院経営のマネジメント体制
大前提として、病院の経営者は医師免許が必要となる。
そのため、企業と比較してマネジメント・ガバナンス等が不十分となるケースが見受けられる。
加えて、現場マネージャー職についても、プレイヤー気質が強い傾向にあるため
本来担うべき、マネジメントが疎かとなり、組織・人材周りの問題が発生している。
(2)職種間の連携
組織規模が大きくなるにつれ、組織間の連携が重要となるものの、
病院=専門職種の集団であるため、専門性を磨いていくことが優先となり、
組織運営や部下育成といった意識が低下する傾向にある。
また、業界特性から雇用の流動性も高いため、より難易度が増している現状もある。

このように病院・クリニックの職員を取り巻く問題は、多岐に渡る。


今後の組織・人材における改革ポイント

様々な問題がある中で、病院・クリニックは今後どうあるべきか。

厚生労働省から発表された「保健医療のパラダイムシフト」において、
組織・人材におけるポイントとして、次の2点があげられる。

1.次世代型の保険医療人材の育成
(1)超高齢化社会を見据え、あらゆる医療従事者が、質の高い保健医療の提供ができるようにすることが求められる。
(2)複数の疾患を有する患者を総合的に診る能力や、予防、公衆衛生、コミュニケーション、マネジメントに関する能力を有する医師の養成や保健医療と福祉の多職種連携を前提とした人材育成を推進する必要がある。

2.役割・職務等級制度への変革
(1)医療の質を改善していくためには、個人の能力発揮からチームや個人における職務を明らかにし、その職務に対する発揮度合いを重視することが重要になる。
(2)キュア(治す)からケア(治し支える)といった方針転換により、多職種連携および個人における役割・職務の明確化を通じた生産性向上が求められる。

そのため、上記を推進するためには、
本コラムの主題である「人事制度」の見直しおよび適正な運用が重要となってくる。


人事制度構築の基本ステップ

ここから、人事制度構築の基本ステップを解説する。
基本ステップとして、次の切り口を順に見ていく。
(1)求める職員像・人事ポリシー (2)等級制度 (3)評価制度 (4)賃金制度

(1)求める職員像・人事ポリシー
人事制度を見直していく上で、最も重要な要素となる。
求める職員像とは、病院・クリニックとしての理念やビジョン・患者様に対する考えを実行推進できる人材である。
大前提として、人事制度=求める職員像を創出・育成することであるため、
ここが明確でない限り、適正な人事制度を設計・運用することは難しいと考える。
そして、病院・クリニックが職員に対する考え方を明文化したものを人事ポリシーと呼ぶ。
新型コロナウイルスがもたらしたパンデミックを通じて、キャリア志向も変わってきており、
組織が目指す方向と一職員が目指す方向(キャリア志向)がマッチしなければ、人材の確保は難しい状況である。

(2)等級制度
求める職員像が明確になった上で、着手すべきは等級制度である。
組織全体として、上記求める職員像を目指していくものの、年齢や経験年数に応じて、
担うべき役割・責務が変わるのは、当たり前のことである。
等級制度では、キャリアステップ(段階)に応じた求める能力・役割・責務を整理したものである。
等級制度の設計では、次の2点がポイントとなる。
(a)役割等級制度・職務等級制度の導入
これまでは職員の能力評価・能力開発が問われていたため、「職能等級制度」が主流であったものの、
今後は、組織から求められる役割・職務の発揮度合いを評価・処遇する役割等級制度・職務等級制度の変革へ
見直すことも検討すべきテーマの1つである。
(b)等級定義の設計
等級区分(職能・役割・職務等級制度)に応じて、等級定義を設計する。
ただし、等級区分問わず、業界特性上経験年数に応じた能力・スキルを適正に判断することは必要となってくるため、
日本看護協会から発信されている「クリニカルラダー」と紐づける等の職能要素を残しておくことは1つポイントとなる。

(3)評価制度
評価制度では、等級制度内で明文化された定義に基づき、評価指標を整理する。
企業であれば、MBO(目標管理制度)と行動評価をベースに整理していることが一般的であるが、
病院・クリニックにおいては、業績指標を明確にしづらいことがあるため、階層に応じて項目が異なるケースがある。
評価制度の設計では、次の2点がポイントとなる。
(a)評価項目
管理職層であれば、企業同様にMBO(目標管理制度)と行動評価といった運用方法で問題ないものの、
一般職層であれば、行動評価や理念実践度評価といった項目で評価を実施していくことも選択肢の1つである。
(b)評価指標
評価指標については、クリニカルラダーと連鎖させた内容を設定することが、妥当性の高い評価を実施することに繋がる。
加えて、全社一律の評価指標では、職種特性から評価のバラつきが生じることに繋がりかねないため、評価指標の検討時は、
現場マネージャークラスを巻き込みながら、設計することも良いポイントである。

(4)賃金制度
等級定義で定められる役割・責務の発揮度合いを評価指標で判断した上で処遇を支払っていく。
賃金制度の設計では、次の2点がポイントとなる。
(a)分配思想
人事ポリシーに基づき、賃金の分配思想を明確化していくことが重要である。
世間では、基本給であれば、年齢給、勤続給、職能給、役割給、職務給と様々な支給項目があるものの、
組織として、処遇する対象を明確にする必要がある。
また、職員の生活補償を手厚くすることを考えとして持っているのであれば、
必然的に家族・住宅手当といった諸手当の支給がなされるべきである。
(b)賃金水準
業界特性上、職種に応じて世間相場も異なるため、賃金テーブルや号俸表は職種別に設計することを推奨する。
ここでよく議論になるのが、基本給もしくは諸手当のどちらで差を設けていくのかといった内容である。
同一労同一賃金の兼ね合いから諸手当の支給は、極力減らすトレンドであるため、
個の納得感といった観点からも、可能な限り基本給で差を設けていく方を推奨する。


さいごに

病院・クリニックにおける人事制度構築のポイントについて解説したが、永続的に発展し続けるためにも、他病院・クリニックとの差別化や患者から選ばれ続けることが必要である。

そのためには、病院・クリニックに勤める人材の質が重要となってくる。

ぜひ、時代環境の変化に応じた職員を取り巻く人事制度の見直しについても重要な経営課題の1つであるため、前向きな検討をお願いしたい。


※本コラムは茂呂が、タナベコンサルティングの経営者・人事部門のためのHR情報サイトにて連載している記事を転載したものです。

【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部 チーフマネジャー
茂呂 駿佑

「企業と社員の成長をかなえることを目標とし、企業理念の浸透と全社員の『物』『心』両面の幸せを実現する」をモットーとし、中小・中堅企業向けの人事制度構築や教育制度構築に従事。
また、研修での指導・コーディネーターにも携わり、中堅・若手・新入社員の成長を支援している。

主な実績
・中堅卸売業:人事制度再構築コンサルティング
・中堅卸売業:業務改善コンサルティング
・中堅製造業:企業内大学設立支援コンサルティング
・中堅製造業:中期経営計画策定コンサルティング
・中堅建設業:教育体系構築コンサルティング

  • 経営戦略・経営管理
  • モチベーション・組織活性化
  • 人材採用
  • 人事考課・目標管理
  • キャリア開発

創業60年以上 約200業種 15,000社のコンサルティング実績
企業を救い、元気にする。皆様に提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

強い組織を実現する最適な人づくりを。
企業において最も大切な人的資源。どのように育て、どのように活性化させていくべきなのか。
企業の特色や風土、文化に合わせ、組織における人材育成、人材活躍に関わる課題をトータルで解決します。

タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部(タナベコンサルティング コンサルティングジギョウブ) コンサルタント

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