業績と連動した成長を支える人事制度構築のポイント
業績と連動した成長を支える人事制度構築のポイント
人事制度の考え方
人事制度とその運用は企業風土をつくる源泉となります。良い風土も、悪い風土も人的管理やマネジメントを通じて、ゆっくりと確実に染み渡っていきます。この人的資本管理の質の悪い所は、多少だましだまし使っても短期的な経営が成り立つことです。しかし、それでは中長期的な企業の存続はありえません。ましてや成長、発展などはありえないのです。
企業活動を「理念実現」に向かうマラソンに例えると、そのゴールは中長期の目標である「業績向上」であり、ランナーは「社員1人ひとり」と見ることができます。
ランナーを鍛えても、走る環境が悪ければ目的地にはたどり着けません。また逆に、走る環境だけを整えても、ランナーに走り切る力が足りなければ、目的地にはたどり着けません。
「走る環境整備=企業風土改善」と「ランナー強化=社員教育・採用」の両輪が回って、初めて企業の業績向上につながるのです。
「生産性なくして、分配なし」を実践する制度設計
人事制度とは従業員を評価(査定)して、従業員の処遇を決めるだけのものと考えられる方もいます。これも重要な要素ではありますが、実はそれ以上に従業員を教育して成長させていくといった側面がより大切になります。そのために現状の実力や能力を把握して、今後成長するためにはどのような能力が必要で、どのような事に取り組めば良いのかを明確にし、本人にも自覚してもらう必要があります。
また、企業にとっては分配原資に限りがあり、前述の通り評価(査定)をして、成果を上げた従業員とそうではない従業員には差をつけて分配する仕組みが必要になります。正しい差をつけることが公平ということにもなります。
すなわち「生産性なくして分配なし」の考え方です。これを無視して、やってもやらなくても平等に分配し続けると、業績が良い時には何とかしのげますが、業績が悪くなってくると、人件費が経営に重くのしかかり、コントロールできなくなります。
無秩序に給与upして人件費が重たくなったA社の事例
若手にも活躍の場を与えていくことを重視して、抜擢人事や早期の昇進が出来る仕組みを構築したA社ですが、予算の範囲内で人事評価することが出来ておらず、マネジメントが行き届いていない状態となっていました。
また、運用ルールも明文化出来ておらず、感覚的に昇給や昇進をさせていくといった状況が継続されていました。
さらに、若手だけならそれでもコントロール出来なくもありませんが、役員や管理職でさえも業績と報酬の連動がほとんどなく、基本的には賃金が上昇していく状態が続いていました。その結果、人件費と付加価値のバランスが大きく崩れ、経営的にも苦しくなってきました。
本来であれば、全社・部門の人件費の総額予算を上回るような昇給・昇格の評価がなされた際に、調整として取り下げを行うなどの調整会(仮)を設けて、人件費をコントロールする必要がありますが、A社ではそれが出来ていませんでした。
A社の人事制度見直しのポイント
見直しのポイントは以下の3点です。
1.現在運用している人事制度において、実力がなく・活躍していない社員であっても昇進・昇給している所を改善します。
具体的には評価基準を明確にして、正しい評価を行い、それを昇進・昇給にも連動させます。
例えば、5段階評価で『2』を取れば、『不合格』という基準であることを明文化して、「合格」になるには何が必要で、
次回までにはどうするかを本人にもフィードバックしていきます。そのうえで、若手社員であれば多少昇給させますが、
合格点である「3」以上の評価を取っている従業員とは昇給でも差をつけていきます。『不合格』基準の従業員が
『この程度でも給与は上がる』といった考えを生みかねないため、教育的観点からも見直しをかけていきます。
2.役員・管理職の報酬(賃金)を全社・自部門の業績と連動させます。
業務に給与がついているのではなく、業績に給与がつくことで業績責任が醸成され、『仕事をした』から評価されるのでは
なく、『成果を上げた』から評価されるという一つ上の視点で運用がされることが期待されます。
役員だけではなく、管理職にも業績責任の考え方が醸成されていくと、高付加価値・全社生産性・コスト意識などの業績意識を
向上させるための「仕組み化」と自ら考える自立性の向上も期待されます。
3.予算の範囲内で人件費をコントロールする仕組みを導入し、マネジメントを機能させます。
人事制度の再構築に加えて、運用のルールを明文化し、正しく運用し、モニタリングを実施することで、
企業成長を支える人事制度へと転換するとともに、業績・予算と人件費が正しく機能して経営も安定します。
さいごに
人事制度(特に賃金・評価制度)は従業員にとっては、自身の生活やライフプランを検討する大切な経済的報酬であり、評価されることは精神的な報酬にも繋がる重要なものです。一方で企業にとっては、人的資本管理の考え方からは非常に大切なものであるものの、人件費そのものはコストの要素もあり、分配のバランスが企業経営に大きな影響を与えます。
人事制度は従業員のパフォーマンス向上、会社業績の向上、そして総合的な企業成長を促進させるものでなければ、本来の目的を達成できません。自社の人事制度がこれらの条件を満たしているかをこの機会に確認してみてください。
※本コラムは森松が、タナベコンサルティングの経営者・人事部門のためのHR情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
エグゼクティブパートナー 新潟支社長
森松 貞治
外資系製薬会社にてマーケティング分析及び臨床試験によるプロトコール(治療指針)製作担当を経て、当社に入社。企業の成長発展のためのビジョン構築・中期経営計画の策定・新規事業・新商品開発を得意とする。また、社内風土改革や社員教育も数多く手掛け、親身なコンサルティングで多くのファンを持つ。
主な実績
・中堅建設業にて中期経営計画の策定、次世代幹部育成、経営マネジメントシステムの構築
・上場食品製造業の人事処遇制度改定支援、組織・マネジメントシステム再構築
・大手印刷業のビジョン・中期経営計画の策定、新規事業・新商品開発及び推進支援
・中堅企業の企業内大学(アカデミー)構築支援
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- 人材採用
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創業60年以上 約200業種 15,000社のコンサルティング実績
企業を救い、元気にする。皆様に提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。
強い組織を実現する最適な人づくりを。
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企業の特色や風土、文化に合わせ、組織における人材育成、人材活躍に関わる課題をトータルで解決します。
タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部(タナベコンサルティング コンサルティングジギョウブ) コンサルタント
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