「働き方改革」時代の人事戦略~三つの視点で人事を変革させる~
「働き方改革」時代の人事戦略~三つの視点で人事を変革させる~
「働き方改革」が必要とされる背景
令和改元を前に、政府肝いりの「働き方改革関連法」の一部が2019年4月1日に施行された。その骨子は、内閣官房に設置された「働き方改革推進会議」が、非正規社員の処遇改善や賃金引き上げ、長時間労働の是正、転職・再就職支援、柔軟な働き方の環境整備、多様な人材の活躍など九つの分野に言及した「働き方改革実行計画」である。
なかなかメスを入れられなかった、「同一労働同一賃金の実現」や「長時間労働の是正」に踏み込んだ点において画期的と評価される改革だが、企業現場へいかに浸透させ、働く人々の暮らしが良くなる実感につなげていけるかが、これからの課題である。
この大改革の大義は「一億総活躍社会」の実現とされている。「『働き方改革』の目指すもの」は次の通りだ。
――我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。――
(厚生労働省ホームページ)
少子高齢化の進行により、日本の生産年齢人口は1995年の国勢調査をピークに、また総人口は2008年をピークに減少に転じている。高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は2015年時点で26.6%と、すでに4人に1人が高齢者だが、2020年には30%を超え、2065年には38.4%と推計されている。(【図表】)
出典:総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(各年10月1日現在、出生中位・死亡中位)、厚生労働省「人口動態統計」
経済活動の側面から見ると、急速な労働力不足が見込まれ、一般消費が先細る一方で、医療サービスなどの需要が高まることが予想され、働き方改革を通じて労働生産性と賃金を上げ、生産と消費の双方を支えていくことが重要な課題である。
人事制度改革は時流に合った経営課題
そんな背景の中、コンサルティングの現場において、人事領域の改善・改革のニーズが高まっている。法改正とその対応において“待ったなし”の大企業に比して、2020年4月まで適用に猶予があり、様子見の段階にある中小企業から、人事制度見直しの引き合いが増えているのである。
人事領域での働き方改革に連動するキーワードは、「生産性」「多様化」「柔軟化」が代表的だが、それぞれに企業の施策が考えられる。
(1)生産性
長時間労働や処遇格差の是正には、付加価値創造のために時間の配分方法を変え、生産性を向上させることが欠かせない。
【主な取り組み】
労働時間管理・指導、業務改善・効率化、組織・事業デザインの見直しなど。
(2)多様化
多様な人材同士が互いの事情を理解し、助け合える職場づくりが求められる。
【主な取り組み】
育児と仕事の両立、介護・傷病と仕事の両立、均等待遇など。
(3)柔軟化
ケア活動に従事しながら労働に参加したり、通勤の負担を減らして労働の質を高めたりするため、働く時間や場所を柔軟にする制度を導入する。
【主な取り組み】
働く時間の柔軟化(フレックスタイム、時間単位有休)、働く場所の柔軟化(テレワーク、サテライトオフィス)、所属の柔軟化(副業の自由)など。
各社は施策に取り組む際、この三つの視点を意識するとよい。そして、改革の理念を掲げて戦略的に進めていくことを、経営と現場が共有しながら実現することが重要である。
人事制度の見直し4タイプ
前述の三つの視点を包含し、処遇と結び付けていくには「人事制度の見直し」が不可欠である。具体的には次の4タイプ。共通点は、人事制度を見直す中で働き方を改革するところだ。
(1)「業務改善×意識改革」による生産性評価と高分配
時間分析と仕事の棚卸しを事前に徹底した上で、残業ゼロ改革を断行し、残業で稼ぐ風土から、効率化による収益向上とその分配で社員が潤う体制に転換する。
(2)「ワンオンワンミーティング(上司との頻繁な面談)×シンプルレーティング(評価)」による時間生産性の向上
管理職クラスの時間配分を変える。具体的には、プレーヤー部分を減らし、マネジャーとして部下を支援する時間を増やす。部下の行動改革を徹底し、複雑な評価を必要としない、納得性の高い人事制度へシフトする。
(3)「真の直間比率×役割分担の徹底」による同一労働同一賃金へのシフト
ライン(直接部門の人材)の間接業務を全てスタッフ(間接部門の人材)へ移管し、ラインが直接業務に集中できる体制を構築。同時に評価内容を大幅に改革し、収益性の改善と高分配を実現する。
(4)「選択型処遇×チャレンジ風土」による多様性人事
簡単に言えば、ハイリスク・ハイリターン型からローリスク・ローリターン型までの選択肢を設け、それぞれの働き方に挑戦できる仕組みと、失敗しても再チャレンジできる風土を醸成することにより、ライフイベントを想定しながら自由に働ける組織を構築する。
働き方改革は、企業における生産性向上と働く人々の生活向上が両立できなければ、成功とは言えない。法改正への対応に重点を置き過ぎ、現場にやらされ感をもたらす施策では成果につながらず、改革にもならない。
つまり、「会社の幸せ」と「個人の幸せ」を同時に追求したときの“接点”が、働き方改革のあるべき姿なのだ。本来、「無駄を減らして顧客に喜ばれる仕事をしたい」という社員の願いと、企業の成果や生産性は直結する。働き方を変えることにより、企業も個人も幸せになる道は必ずある。自社の改革の参考にしていただきたい。
※本コラムは松本が、タナベコンサルティングの経営者・人事部門のためのHR情報サイト、TCG reviewにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部 ゼネラルパートナー
松本 宗家
東証一部上場の商社にて建設資材の販売、施工管理担当後、コンサルティングファームを経て、当社へ入社。ブランディング研究会、HR研究会の立ち上げに従事。クライアントの立場になって本気で現場優先のコンサルティングを実践している。企業はヒトなりの理念のもと「経営の視点から人事を診る」ことで人事を経営の根幹として体系的に構築することを得意とする。専門分野は、人事領域全般であり、組織戦略、トータル人事システム構築、人材開発プログラム構築(社内アカデミー構築支援)など。中小企業診断士。
主な実績
・上場建設業の人事制度構築支援
・上場製造業の次世代幹部育成・ジュニアボード運営支援
・中堅企業の中期ビジョン策定
・卸売業、サービス業、建設業、製造業の社内アカデミー構築& 人材育成支援
- 経営戦略・経営管理
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創業60年以上 約200業種 15,000社のコンサルティング実績
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タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部(タナベコンサルティング コンサルティングジギョウブ) コンサルタント
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