部下や後輩との面談における効果的なフィードバック
部下や後輩との面談における効果的なフィードバック
面談実施の目的を押さえ、会社・上司・部下にとって有意義な時間とする
フィードバック面談当日に向け、日々の信頼関係づくりがカギ
フィードバック面談とは
人事評価の結果を上司が部下に伝えるフィードバック面談は、多くの場合、評価期間に合わせて半年に一度や1年に一度実施されている。人事評価と連動した面談のみならず、日々の業務やプロジェクト単位で、不定期かつ頻度を高めて実施する企業が増えてきた印象がある。しかし、その実施方法やスタイルは現場任せになっているため、評価者(面談者)が何を伝え、どのように時間を活用しているのか、会社としてコントロールできていないため、何か効果的な運用方法は無いかという相談が多い。
以下は、企業を訪問するなかで面談者からよく聞く評価フィードバック面談の実態である。
①結果が出た評価シートを部下に開示し、質問があれば回答する
②評価の一項目ずつ点数を伝えていく
③毎回の定例行事であり、やらなければならないため時間をつくる
④「まぁ、頑張ろう」と話をする程度
⑤忙しいため部下との時間が合わず、評価結果のメールを送る
皆さんのフィードバック面談はいかがだろうか。面談の目的が正しく伝わっていないために、手段が先行してはいないだろうか。部下に対して、評価シートに書かれた結果を一方的に伝えただけでは、"評価"が形骸化することは避けられない。部下自身が課題や今後の目標・方向性を見出していくことこそ、フィードバック面談の価値である。評価結果を受け止め、部下が着実にステップアップしていくためには、会社や組織・チームが期待していることやそのギャップを伝え、上司自らが面談の時間を有効活用していくことが重要である。
押さえるべきポイント
ここからは、事前・当日・事後の流れに沿ってフィードバック面談のポイントをお伝えする。それぞれのポイントを押さえることで、効果的な時間となるだろう。
【事前】
1.部下との間に心理的安全性・信頼関係を確保する
いざ「面談をします」と伝えた際、皆さんの部下の様子はいかがだろうか。待ってました!と前向きなメンバーもいるだろうが、一般的に多いのが、「何を言われるのだろうか」と怯える目をしたメンバーや、「またこの時期か」と何だか面倒くさそうなメンバーである。1対1で話ができる機会を人材育成に活用しない手はない。昨今当たり前に言われるようになっている「心理的安全性」を確保することは、面談でお互いが話しやすくなるのみならず、様々な効果をもたらす。例えば、集中して仕事にのめり込むことができたり、挑戦する風土が組織に芽生えたりするのである。そのためには、日頃から上司が部下を尊重していることや、物事に対する受け取り方や反応をポジティブに演出すること、受容と共感の姿勢を示すことなど、上司自身が意識的に行動を変革していく必要があるだろう。
2.部下の働きぶりをレコーディングし、日々の様子を掴んでおく
せっかくお互いが面と向かって話ができるチャンスである。評価シートに書かれた事実のみを淡々と伝えるのではもったいない。日々の様子や頑張り、評価シートに表れきれていない要素を上司の口から上司の言葉で伝えてほしい。そのためにオススメなのが、レコーディングである。週単位・月単位で部下を観察することで、本人の傾向や個別の性格特性が見えてくる。この要素が人材育成のエッセンスに繋がるのである。ぜひ、良かった点・改善すべき点を観察・レコーディングするとともに、それらに対する対策も整理いただきたい。
3.面談の事前準備を行う
面談のスケジュールを確保した後~面談当日まで、皆さんはどのような準備をされているだろうか。本人の評価結果を確認することはもちろんのこと、面談当日のゴール感や面談の目的を今一度明確にしていただきたい。どのような流れで話をすすめ、何を伝えきり、本人に何を自覚してもらうのか、大まかな流れをイメージする。その中で、部下本人の気持ちやテンション、どうモチベーションを高めていくか想像できるとなお良い。準備もせずに「さて、今日は何だったかな」とスタートするほど頼りないものはない。部下一人ひとりに真摯に向き合うためにも時間を確保いただきたい。
【当日】
1.雰囲気のコントロールは上司から
1対1の面談はお互いに緊張する時間である。いきなり本題から入らずに、アイスブレイクから行うのがオススメである。日頃の話や天気、趣味の話など、気軽に話ができる内容から始めることである。その際、肯定的な返事(はい、そうですね、そう思います)を引き出すことでその後の本題が良い雰囲気で進められるだろう。また、面談の最後には部下本人のモチベーションが高まり、「頑張ろう」と思えるように導く必要がある。面談時間が30分であれば、その30分の中で部下の気持ちやモチベーションがどう変化しているのか、上司はアンテナを張りながら会話を展開いただきたい。
2.聴くが8割の姿勢で臨む
フィードバック面談においては、結果や事実を正しく伝えきることが求められる。しかし、その結果や目指すべき方向性に対して、部下本人がどう感じ、どう受け止めたのかが非常に重要である。なぜなら、一方的な押しつけでは人は動かないからである。そのために上司に意識いただきたいのが、聴く時間を8割とすることである。フィードバック面談の性質上、上司が一方的に話をしがちであるが、部下の話を引き出し真剣に聴くことは、この時間の何よりの価値である。話の内容が良い悪いではなく事実をあるがままに受け止め、やわらかい表情であいづちを打ちながら、時にオープンクエスチョンで関心の姿勢を示すことで、部下自ら発言をするようになるだろう。面談は一つのコミュニケーションツールである。お互いが話をすることでより良い時間となるのである。
【事後】
1.フィードバック面談は当日面談して終了ではない
定期的に声をかけ、進捗を確認することが部下育成への近道である。半年や1年に一度向き合う時間を持ったあと、これと言って話をする時間を確保していないケースは多い。部下のモチベーションを高めて面談を終了した後、細やかなフォローや接点を持つことで部下との信頼関係へ繋げることが理想である。
フィードバック面談における事例
私自身は関西エリアを担当しているため、今回は大阪にある会社(A社)の事例を紹介する。A社は、社員数約500名で複数拠点を構える製造業である。課題として感じられていたことは3点。
①シフト制で24時間製造体制のため、部下全員を上司が見ることができていない
②上司一人当たりの担当部下人数が多く、観察のムラがある
③上司の面談スキルが不明(何をすればよいかわかっていない様子)
社長・経営幹部に話を伺うと、人事評価制度そのものの納得性が低く、フィードバック面談が意味を成していないことが背景にあると考えられた。
行った対策としては、評価制度の再構築と、上司と部下のコミュニケーションパイプの見直しである。 評価制度の再構築は、社員の納得性が高まるよう現場のメンバーを巻きこみながらあるべき姿を設定し、その姿を適切に評価できるよう、評価の視点を時間をかけて設計した。
上司と部下のコミュニケーションパイプ構築は、レコーディングシート(観察メモ)の習慣化を目指し、上司が部下を観察することを全社活動とした。評価委員会にて、毎月5日に1か月分のレコーディングシートを回収し、メモの数・良い点改善点の傾向分析・各部門における提出率の分析を行っている。結果は毎月のリーダー会議にて共有し、レコーディングメモ数をゲームのように競わせている。(※数が多い=よく部下を観察している とA社では定義している)
この取り組みにより、上司は部下を観察するために各現場へ足を運び、日々の小さなコミュニケーションが増えた。部下は上司が何を見ているのか(観察しているのか)興味を示すようになり、あるべき姿を意識したふるまいができつつある。上記課題でも示したように、24時間体制であり人数が多い点は、人事評価者のほかに、レコーディングサポーター(チームメンバーの頑張りや気づきを積極的に上司に報告する人)を任命し、評価者がその場にいなくても情報が上がってくる仕組みを導入することで解消している。
これら6か月間のレコーディング活動により、半年に一度の人事評価の際には全社で4,000件近い情報が集まっている。その情報を参考に人事評価を行うため、部下の納得性が高まっている。そのため、フィードバック面談は、評価結果に対する不満を聞く場ではなく、これからどうしたらよいかという未来に向けた目線のすり合わせの時間となっている。
レコーディングシート+評価結果をどのように面談で活用するかについては、半年に一度の評価者研修にて情報共有を行うよう年間計画に組み込んだ(1回あたり6時間程度)。日頃、評価者同士で評価についての話をする機会は少なく、自身の上司としてのあり方を見つめ直す時間として活用されている。
仕組みや機会の提供により、当初の課題は解決傾向にある。その一方で、日々問題は起こり課題は変化する。上司と部下のコミュニケーションを強化すると同様に、評価委員会と現場(特に評価者)のコミュニケーション強化がA社の引き続きの取り組みポイントである。
※本コラムは永易が、タナベコンサルティングの経営者・人事部門のためのHR情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部
HR大阪本部 チーフコンサルタント
永易 杏菜
社員にとって働きやすい組織、長く働き、貢献できる組織づくりをテーマに、多くの中小・中堅企業向けの人事制度構築に従事。クライアント視点での丁寧なコンサルティングで信頼を得ている。また、セミナー・研修での指導・コーディネーターにも携わり、中堅・若手・新入社員の成長を支援している。
主な実績
中堅製造業:人事制度再構築コンサルティング
中堅介護福祉業:人事制度再構築コンサルティング
中堅医薬品製造業:人事制度再構築コンサルティング
中小食品製造業:人事制度再構築コンサルティング
中小卸売業:人事制度再構築コンサルティング
中堅菓子製造業:ビジョン策定支援コンサルティング
中堅建設資材製造業:ジュニアボードコンサルティング
中小サービス業:社内アカデミー設立支援コンサルティング
中小製造業:インナーブランディングコンサルティング
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タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部(タナベコンサルティング コンサルティングジギョウブ) コンサルタント
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