デリバラブル
デリバラブルとは?
「デリバラブル」(deliverable)とは、英語のdeliver(=届ける、もたらす)+able(=できる)の組み合わせが語源で、直訳すると「提供できる、もたらすことができる」という意味です。人材マネジメントなどの領域において、個人や組織が誰かに何かを提供して役に立つことを、あるいは提供する価値そのものを「デリバラブル」と表現します。仕事のあり方や存在意義について考える上で、「何をしているか」という行動の内容ではなく、「誰に、何をもたらしているか」「どのように役に立っているか」――提供価値や果たす役割の内容を問う「デリバラブル」の視点はきわめて重要です。
仕事や組織のあり方を定義する新しい視点
「誰にどんな価値を提供できるか」に注目
これからの人材マネジメント(HRM)はどのような方向に向かうのか、そのけん引役を担う人事部はどうあるべきか――その問いに答えるための一つの視点として、「デリバラブル」という考え方が注目されています。従来のHRMが、人材採用や育成、評価、処遇といった個別の活動を重視していたのに対し、「デリバラブル」志向のHRMは、個々の活動よりも、HRM全体として果たすべき役割や提供すべき価値は何かという観点から、HRMやそれを推進する人事部門のあり方を構想するのが特徴です。
「デリバラブル」の考え方を理解するために対置されるのが、「ドゥアブル」(doable)という言葉です。これはdo(=する)+able(=できる)の組み合わせで、「やろうと思えば(その結果、何がもたらされるかはさておき)、実際に行為としてできる」ことを表します。東京大学准教授の中原淳さんは、このドゥアブルとの対比を通じて、デリバラブルの考え方を次のように分かりやすく説明しています。
「あなたの仕事は何ですか」と問われたとき、たとえば「開発研究です」「調査をやっています」と答えるのがドゥアブル。仕事を、自分に「できること」として捉えているからです。これに対して、デリバラブルの視点から先の質問に答えるとすると、「顧客の問題解決につながる開発研究をしています」「現場の役に立つような調査を実施しています」というふうになります。「何ができるか」という行為の内容ではなく、その行為の結果、「誰に、何をもたらすことができるのか」がデリバラブル。仕事を通じて何らかの価値をもたらす“宛先”と、その提供価値の内容が問われるわけです。
戦略と成果を結びつけるHRMのあり方を考える目的のために、デリバラブルの概念を初めて提起したのは、著書『MBAの人材戦略』で知られるミシガン大学スティーブン・M・ロス・スクール・オブ・ビジネスのデイビッド・ウルリッチ教授でした。ウルリッチ教授は、人事部門があるおかげで、ライン・マネジャーや顧客、取引先などにどのようなプラスがあるかという観点から、つまり「ドゥアブル」よりも「デリバラブル」の発想によって、人事部門の機能は再定義されなければならないと述べています。それが、有名な“人事部の役割の4分類”――伝統的な業務としての「管理エキスパート」(人事制度に基づいて精密に人材を管理する)と「従業員チャンピオン」(従業員代表としてその声を経営に届け、従業員への支援を行う)、戦略的な仕事としての「戦略パートナー」(経営戦略達成に向けて人事・組織面からサポートする)と「変革エージェント」(組織・風土改革を進める)という四つの機能を示したフレームです。
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