ダウンシフターズ
ダウンシフターズとは?
「ダウンシフター」(downshifter)とは、「減速生活者」という意味です。車のギアを一段下げて減速(ダウンシフト)するように、仕事や生活のペースを意識的に落として、少ない収入と少ない消費で人生の充足感を得るようなライフスタイルを実践している人々のことをいいます。ダウンシフターの出現、増加は1990年代以降、欧米を中心に世界各地で見られた傾向でした。日本でも成長至上主義や経済優先の風潮に疑問を抱く人々の間に、広がりつつあります。
広がる「あえて稼がない」という選択
ビジネスにも安定性と健全性を求めて
「ダウンシフター」という概念が最初に提示されたのは、米国の経済学者ジュリエット・B・ショアの著書『浪費するアメリカ人――なぜ要らないものまで欲しがるか』でした。ショアは同書において、1990年代後半の米国で、次のようなライフスタイルを目指す人々のことを「ダウンシフター」と呼んでいます。
〈過度な消費主義から抜け出し、もっと余暇を持ち、スケジュールのバランスをとり、もっとゆっくりとしたペースで生活し、子供ともっと多くの時間を過ごし、もっと意義のある仕事をし、彼らのもっとも深い価値観にまさに合った日々を過ごすことを選んでいる〉(前掲書より)
米国にはいわゆる“ハッピー・リタイアメント”のカルチャーがあり、「稼げるときに稼げるだけ稼いで、あとは悠々自適の生活を送るのが勝ち組」だと考える人も少なくありません。しかしダウンシフターの選択と、こうしたハッピー・リタイアメントの発想とは本質的に異なるようです。ショアがダウンシフターの存在に注目した1990年代後半、米国は歴史的な株高に支えられ、好況に沸いていました。つまり彼らは、「稼げるときに稼げるだけ稼ぐ」選択肢から、「稼げるときにあえて稼がない」選択肢へシフトしたわけです。同書によると、ダウンシフターの多くは転職を経験して収入が減り、人気のレストランへ行ったり、ブランド品を買ったりする回数は少なくなったものの、彼らにとっては“価値あるギアチェンジ”だったと、ショアは述べています。
日本でも景気拡大の動きとは一線を画すかのように、ダウンシフターが静かな広がりを見せています。日本で初めてダウンシフターを名のり、その先駆者として知られる東京・池袋の居酒屋マスター、高坂勝さんは、著書『減速して生きる――ダウンシフタ―ズ』に自らの経験をまとめ、大きな反響を呼んでいます。
かつて大手百貨店のトップセールスとして活躍していた高坂さんは、30歳を過ぎて、年収600万円に達したところで突然リタイア、世界中を放浪した後に、オーガニックの食材にこだわった小さな居酒屋を開きました。その店は「忙しいだけのランチ営業はやらない」「回転率よりお客との対話」「週休2日と季節ごとの長期休業」など、独自の経営スタイルが貫かれています。高坂さんは量や規模を追いません。年収は以前の半分。それでも必要な生活費からコスト計算をし、目標売上額を決定したら、その額を決して超えないようにするのだそうです。「あえて稼がない」というダウンシフターならではの経済合理性が、そのスモール・ビジネスに安定性と健全性をもたらしているのでしょう。高坂さんの店には、彼の考えに共感する人々が毎晩のように集まってくるといいます。
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