ファブレス経営
ファブレス経営とは?
ファブレス(fabless)とは、製造や組み立ての工程・設備を自前で持たないこと。fabは「工場」を意味するfabrication facilityの略です。メーカーでありながら、自らは工場などを所有せず、独自に企画・開発した商品の製造を外部企業に委託する経営スタイルを「ファブレス経営」といいます。製造設備や人員を調達・保有するリスクを回避し、限られた経営資源を企画・開発、デザイン、マーケティングなど高付加価値分野に特化・集中できるため、特に資本力に劣るベンチャー企業などが市場に参入する場合に有効なビジネスモデルといわれます。
モノをつくらないモノづくりの新しい形
コスト負担を軽減し市場の変化にも即応
米アップルでは生産設備を保有せず、自らは商品の企画・設計に特化し、製造を中国・台湾企業に委託するというビジネスモデルをとっています。これが、同社の高収益体質の源泉として知られる「ファブレス経営」。もともと“シリコンバレー発”の経営手法で、同地に集積する半導体関連のベンチャー企業に広く採用され、発展してきました。
半導体製造業界では技術が日進月歩で向上するため、大規模な設備投資や維持費を要するわりに、製品のライフサイクルが他の業界に比べて短いというジレンマを抱えているからです。工場を作っても、減価償却する前にまた新しい製造ラインの建設を迫られる――そうしたリスクを回避するために、資金力の乏しいベンチャー企業の多くがファブレス経営を導入しています。
これはいわば“モノをつくらない新しいモノづくり”。製造を外部に委託することで、設備投資や人件費を含めた設備維持に関するコスト負担を軽減するとともに、需要の変化に応じたタイムリーな生産調整を容易にします。また、設計開発や販売などに注力できるため、小規模な人員で大胆かつスピーディーな経営戦略をとれるのも大きなメリット。現にアップルは、新製品を市場投入する際、発売直前まで設計変更を重ねた上で、一気に数百万台単位での量産にとりかかります。優れた委託先工場とのパートナーシップによるファブレス経営を選択していなければ、同社の今日はなかったでしょう。
経営のスピードアップや環境変化への柔軟な対応が求められるのは、いまやIT業界に限ったことではありません。ファブレス化のメリットに活路を求め、日本国内でも幅広い分野の企業がこれを採用しています。玩具・ゲームメーカーの任天堂もその一つ。流行の移り変わりが激しいゲーム機市場において、同社が「ニンテンドーDS」などのヒットを量産し、業界に確たる地位を築くことができたのも、ファブレス化を徹底し、資金や人材、時間などを開発に集中投入したからだといわれています。
また、食品分野でよく知られるのは、缶コーヒーが売上全体の50%以上を占める飲料メーカー、ダイドードリンコの事例です。同社は1975年の創業以来、一貫してファブレス形態での経営を追求してきました。その戦略の特徴は商品の生産を委託する一方で、経営資源を企画・開発と地域に密着した自動販売機網の拡充に集中していること。同業他社にない自販機の開発と質の高い自販機オペレーション体制の構築によって、競争力を高めています。売上全体の9割以上を、販売数や価格の安定した自販機での売上が占めるというユニークで収益性の高い同社のビジネスモデルは、ファブレス経営の可能性を示す好例といえるでしょう。
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