ネガティブ・ケイパビリティ
ネガティブ・ケイパビリティとは?
「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative capability)」とは、どうしても対処できない状況に耐える能力のこと。あるいは、容易に答えが出ない事態にも性急に事実の解明や理由を求めず、不確実さや懐疑の中にいることができる能力を指します。日本語としては「消極的能力」「消極的受容力」などと訳され、一つには定まっていません。19世紀の英国の詩人ジョン・キーツによって初めて使われた言葉で、その約160年後に英国の精神科医ウィルフレッド・R・ビオンが見出し、世界に広めました。不確かなVUCAの時代に必要な力として、関心が高まっています。
ポジティブ・ケイパビリティの落とし穴
「わかる」ことは何が問題なのか?
私たちは幼い頃から、できなかったことができるようになり、分からなかったことを分かるようになると、褒められたり、成長の証と捉えられたりしてきました。勉強や仕事でも「分かる」という経験を積み重ねることで、評価されます。分からない状況に耐える能力をネガティブ・ケイパビリティというのに対し、このような不確かさや懐疑から脱出する能力はポジティブ・ケイパビリティといいます。
現代の生活の中で、目に見えて評価されるのはポジティブ・ケイパビリティでしょう。正解のない状況でも正解をつくり出し、行動に変えていく。会社生活においても重要な心構えです。
そもそも、人間の脳は「分かろう」とする生物としての性質を備えています。自然災害やパンデミックなど、未知のものに対してもさまざまに意味を付け、理解したくなるもの。そのため、ネガティブ・ケイパビリティのように分からないものをそのままにしておくことは、本来、人間の本能に反するのです。
ではなぜ今、ネガティブ・ケイパビリティが求められているのでしょうか。日本では、2017年に精神科医の帚木蓬生氏による『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』の出版をきっかけに広く知られました。
現代はハウツー記事やまとめ記事、マニュアル本など、「分かる」ことに照準を合わせた情報に溢れています。しかし、分かったつもりになることが、より深刻な事態を生む可能性があることを箒木氏は指摘しています。マニュアルに慣れきった脳は、マニュアルに記載されていない事態に遭遇したときに思考停止し、パニックに陥ってしまうといいます。
たとえば、新規事業やスタートアップで働くと、優秀な人材が集まらず、資金は減る一方で、想定通りの成長を描けないなど、唯一の答えのない状況が続きます。全てに答えを求めていると、精神力が弱まり、行動に移すことはできません。コロナショックや円安などの外部環境も同様で、リスクに備えたつもりになっていても、未来は予測不能なものです。
だからといって、諦めることを推奨しているわけではありません。不確かなこと、どうにもならないことを無理に解明しようとせず、不透明な状況に耐えながらも今できる努力を積み重ねていく。それがネガティブ・ケイパビリティなのです。
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