多元的無知
多元的無知とは?
「多元的無知」とは、社会心理学の用語で、ある集団の多くの人が「自分はある規範を受け入れていないが、他のメンバーのほとんどはその規範を受け入れている」と思い込んでいる状態のこと。米国の社会心理学者F.H.オルポート氏によって提唱されました。社会的集団の構成員に見られるバイアスの一種で、本当は誰も望んでいないのに、誰もが「みんなそう望んでいる」と信じている状態で、望んでいない状況がさらに維持されてしまいます。
早く帰りたいのに、そう言えない
職場における多元的無知の事例
日本人は「空気を読む」傾向が強いと言われています。ハイコンテクスト社会とも言われ、言葉を介したコミュニケーションではなく、文脈からメッセージを読み取る文化です。暗黙の了解とされていることをあえて言葉にすると、「空気が読めない」というレッテルを貼られることもあるでしょう。
多元的無知は、身近なところに存在しています。例えば、マスク。2022年6月現在、政府は屋外で人との距離(2メートル以上を目安)を確保できる場合や、距離が確保できなくても会話をほとんど行わない場合は、マスクを着用する必要はないと説明しています。しかし、外でマスクを外している人を見かけることはほとんどありません。マスク着用を続ける大多数を見て、その規範に倣い続けてしまうのです。
残業が常態化している職場では、全員が早く帰りたいと思っているにもかかわらず、「自分以外の他の人はそんなこと思っていないだろう」と思い込み、残業を続けてしまいます。残業する人を見た他の人も、本当は早く帰りたいと思っているのに「他の人はそう思っていないだろう」と考えます。こうして探り合いは悪いほうへと進んでいき、同調行動を生んでしまうのです。
残業だけでなく、始業30分前には出社する、リモートワークの制度があっても使わない、有給休暇を使いづらい、といった組織固有の慣習は、実はみんなが不満に思っていて多元的無知に基づいたものかもしれません。
多元的無知を打破するには、対話できる環境をつくること。課題が言語化されることで、不満に思っていた人たちのマインドが切り替わります。多元的無知の背景には「自分は少数派」という思い込みがあります。その状況で声を上げるのは、集団から疎外されるのではないかと不安になるものです。だからこそ、自分の意見を安心して主張できる風土づくりが大切なのです。
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