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【ヨミ】カスハラ

カスハラ

カスハラとは?

カスハラとは、顧客などからのクレーム・言動のうち、特に悪質で労働者の就業環境が害されるほどの行為を指す「カスタマーハラスメント」の略称です。
セクハラ、パワハラ、マタハラについては、男女雇用機会均等法、労働施策総合推進法、育児・介護休業法などの法律で、企業が防止措置を講じることが義務付けられています。同様に企業は、取引先など社外の人から受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)に対しても、対策を講じる必要があります。

更新日:2024/07/05

カスハラの定義

カスハラは、顧客などからのクレーム・言動のなかでも特に悪質な行為、迷惑行為が該当します。厚生労働省では、カスハラを以下のように定義しています。

「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

「顧客等」には、実際に企業が商品・サービスを提供・販売した者だけではなく、潜在的な顧客も含まれます。つまり、今後商品やサービスを提供する可能性がある顧客も含まれるため、将来発生する可能性があるクレームや迷惑行為に対しても、企業は対応しなければならないことになります。

「当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして」とは、クレームや要求の内容に妥当性があるのか、世間一般的に見ても不適切と言えるのかを総合的に判断する必要があることを意味しています。クレームや要求の内容に妥当性がなく、誰が見ても不適切なものであれば、不当な要求や迷惑行為とみなされることになります。

「労働者の就業環境が害される」とは、従業員が人格や尊厳を侵害する言動によって身体・精神的な苦痛を受ければ、従業員のメンタル不調を引き起こし、能力の発揮に重大な悪影響が生じる可能性があることを意味します。そのようなことが職場で起これば、企業の責任も問われかねません。

顧客や取引先からのクレームがカスハラに該当するかどうかを線引きするのは難しいことですが、厚生労働省が実施した調査では、顧客から悪質なクレームや迷惑行為を受けた企業があることが確認されています。顧客からのクレームや苦情は、商品・サービス開発や業務改善に役立ち、企業にとって有益となることもあります。しかし、苦情といっても悪質なクレームや不当な要求は話が別です。悪質なクレームや不当な要求は大きなストレスとなり、従業員がメンタル不調となるケースもあります。

カスハラの法律上の扱い

以下のような行為に該当すれば、カスハラは犯罪や違法行為として法律上取り扱われることもあります。

  • 身体・精神的な攻撃
  • 威圧的な言動
  • 土下座・行き過ぎた謝罪の要求
  • 繰り返される執拗な言動
  • 不退去、居座り、監禁など
  • 性的な言動や性差別
  • 従業員個人への要求
  • 商品や金銭の要求など

軽犯罪法でも対象となる可能性があり、刑事事件としてだけではなく、慰謝料など民事で損害賠償請求の対象となることも考えられます。

カスハラ行為は刑罰の対象となる

カスハラ行為は、以下のような刑事罰の対象となることがあります。カスハラ行為があった場合、企業は犯罪になるという認識のもと差し控えるように促し、厳正に対処する必要があります。以下に該当する犯罪は、カスハラ行為を受けた従業員だけではなく、脅されたり、名誉・評判を傷つけられた法人も対象になると考えられ、行為者は未遂であっても罰せられることがあります。

【暴力をふるった場合】

 傷害罪(刑法204条)
心身を傷害した者は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金

 暴行罪(刑法208条)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
【脅かした場合】

 脅迫罪(刑法222条)
生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金

 恐喝罪(刑法249条第1項)
人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役

 強要罪(刑法223条)
生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役

 威力業務妨害罪(刑法234条)
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条(信用毀損及び業務妨害罪)の例によ る
【企業の評判を傷つけた場合】

 名誉棄損罪(刑法230条)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金

 侮辱罪(刑法231条)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは三10万円以下の罰金または拘留もしくは科料

 信用毀損及び業務妨害罪(刑法233条)
虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金
【企業の建物などに侵入した場合】

 従業侵入等(刑法130条)
正当な理由がないのに、人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入し、または要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金

カスハラを受けた従業員が企業を訴えることがある

企業には安全配慮義務があり、カスハラへの対応が不十分であれば、従業員から訴えられることがあります。安全配慮義務とは、従業員が安全に就業できるように防止対策を講じる企業の義務のことです。労働契約に付随する民事上の企業の義務であり、安全配慮義務を怠れば、損害賠償を請求されるなど、訴訟問題に発展しかねません。

労働契約法5条では以下のように規定しています。

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

カスハラは労災の基準に含まれている

カスハラが業務災害として認定されれば、労災の対象となります。労災の判断に用いられる業務による心理的負荷評価表には、具体的な出来事として「顧客や取引先、施設利用者などから著しい迷惑行為を受けた」というカスハラに関する事項も追加されています。

カスハラが労災の対象となれば、労災保険の補償の限度で被害を受けた従業員に対する企業の責任は免れることになっています。ただし、労災の補償は慰謝料などの部分が含まれないため、企業の対策が不十分であった場合は、従業員から民事上の責任を問われ、訴訟リスクを抱えることになりかねません。

カスハラは政府の指針で言及されている

2020年1月に、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定されました。この指針は労働施策総合推進法におけるパワハラが主な対象ですが、カスハラについても定められています。

顧客などから、暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求といった著しい迷惑行為があった場合、企業は当該従業員の相談に応じて、適切に対応しなければなりません。そのためには、相談体制の整備、被害者への配慮の取り組みを行うことが望ましいとされています。努力義務であったとしても、カスハラ被害は重要な問題です。自社の従業員を守るためにも、企業としては対応をおろそかにはできません。

カスハラの事例

カスハラの事例にはさまざまなことが考えられますが、たとえば以下のようなものがあります。

  • 時間的拘束(長時間の居座り、長電話、業務に支障が生じる行為)
  • リピート型(頻繁に来店または電話をかけて、その都度クレームを言う)
  • 暴言(暴言、罵声、脅しを繰り返す、大声で怒鳴るまたは責める)
  • 対応者の揚げ足取り(些細なミスを責める、言葉尻を捉える、執拗な攻め立て)
  • 脅迫(物を壊す・殺すといった言動、SNS・マスコミに暴露をほのめかす、反社会的な言動)
  • SNSへの投稿により信用を失墜させる
  • 権威型(特別扱いの要求)
  • セクハラ、付きまとい
  • 不当な要求
  • 過度の要求

カスハラの判例

ケース1:甲府地判平成30年11月30日

カスハラの対策を怠った企業は、その責任を問われ、訴訟リスクを抱えます。市立の小学校の教諭が児童の保護者から理不尽な言動を受けたことを受け、校長が事実関係を冷静に調査・判断することなく、一方的にその教諭に対して保護者に謝罪するように求めた事例があります。

このケースでは、校長の行為が違法行為と判断され、小学校を設置する市と県が損害賠償責任を負うことになりました。

ケース2:東京地判平成30年11月2日

企業がカスハラに対して対策を十分に取っていたことで、訴訟リスクが回避できることもあります。小売業の従業員が買い物客とトラブルになり、勤務先に対して安全配慮義務を怠ったとして、損害賠償を請求した事例があります。

企業は入社時に苦情を申し出る顧客への対応を指導しており、サポートデスクの設置や近隣店舗のマネージャーとの連絡体制の連携、深夜店舗の2名体制など、相談体制が十分に整えられていたことが評価され、安全配慮義務違反は否定されました。

カスハラ対策

カスハラが起きたときは、複数人で対応するのが原則です。カスハラを受けている人を一人にしてはいけません。他のハラスメントも同様ですが、カスハラは優越的な地位を利用して行われるため、一人で対応することは困難です。対応する側が複数人で、毅然とした態度で接することが効果的です。

従業員がカスハラを受けたあとも、適切なケアやサポートが受けられるように健康管理部門と連携することや、産業医や保健師との面談など、社内・社外と連携できる体制をつくり、従業員を守る姿勢を打ち出すことが重要です。

クレーム対応ルールを決める

カスハラと正当なクレームを見分けることができなければ、企業は従業員を守るどころか、評判が悪化し、外部からの信用を失墜するリスクを抱えることになりかねません。過去のクレーム内容を整理し、分析して、自社に合った対応ルールを定める必要があります。

カスハラに適切に対応するためには、対応方法や対応手順の策定と社内対応ルールの従業員など、教育・研修の機会を設ける必要があります。カスハラは社内の問題であるパワハラ・セクハラ・マタハラなどのハラスメントとは性質が異なります。自社の対応方針、クレーム対応マニュアルなどを策定する際は、以下の手順で進めるとよいでしょう。

1.企業としての方針を打ち出し、基本方針・基本姿勢を明確にして、従業員に周知する
トップの方針を打ち出し、基本方針・基本姿勢を明確にして、社内で共有することが大切です。

2. 従業員の相談対応体制を整備する
相談窓口やヘルプデスクの設置、連絡体制の整備、他部署との連携などが必要です。プライベートな情報を扱うことがあるため、情報管理体制も整備する必要があります。

3. 対応方法、手順などのマニュアルを策定する
カスハラの傾向は、業種特性、提供する商品、サービス内容によって異なります。対応方法や対応手順をよく検討し、自社に合った対応方法を検討しなければ、実効性が伴わないものになってしまいます。

4. 研修やミーティングで社内対応ルールを周知する
研修などで過去の事例から学ぶ機会を作ることや、自社独自でマニュアルを作成し、クレーム対応のルールを作るのもよいでしょう。

ハラスメントの基本的な対応体制を確認・見直しする

ハラスメントには多くの種類がありますが、どのようなハラスメントにも厳正に対処する必要があります。カスハラだけではなく、パワハラ・セクハラ・マタハラのほか、あらゆるハラスメントに対応したものでなければなりません。

【事業主の基本方針などの明確化と従業員への周知・啓発】
(1)職場におけるハラスメントの内容・ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
(2)行為者、加害者について厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則などの文書に規定し、従業員に周知・啓発する

【従業員(被害者)からの相談に、適切に対応するために必要な相談対応体制の整備】
(3)相談窓口をあらかじめ定め、従業員に周知する
(4)相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにする

【職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応】
(5)事実関係を迅速かつ正確に確認する

【従業員への配慮の措置】
(6)速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと

【再発防止のための取り組み】
(7)事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行う
(8)再発防止に向けた措置を講ずる

【そのほか併せて講ずべき措置】
(9)相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨従業員に周知する

ハラスメント対策を既に実行している企業の場合、体制を新設しなくても既存の体制を見直すことで足りる可能性があります。ハラスメントの基本的な対応体制を見直す際は、既存のハラスメント対策にカスハラへの対応を加えるとよいでしょう。

カスタマーハラスメント対策の実例
日本航空株式会社では4年前からグループ全体でカスタマーハラスメント対策に取り組んできました。ハラスメントの判断基準を独自に定め、具体的な事例を基にしたシナリオ集やQ&A集を作成し、社内に展開しています。

日本航空におけるカスタマーハラスメント対策の取り組み|『日本の人事部』

企画・編集:『日本の人事部』編集部

人事辞典「HRペディア」

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