健康経営優良法人
健康経営優良法人とは?
健康経営優良法人認定制度とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実行する「健康経営」について、特に優良な企業などを顕彰する制度です。2015年から始まった「健康経営銘柄」に続き、2017年から始まりました。規模の大きい企業を対象とする「大規模法人部門」と、中小規模の企業を対象とする「中小規模法人部門」の二つがあります。2020年には、大規模法人部門で1481法人(うち500法人が「ホワイト500」とされる)、中小規模法人部門で4723法人が認定されています。
1. 健康経営優良法人認定制度とは
健康経営優良法人認定制度が始まった経緯
健康経営優良法人認定制度が始まった背景には、従業員およびその家族の健康が企業経営に影響を与える可能性が出てきたことが挙げられます。
まず、増加し続ける医療費が健康保険組合などの財政の悪化を招き、企業が負担しなければならない健康保険料が上昇していることがあります。近年、生産年齢人口が減少しているため、労働力を確保するためには雇用の延長などを積極的に考えていかなければなりません。従業員などの健康状態の悪化は、企業の生産性を悪化させ、人材の定着率の低下、有能な人材の確保への悪影響などをもたらす可能性があります。
2015年からは「データヘルス計画」がスタートしました。データヘルス計画とは、企業と健康保険組合が連携し、健康保険組合が保有する診療報酬明細書や特定健診・特定保健指導などの情報を活用することにより、加入者の健康づくりや疾病予防、重症化予防につながる健康づくり活動などの保険事業を行うものです。データヘルス計画において企業は、下記のように従業員が健康づくりに取り組みやすい環境を整備することが求められます。
- 従業員の健康課題について健康保険組合との議論・検討
- 従業員が保険事業に参加しやすい時間や場所の確保
- 職場における禁煙
- 身体活動の機会の提供
このような流れを受け、2015年から経済産業省と東京証券取引所の共同で健康経営銘柄の選定が始められました。ただし健康経営銘柄は、上場企業に限定されている上に、原則として1業種に1社と選定企業数が限られます。そこで、健康経営に取り組む企業の「見える化」をさらに推し進めるため、上場企業に限らず、未上場の企業や医療法人なども対象に含まれ、認定数が健康経営銘柄よりはるかに多い、健康経営優良法人認定制度がスタートしました。
用語の解説
健康経営優良法人
健康経営優良法人の認定制度とは、地域の健康課題に即した取り組み、あるいは日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとにして、特に優良な健康経営を実践する企業を顕彰する制度です。大規模法人部門と中小規模法人部門の2部門があります。
健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することにより、従業員や求職者、関係企業、金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的評価を受けることが可能になることを目標としています。
※日本健康会議とは、国民一人ひとりの健康寿命延伸と適正な医療について、民間組織が連携し、行政の全面的な支援のもと、実効的な活動を行うために組織された活動体です。経済団体や医療団体、保険者などの民間組織や自治体が連携し、職場や地域で具体的な対応をしていくことを目標としています。
健康経営銘柄
健康経営銘柄とは、東京証券取引所の上場会社の中から「健康経営」に優れた企業を選定し、長期的な視点から見た価値の向上を重視する投資家に対して、魅力ある企業として紹介するものです。2015年からスタートし、6回目となる「健康経営銘柄2020」では、30業種40社が選定されました。企業による健康経営の取り組みを促進することを目標としています。
ホワイト500
ホワイト500は、健康経営優良法人2019までは、「健康経営優良法人(大規模法人部門)」の愛称でした。しかし、健康経営優良法人2020からは、健康経営優良法人(大規模法人部門)の認定法人のうち、上位500法人のみが「ホワイト500」との呼称を与えられることになります。従って2020年以降は、健康経営優良法人(大規模法人部門)の認定法人は、ホワイト500の法人と、それ以外の法人の2種類にわかれました。
健康経営度調査
健康経営度調査とは、法人の健康経営についての取り組み状況と、その経年変化を分析することを目的として実施されている調査です。健康経営銘柄と健康経営優良法人(大規模法人部門)の選定にも使用されます。健康経営の取り組みを始めたい企業は、この調査に回答し、判定を受けることにより、健康経営に取り組むためのポイントがはっきりするでしょう。
認定法人一覧のリンク
2018年、2019年、2020年でそれぞれ、健康経営優良法人として認定された法人へのリンクを紹介します。
健康経営優良法人 2018(大規模法人部門)認定法人一覧
健康経営優良法人 2018(中小規模法人部門)認定法人一覧
健康経営優良法人 2019(大規模法人部門)認定法人一覧
健康経営優良法人 2019(中小規模法人部門)認定法人一覧
健康経営優良法人 2020(大規模法人部門)認定法人一覧
健康経営優良法人 2020(中小規模法人部門)認定法人一覧
2. 認定を受けるメリット
インセンティブ
健康経営優良法人に認定されると、以下のようにさまざまなインセンティブが提供されます。
- 金融機関・民間保険などが提供するインセンティブ ……融資の優遇、保証料の減額や免除
- 自治体などによる認定表彰制度 ……自治体などによる独自の健康経営企業認定や県知事による表彰
- 公共調達加点評価 ……自治体が行う公共工事、入札審査での加点評価
- 自治体が提供するインセンティブ ……融資の優遇、保証料の減額、奨励金や補助金
- 求人票への記入 ……ハローワークなどの求人資料にロゴやステッカーが使用される
インセンティブの具体例として、経済産業省『中小企業への健康経営の普及』によれば、以下のようなものがあります。
従業員が被った業務上の災害をカバーする保険商品において、「健康経営優良法人認定割引」として5%の割引を適用
・住友生命保険相互会社 ……団体3大疾病保障保険「ホスピタA(エース)」
3大疾病を保障する団体保険において、健康経営優良法人に対して健康経営割引プランを適用し、保険料を2%割引
・北海道岩見沢市 ……建設工事競争入札参加資格における等級格付け
健康経営優良法人認定を受けている市内業者に対して、5点の加点評価
ほか
健康経営優良法人に対するインセンティブは、自治体や金融機関などによって提供され、地域によりその内容はさまざまです。2019年時点での詳細な情報は、下記の経済産業省による資料にあります。インセンティブの具体的な内容については、それぞれの自治体や機関に問い合わせてください。
出典:経済産業省ヘルスケア産業課『中小企業への健康経営の普及』
企業イメージが良くなる
企業イメージが良くなることも、健康経営優良法人に認定されることによるメリットの一つです。大きく分けて労働市場、投資家、および取引先へのイメージ向上が期待できます。
労働市場における企業イメージ
経済産業省の調査によれば、就活生および就職を控えた学生を持つ親に対して、「将来どのような企業に就職したいか(させたいか)」を質問したところ、就活生と親の双方で、「従業員の健康や働き方に配慮している企業」が4割を超えました。
また、「健康経営に取り組んでいるかどうかが就職の決め手になるか」を質問したところ、就活生と親の双方で、「重要な決め手になる」が7割以上になりました。健康経営に取り組むことは、優秀な人材を獲得するために有利だと考えられます。
投資家に対する企業イメージ
経済産業省の調査によれば、多くの健康経営優良法人認定企業や健康経営銘柄選定企業は、認定・選定を受けたことについて、投資家との対話の中で話題にしています。また、CSR報告書をはじめとする、多くの媒体に記載もしています。健康経営優良法人の認定をされることは、投資を多く受けることにもメリットがあるといえるでしょう。
取引先に対する企業イメージ
経済産業省によれば、安定的なサプライチェーンの確保という観点で、取引先の健康経営についても考慮・確認していくことが考えられるとしています。また、健康経営銘柄企業に限れば、90%以上が取引先の健康経営の考慮・確認を実施しており、今後このような取り組みが拡大していくことが期待されます。
ただし、健康経営優良法人に認定されたとしても、その実効性が問われることになります。より厳しく社会からチェックされることになるといえるでしょう。
3. 認定プロセスの概要
健康優良法人認定制度の認定プロセスを、大規模法人部門と中小規模法人部門のそれぞれについて見てみましょう。
大規模法人部門の認定プロセス
大規模法人部門の認定プロセスは以下のとおりです。
(1)健康経営度調査に回答する
経済産業省が実施する「健康経営度調査」に回答します。健康経営度調査は、それぞれの企業において、従業員の健康管理に関する取り組みとしてどのようなことが行われているか、その内容と成果を問うものです。
(2)健康経営優良法人(大規模法人部門)の要件に適合しているかの判定を受ける
回答した健康経営度調査をもとに、健康経営優良法人(大規模法人部門)の要件に適合しているかの判定を受けます。判定の評価基準は、下記の通りです。
- 経営理念(経営者の自覚)……従業員の健康保持および増進について会社の方針を明文化し、社内外へ発信しているか
- 組織体制・健康づくり ……経営層の関与の程度、および統括組織や管理職への教育体制
- 制度・施策実行 ……「定期健康診断受診率」や「ストレスチェック実施」「受動喫煙対策」など15の項目による評価
- 評価・改善 ……行った施策について効果検証した際の指標や健康保険組合との連携
- 法令遵守・リスクマネジメント ……労働基準法や労働安全衛生法などについての法令遵守
健康経営優良法人2019においては、健康経営度調査の結果が回答法人全体の上位50%以内であることが要件となっていましたが、健康経営優良法人2020からは廃止されました。
(3)保険者と連名で申請
健康経営優良法人(大規模法人部門)の要件に適合していると判定されれば、保険者と連名で申請します。申請書は、認定事務局において集約され、必要に応じて事務局から加入保険者に対して確認が行われます。
(4)審査と認定
申請内容は、日本健康会議によって審査されます。認定要件を満たしていれば、健康経営優良法人(大規模法人部門)として認定されます。
中小規模法人部門の認定プロセス
中小規模法人部門の認定プロセスは以下の通りです。
(1)「健康宣言」事業に参加
協会けんぽの支部や健康保険組合連合会の支部が実施する「健康宣言」の事業に参加します。
(2)申請書を作成し認定事務局に提出する
(3)審査と認定
4. 最近の動向
2020年に制度が一部変更
健康経営優良法人2020から、以下のとおり制度が一部変更になりました。
(1)「ホワイト500」適用企業の変更
健康経営優良法人(大規模法人部門)において、これまでは認定法人の全体が「ホワイト500」と呼ばれていました。しかし、2020年以降は、健康経営優良法人(大規模法人部門)の認定法人のうち、健康経営度調査結果の上位500法人のみが「ホワイト500」と呼ばれることになります。
(2)50%ルールの廃止
健康経営優良法人(大規模法人部門)の認定において、「健康経営度調査の結果が回答法人全体の上位50%以内であること」が要件となっていました。しかし、2020年以降は、この制限は廃止されます。詳細な基準については、2020年夏にかけて見直しが行われます。
以上二つの変更により、健康経営優良法人認定制度の全体像は、下の図のようになります。
健康経営度調査の回答方法や健康経営優良法人の申請方法については、この制度変更による大きな変更はありません。しかし、大規模法人部門の場合は、認定後の呼称が2種類あることになりますので注意が必要です。
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