【保存版】死亡労災事故等が起こったときに担当者がやるべきこと
お通夜・告別式、弔問、事実関係の説明、資料の交付、労災申請等
弁護士
岡 正俊(狩野・岡・向井法律事務所)
5. 企業の対応の仕方による民事訴訟への影響
(1)遺族対応の民事訴訟への影響
「6」以降で、遺族対応における注意点を解説しますが、その前に企業の対応の仕方によって、残念なことに話合いで解決できず民事訴訟になった場合、何がどのように影響するかについて述べたいと思います。
例えば、示談交渉段階における会社側の発言や文書等が民事訴訟の中で遺族側から提出されたり、示談交渉段階における会社側の提示した和解金額が民事訴訟における和解の中でも考慮される(この金額が前提になる)ということはあり得ます。
(2)労働基準監督署対応の民事訴訟への影響
もっとも、それらよりも影響が大きいのは労災認定の有無です。
まず、労災が認定されたこと自体から、民事訴訟でも事実上業務と死亡との因果関係が推定されることが考えられます。少なくとも遺族側の代理人からはそのような主張が出されます。したがって、民事訴訟より前に、労災申請段階から、弁護士等の専門家に相談することは非常に重要なことだと思います。
また、ほとんどの労災事故に関する民事訴訟では、遺族側の代理人から、文書送付嘱託の申立てがなされる等により、労災についての労働基準監督署の調査資料が民事訴訟の証拠資料として提出されます。関係する従業員等が労働基準監督署の聴取を受けて話をした内容も、聴取書という形で民事訴訟の証拠資料になります。場合によっては証人として出廷を求められる可能性もあります。もちろん会社が従業員に対して、労働基準監督署に話す内容を強制したり指示したりすることはできませんが、上記のように、民事訴訟の証拠資料となったり、証人として呼ばれたりする場合もあることは、従業員にも理解しておいてもらう必要があると思います。
6. お通夜・告別式に参列するか? 弔問するか?
(1)誰が出席するか?
労災事故や過労死・過労自殺等で従業員が亡くなった場合も、基本的にはそれ以外の原因で従業員が亡くなった場合と同様の対応をすることになります。会社の規模や亡くなった従業員の地位、亡くなった従業員との関係、災害の状況等によって、同僚のほか、上司、人事・安全担当者、役員、社長等、誰が弔問するか考えます。小規模の会社で、労災事故による死亡の場合であれば、謝罪の意味でも、社長や役員等、それなりの立場の者が弔問したほうが良いのではないかと思います。やはり会社もそれだけ誠意をもって対応しているということになるからです。
今後、遺族対応の窓口になるであろう従業員も参列、あるいは近いうちに弔問すべきでしょう。遺族が会社に対して、どのような感情を持っているか、今後の対応においてどのような点に注意しなければならないかを直接知ることができるからです。
トラブルケース(1)
会社の上司がお通夜に参列しようとしたところ、遺族が「息子は会社に殺された!」と言って怒りをあらわにし、「帰ってくれ!」と言われた。
⇒ このような場合は、何か説明しようとしても、理解をしてもらうのは難しいと思います。その日は帰り、日を改めて弔問するしかないでしょう。
(2)直接の加害者はどうか?
難しいのは死亡労災事故の場合の、直接の加害者(例えばフォークリフト等を被災者にぶつけてしまった従業員や、よく安全を確認せず機械を動かしてしまった従業員等)です。事故の直後で遺族が感情的になっていることもありますので、基本的にはお通夜・告別式には参列せずに、その後にお線香をあげに行くのが良いと思います。もっとも、遺族が加害者の従業員には来て欲しくない、会いたくないという場合もよくありますので、加害者本人ではなく、窓口担当から遺族に対して、「加害者がお線香をあげに行きたいと言っているがどうか?」ということを確認したほうが良いでしょう。
加害者本人が弔問すると、遺族からの感情的な反応も予想され、お互いにつらい思いをすることになるので難しいですが、逆に何もしないと「何で来ないのか?」と言われる場合もありますので、あまり消極的すぎるのも良くないと思います。
加害者本人が弔問する場合は、窓口担当の従業員が同行するなど、加害者一人で弔問しないほうが良いと思います。
会社から行かされている、言わされていると思われるのは遺族の感情を害することになりますが、失礼があってもやはり遺族の感情を害することになります。加害者としてもどうして良いかわからないと思いますので、どちらかと言うと同行してフォローするのが良いと思います。
トラブルケース(2)
直接の加害者が弔問したのは良いが、遺族から問いかけられても何も言えず黙ったままで、「何をしに来たのか?帰ってくれ!」と言われた。
⇒ さすがにずっと黙ったままというのは良くないので、人事・安全担当者等との間で、あらかじめ伝える内容を確認したり、人事・安全担当者がその場で、「遺族の方に伝えたいことはありますか?」とか「被災者や遺族の方に対する気持ちは?」などとフォローしてあげるべきでしょう。
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