【保存版】死亡労災事故等が起こったときに担当者がやるべきこと
お通夜・告別式、弔問、事実関係の説明、資料の交付、労災申請等
弁護士
岡 正俊(狩野・岡・向井法律事務所)
言うまでもなく、労災事故等で従業員が業務中に亡くなるということは、非常に痛ましい出来事であり、残された遺族の気持ちは筆舌に尽くし難いものです。企業としては何よりそのような事故が発生しないように努めることが重要だと思いますが、不幸にして事故が起こってしまった場合、遺族に対してどのように対応したら良いかというご相談を受けることがあります。
本稿では、これまでの経験をもとに、遺族への対応について気をつけなければならないポイントを解説したいと思います。また、実際にあったトラブルについては、【トラブルケース】で、トラブルの内容とその対処について触れています。
1. 常識的な対応と法律的な対応
遺族への対応については、一面では法律問題を離れた常識的、人格的な対応が必要になります。これについてはとにかく誠実に対応するほかないと思います。
一方で、法律的な問題を踏まえた対応という面もあります。訴訟等になった場合に想定される結論を踏まえた対応がこれに当たります。
2. 死亡労災事故と過労死・過労自殺 ~ケースごとの対応
従業員の、業務を原因とする死亡、あるいは業務が原因と疑われる死亡について、大きく二つのケースがあります。一つは、墜落、巻き込まれ等の労災事故によって亡くなるケースです。もう一つは、いわゆる過労死(長時間労働等の過重な業務により脳・心臓疾患を発症して死亡する場合)・過労自殺(長時間労働等の過重な業務により精神疾患を発病し自殺する場合)のケースです。前者は業務との因果関係が比較的明らかなことが多いですが、後者は業務との因果関係が不明なことが多く、この点が争点になることが多いです。
したがって、企業の対応としても両者で異なる対応をとるべきことも多く、本稿でも分けて述べたいと思います。なお、本稿で「死亡労災事故等」と表記した場合は両者を含むものとします。
3.死亡労災事故等の特徴
傷害とは異なる死亡労災事故等の特徴を見てみたいと思います。
(1)被災者本人から事故の状況・原因を聞くことができない
死亡労災事故等の場合は、被災者が亡くなっているので、当然ながら被災者本人から話を聞くことができません。例えば、従業員が自殺した場合に従業員本人に自殺の理由を聞くことはできませんし、事故直前に不安全行動をとった被災者に対して、なぜそのような行動をとったのかを聞くことはできません。本人に聞くことができないので、遺族や会社は色々と考えてしまいます。遺族で言えば、例えば夫から妻宛に「今度の上司が厳しくて…」「仕事が全然終わらない」といったメールがあった場合、残された妻としては、「会社で何かあったのではないか?」「夫が亡くなったのは会社のせいでは?」と考えてしまうことはあり得ることでしょう。
(2)遺族の被害感情・将来の生活に対する不安
死亡労災事故等の場合、突然家族を失った遺族の悲しみ、怒りといった感情にどのように配慮するかという難しい問題があります。
また、遺族が被災者の収入によって生計を立てていた場合、突然これを失うことになるわけですから、遺族は将来の生活に対する不安を感じています。生活に対する不安は損害賠償請求額の高額化にもつながります。
(3)損害賠償請求額の高額化
死亡労災事故等の場合、特に被災者が若年者の場合、逸失利益が高額になり、総額としての損害賠償請求額も非常に高額になる可能性があります。中小企業にとっては、場合によっては企業の存続に関わることから、どうしても慎重な対応にならざるを得ないところがあります。
4. 死亡事故等発生以後の一般的な流れ
(1)死亡労災事故の場合
労災事故による死亡の場合には、一般的には、被災者の救護活動、救急要請・警察への連絡、家族・社内への連絡、現場の保存、警察等の捜査への協力、所轄労働基準監督署への労働者死傷病報告、社内調査・報告書作成、労災申請といった手続きをとることになると思います。
(2)過労死・過労自殺の場合
過労死・過労自殺の場合には、少し事情が異なりますが、会社内で亡くなった場合には、救護活動、救急要請・警察への連絡、家族・社内への連絡、現場の保存という手続きは死亡労災事故の場合と同じでしょう。事件性の有無等について警察等の捜査があった場合には協力する点も同様です。社内調査・報告書も作成します。
労働者死傷病報告については、労働安全衛生規則97条1項は、労災の場合だけでなく、事業場内における負傷等により労働者が死亡した場合にも所轄労働基準監督署に提出しなければならないとしています。労災申請とは別の手続きですので、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出したからといって、業務による死亡と認めたことにはなりません。ただし、労働者死傷病報告の書式(様式第23号)では、「災害発生状況及び原因」について、「(1)どのような場所で (2)どのような作業をしているときに」のほかに、「(3)どのような物又は環境に (4)どのような不安全な又は有害な状態があって (5)どのような災害が発生したかを詳細に記入すること」とされている点には注意が必要です。特に「(4)どのような不安全な又は有害な状態があって」については、当てはまる事実がないケースも多いと思いますので、必ずしもこの通り記載する必要はないと思います。
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