中小企業の経営者のための人事戦略入門【第8回】
本コラムは【第1回】で述べたように、秋山がみのり経営研究所ホームページに発表した記事を転載するものです。
「中小企業の経営者のための人事戦略入門」
【第8回】役割: 経営戦略と人事制度のかすがい(4)
(4)貢献責任の具体例
社長の貢献責任
組織の構成員としての社員の貢献責任は、経営者の理念、会社の存在意義・役割をどう分担するかを書き表したものになります。結果としてそれぞれの社員が社長の貢献責任を支える形となります。
先ず社長自らが経営理念に基づき会社のあるべき姿としての貢献責任の領域を特定するところから出発します。大きくはBalanced Scorecardの考え方に則り財務業績、外部・顧客との関係、社内ビジネスプロセス、学習と成長の4領域の中から会社として目指すべき方向を選択して示します。5~9つの貢献責任に限定するルールはここにも適用されます。10も20もと欲張るのではなく、限定された数の中でギリギリの選択として、どこを目指すかが明示されます。
財務業績は成長性・収益性・安全性などの中から会社として何が最重要かを選択します。すべてを求めることも当然あり得ます。その場合その他の3つの領域からの選択肢が限定されてきます。外部・顧客との関係で顧客重視は当然として株主との関係、社会・環境あるいは行政との関係をどうするか大きな選択です。社内ビジネスプロセスもプラニング、品質、生産性、リスク管理など多様な項目が考えられます。特に昨今ではコンプライアンスも大きな選択肢として挙げられます。最後に学習と成長は以上の3領域を支えるために最近とみに重視される領域です。社員の育成、人材活性化など組織の学習能力をどう高めるかと言った視点から慎重に選択が行われます。
執行役員の貢献責任
社長の貢献責任領域が確定すると社長直下の執行役員クラスの役割の貢献責任が特定されます。一つの例として社長の貢献責任が
(1) 全社収益を確保する
(2) 新規事業を実現する
(3) 全社生産性を向上させる
(4) 顧客との裁量の関係を構築する
(5) 人材を育成する
の5つのケースを想定します。執行役員の役割分担がどのようなものを期待して組織編成されるかにより、これらの貢献責任をそれぞれの役員がどう引き取るか異なってきます。
事業部制的な組織であれば、すべての役割が社長の小型版として(1)から(5)すべての領域に対し、任された特定の事業分野における貢献責任をカバーすることになります。また機能的な組織編成であれば、営業的な役割は(1)並びに(4)、新規事業開発はその領域専門の役割を設計し、それを実現するための貢献責任の特定がなされます。(3)並びに(5)に関してはそれぞれの役割において貢献責任として達成することが期待される場合と、特定の役割を設計しそこが専門家として対応する場合とがあります。職務編成の思想の違いはあるにせよ、基本は社長の貢献責任達成のために漏れが無いようにすることです。人事の担当役員の役割がある場合、(5)の人材育成の貢献責任がどちらにあるか、どう分担するか明確にする必要があります。営業担当役員の役割に育成責任を与えるのであれば、人事担当役員の貢献責任はその支援的な内容になります。逆に人事担当役員が育成責任を持つのであれば、営業担当役員は支援する立場になります。定義づけに曖昧さを残さないことが、効果的な育成を実現していく上で重要となります。
部長、課長、一般社員へのブレークダウン
このようなブレークダウンのプロセスが直下の役員レベルだけでなく、役員以下の部長・課長・スタッフのレベルまで明確な形で特定されていきます。結果として出来上がった貢献責任はそれぞれの役割が特定の付加価値を有し、全体として最終的に社長の貢献責任を支えるものとなります。このプロセスの中で明確に付加価値のある貢献責任が特定できない役割が出てくる可能性があります。1部1課のような編成をしている組織では部長と課長の役割の違いが貢献責任の明確な表現に落とし込めないようなケースが生じます。これはとりもなおさず組織のあり方に修正を加えて行くことを意味します。
業務活動は貢献責任達成のために
トップダウンのアプローチを中心に説明しましたが、ボトムアップのアプローチをした場合も結果としては同じ結論に至ります。最終的には日々の業務活動が特定された貢献責任達成のために再編成されることになります。会議への参加、外部との情報交換、メール・報告書の作成・発信などの日常多くの時間を取られる業務活動が、果たしてそれぞれの貢献責任達成にどれほど効果的・効率的に遂行されているかを再度考え直す機会となります。過去の業務分掌規定が業務活動の特定を中心としてきたこととの大きな違いがここにあります。
また貢献責任の捉え方により、社員の向かう方向性が大きく異なることがあります。営業の担当レベルの貢献責任がそれぞれの領域で下記のような場合:
A社:
(1)担当商品の売り上げ目標を達成する。
(2)新規顧客を獲得する
(3)営業効率を向上させる
(4)専門知識を向上させる
B社:
(1)担当顧客別利益を改善する
(2)顧客との良好な関係を構築する
(3)新商材関連情報を関連各部に提供する
(4)後輩を指導する
A社/B社それぞれの社員の行動が大きく異なるでしょうし、長期的に育成される社員像も大きく異なることは想像頂けると思います。この違いは社長並びに直下の役員レベルの役割からブレークダウンされたものです。社長の理念に基づく社長自身の貢献責任が社員の行動に影響を与え、その方向に社員が形作られていくことを示しています。これが人事制度の出発点としての役割特定プロセスです。
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秋山 健一郎(アキヤマ ケンイチロウ) 株式会社みのり経営研究所 代表取締役
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