ジョブ型雇用vsメンバーシップ型雇用の議論で欠落している視点
本コラムは2021年9月28日にみのり経営研究所ホームページに掲載した内容です。少し古くなりますが、本質的な問題に触れていますので、ジョブに基づく人事制度を理解する上で是非ご一読ください。
「ジョブ型雇用vsメンバーシップ型雇用の議論で欠落している視点」
最近の様々なメディアで「メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行」というテーマの記事が増えている。それぞれの雇用タイプのメリット・デメリットをリストアップし、現在の経営環境下ではジョブ型への移行、あるいは両者の組み合わせによるハイブリット型への移行が必要、とする議論が多いが、「ジョブ型雇用」に関して「ジョブとは何か」という一番基本的なところが抜けている。現在行われている議論は人事の基本的機能を無視した、表面的な功罪の議論に終始していると言わざるを得ない。今回は人事の在り方という原点に戻り、「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」に関する議論で抜けている視点を指摘したい。
「ジョブ型雇用」にせよ「メンバーシップ型雇用」にせよ雇用契約が基本であり、その運用上の違いの特定部分の特徴に焦点を当て名称を付けただけでは本質的な問題は理解できない。一般的な「メンバーシップ型雇用」と言われるものは長期雇用を前提として採用されるため帰属意識が高く長期的人財育成が可能で柔軟な人員配置が可能だが、プロフェッショナル人材育成・人事評価が困難で年功的運用となるとされている。それに対し「ジョブ型雇用」と言われるものは特定のジョブを対象として採用するため、プロフェッショナル人材の獲得・育成・人事評価がやり易く、採用ミスマッチが起こりにくい反面、決められた範囲外の業務が出来ずチームワークが醸成しにくく、離職率が高いとされている。
本当にそうだろうか?「メンバーシップ型雇用」ではプロフェッショナル人材が育たないのか?「ジョブ型雇用」ではチームワークが出来ず離職率が高くなるのか?あまりにも簡単な対比で、こんな分類で企業は雇用形態を移行する判断をしようとしているのだろうか?それに対して人事はどう対応しようとしているのだろうか?
人事の基本機能とは企業の使命・ビジョン・戦略を達成・実現するために、その根幹となる人材・人財(最近は人的資本という言い方もされている)を効果的かつ効率的に活用することである。活用というと一方的に聞こえるが、社員がパフォーマンスを向上させるためには彼らのモチベーションをいかに高めるかという課題に取り組まなければならない。しかも常に長期的な視点が求められ、採用、育成、異動・配置、評価、給与・報酬制度はそのための手段である。手段の詳細に引きずられて本来の機能を見失うとしたら本末転倒である。社員のモチベーションの原点は人事の仕組みの公正・公平性にある。人事がこの視点を忘れれば人事制度は形がい化し社員の活用への道は狭められてしまう。
この視点から雇用契約のあるべき姿を考えれば、人事としてそれぞれの社員に何を期待し、その期待をどう伝えるかが重要な課題となる。「メンバーシップ型雇用」と言われる従来型の日本的な雇用の多くは「職能資格制度」を軸として構築されている。「職能」とは職務遂行能力とされ、その基本となるのは「職務」である。あるレベルの職務を遂行する能力があるかどうかが判定され、それぞれの資格に位置付けられる仕組みである。社員処遇の公正・公平性の原点はこの「職務遂行能力」である。歴史的には戦後高度経済成長期に多くの日本企業が成長・拡大軌道に乗り、結果としては大変うまく機能したと言える。しかし成長が鈍化し停滞が始まると、「職務」とその「遂行能力」との乖離が大きくなり始め、公正・公平性を担保するものでは無くなってきたのである。当然の帰結としてより「職務」に重きを置いた仕組みへの変更が求められ、その方向に向かって進んでいるのが現状だと言える。そこに登場してきたのが「ジョブ型雇用」である。
残念ながら「職能資格制度」があまりにも長期間うまく機能してきたため、本来の職務遂行能力の基本である「職務」(ジョブ・役割)が忘れ去られ、「職務」を定義・明確化する知識・スキルが人事に無くなってしまったというのが現状である。「メンバーシップ型雇用」の特徴である長期視点からの人材育成・帰属意識までを放棄しようとしている企業は少ない。今求められているのは、その良さを維持しつつ「採用・異動・配置」のミスマッチを回避し、人事評価の透明度を上げるための「職務」(ジョブ・役割)を明確化するという人事本来の原点に戻ることである。
今世の中で出回っている議論に乗って、「メンバーシップ型雇用」を放棄しなければ「ジョブ型雇用」に移行できないような錯覚に陥っている現状は健全とは言えない。「ジョブ型雇用」にすると短期的な目の前の仕事しかしない、あるいはチームワークが出来ない等どう考えてもあり得ないような状況まで黙認しようとしている。職能資格制度の時に出来ていたことが、「ジョブ型雇用」になったとたんできなくなるということはあり得ない。もう一度ジョブ・職務とは何かの人事制度の原点に戻り、人事の機能を全うする覚悟で制度改革への道を歩んで欲しい。
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秋山 健一郎(アキヤマ ケンイチロウ) 株式会社みのり経営研究所 代表取締役
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