第114回 令和5年度の最低賃金
すでに報道等でご存知だと思いますが、厚生労働省は、地方最低賃金審議会が答申した令和5年度の地域別最低賃金の改定額のとりまとめを行いました。答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続きを経た上で、都道府県労働局長の決定により、10月1日から都道府県別に順次発効される予定です。
今回は、令和5年度の最低賃金についてみていきます。
<令和5年度の地方最低賃金審議会の答申のポイント>
令和5年度の地方最低賃金審議会答申のポイントは、以下の4つになります。
1)47都道府県すべてで、39円~47円の引上げ(引上げ額が47円は2県、46円は2県、45円は4県、44円は5県、43円は2県、42円は4県、41円は10都府県、40円は17道府県、39円は1県)
2)改定後の全国加重平均額は1,004円(昨年度961円)となり、1,000円を上回る
3)全国加重平均額43円の引上げは、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額
4)最高額(1,113円)に対する最低額(893円)の比率は、80.2%(昨年度は79.6%)で、この比率は9年連続の改善
今回は、中央最低賃金審議会が答申した引き上げの目安額を5円以上上回る県が続出したことに大きな特徴があります。
実際の各都道府県の最低賃金については、厚生労働省が公表していますので、ホームページで確認をしてください。
<最低賃金の対象となる賃金>
最低賃金の対象となる賃金は、実際に毎月支払われる賃金から次の6種類の賃金を除いた金額が対象となります。
1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
2)1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
4)所定労働日以外の日に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
5)午後10時から午前5時までの間に対して支払われる割増賃金(深夜割増賃金など)
6)精・皆勤手当、通勤手当、家族手当等
このコラムを読んでいただいている方の中には、固定残業手当(制度)を導入している会社もあろうかと思います。
固定残業制度を導入している場合、給与は基本給部分と固定残業部分に分かれています。固定残業部分は、定額であっても3)の「所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金」に該当するため、最低賃金の対象となるのは「給与から固定残業部分を控除した金額」です。
固定残業部分を基本給に含めている場合は、同じ金額であれば含み残業時間が多ければ多いほど、時給単価は下がるということになります。
2016年から最低賃金は毎年約3%ずつ引き上げられています。2015年よりも前に固定残業制度を導入している企業は、知らず知らずのうちに基本給部分が最低賃金を下回っている可能性があります。固定残業制度を導入している会社は、最低賃金をクリアしているか、一度チェックをした方が良いでしょう。
なお、固定残業部分に含まれる時間数を変更しないと仮定すると、基本給部分を引き上げるということは、固定残業部分も増額する必要がありますのでご注意ください。
<支払っている賃金が最低賃金を上回っているかどうかチェック方法>
最低賃金は時間によって定められています。また、最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金から一部の賃金を控除したものが対象となることは先ほど説明したとおりです。
具体的に、支払われる賃金が最低賃金以上となっているかどうかをチェックするには、最低賃金の対象となる賃金額と定められている最低賃金を比較することになります。支払っている賃金の形態(月給、時間給、日給等)でチェック方法が異なります。
1)時間給制:時間給 ≧ 最低賃金額
2)日給制 :日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額
3)月給制 :月給÷1ヶ月の所定労働時間 ≧ 最低賃金額
4)出来高払い制その他の請負制によって定められた賃金:
出来高払い制その他の請負制によって計算された賃金の総額÷当該賃金計算期間に出来高払い制その他の請負制によって労働した総労働時間 ≧ 最低賃金額
<最低賃金が上昇することによる影響>
東京都の最低賃金は、2023年10月1日から1,113円になると答申されています。現在の最低賃金は、1,072円なので、引き上げ額は41円となります。
最低賃金が上昇することによって、自社内の低賃金層だけでなく、少し上の中間層にも影響が出てきます。
たとえば、新卒の初任給を最低賃金で設定している会社の場合をみていきます。所定労働時間は173時間とします。2023年4月入社に入社した新卒の給与は、1,072円×173時間=185,456円となります。
一方で、2024年4月に入社する新卒の給与は、1,113円×173時間=192,549円となります。差額は、7,093円/月となります。
2年目になった2023年の新卒の給与を月額5,000円昇給したとしても、2024年の新卒の給与の方が高くなってしまいます。これだと、2023年新卒のモチベーションは下がってしまいますので、昇給額を増額する必要があります。
最低賃金の引き上げにあわせて新卒初任給を設定していると、2015年以前に入社した従業員と新卒で入社した従業員の賃金差がほとんどないという現象が起きかねません。最低賃金をクリアしているかどうかのチェックはもちろん重要なことですが、社内の給与バランスも整えていく必要があります。
今回は、最低賃金についてみてきました。
令和5年度の最低賃金の引き上げによって、全国加重平均額は1,004円となりました。「事前に予測していた最低賃金よりも高い。」と感じる方もいるかもしれません。給与額が最低賃金を下回っていたということにならないように、時給単価のチェックを2023年9月中に行う必要があります。
また、社内の給与バランスが納得できるものでないと従業員のモチベーションは下がってしまいます。最低賃金のチェックとともに、給与バランスのチェックも行った方がよいでしょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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