第83回 延長された社会保険の特例改定
2020年8月のコラムで、2020年4月から7月までの間に新型コロナウイルス感染症の影響による休業により、報酬が著しく下がった方は、標準報酬月額を特例的に改定することができることを紹介しました。
期間限定の特例措置だったのですが、今回、この特例改定が2021年3月まで延長されています。
対象になるのは、2020年8月から2021年3月までの間に新型コロナウイルス感染症の影響による休業によって報酬が急減した方です。
また、すでに2020年4月または5月の休業により特例改定を行った方についても、再度特例措置が講じられることとなりました。
今回は、延長された特例改定の内容をみていきたいと思います。
<随時改定を行うケース>
通常の場合、社会保険の随時改定は、次の3つの項目すべてに該当したときに行います。
1.固定的賃金が変更になったこと。
2.変動月から連続3か月間の支払基礎日数がいずれも17日以上であること。
3.この3か月間の給与の平均額から計算した標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額に2等級以上の差があること。
実際の給与計算では、固定的賃金が変更になった月から数えて、4か月後(保険料を当月徴収している会社)あるいは5か月後(保険料を翌月徴収している会社)に保険料が変更になります。
<特例改定について>
通常であれば、上記の3つの条件が揃って初めて随時改定を行うことができます。しかし、固定的賃金が下がってからから4か月後もしくは5か月後に保険料が変更になるので、それまでは高い保険料を支払い続けなくてはなりません。
そこで、今回の新型コロナウイルス感染症の緊急事態に対応するため、特例改定が認められました。特例措置の対象となるのは、2020年8月から2021年3月までの間に次の3つの要件を満たす場合です。
1.新型コロナウイルス感染症の影響による休業があったことにより、令和2年8月から令和3年3月までの間に、報酬が著しく下がった月が生じた方
2. 著しく報酬が低下した月に支払われた報酬の総額(1か月分)が、すでに設定されている標準報酬月額に比べて2等級以上下がった方
3. 本特例措置による改定内容に本人が書面により同意している方
特例改定の場合は、固定的賃金の変動がなくても改定が行われます。たとえば、パートタイマーの時給単価に変動がなかったとしても、勤務時間数が減少したことで給与が減少した場合も対象になります。
この部分は、2020年4月から7月の間に報酬が下がった場合の特例改定と考え方は同じです。書類の提出期限が決められていますので、申請する場合は期限切れにならないように注意しましょう。
・2020年8月から12月までを急減月とする届書 2021年3月1日まで
・2021年1月から3月までを急減月とする届書 2021年1月25日~2021年5月31日まで
なお、被保険者期間が急減月を含めて3か月未満の方については、特例改定の要件となる被保険者期間を満たさないため、この届出はできません。
<特例改定の改定月と同意について>
特例改定による場合、報酬が下がった翌月から標準報酬月額を変更できます。たとえば、11月に届出を行った場合、11月の報酬の総額を基礎として12月分の標準報酬月額が低く改定されることになります。
また、通常の随時改定と違い本人の同意が必要になります。これは、標準報酬月額が下がってしまうと傷病手当金や出産手当金の金額も下がるからです。
したがって、特例改定の手続きをする際は、対象者に十分に説明をする必要があります。同意書については、手続きの際に提出をする必要はありませんが、年金事務所の調査等で確認を求められることもありますので、届出日から2年間は保管するようにしてください。
<令和2年4月または5月に休業により著しく報酬が下がり特例改定を受けている方の特例について>
すでに令和2年4月または5月の報酬で特例改定を行っている場合は、その後定時決定により9月分の保険料から定時決定で決定された標準報酬月額に変更されています。
今回の特例措置により、8月の報酬が定時決定で算定された標準報酬より著しく低い場合は、令和2年9月分からの標準報酬月額を8月の報酬をもとにした標準報酬月額に変更することが可能になりました。
定時決定の特例措置の対象となるのは、次の3つの要件を満たす場合です。この措置も固定的賃金の変動の有無は関係ありません。なお、定時決定の特例措置も、申請期限は2021年3月1日までになっています。
1.新型コロナウイルス感染症の影響による休業があったことにより、令和2年4月または5月に報酬が著しく下がり、5月または6月に特例改定を受けた方
2. 令和2年8月に支払われた報酬の総額(1か月分)による標準報酬月額が、9月の定時決定で決定された標準報酬月額に比べて、2等級以上低い方
3. 本特例措置による改定内容に本人が書面により同意している方
<特例改定を行う際の注意点>
1.支払基礎日数について
通常の随時改定の場合は、変動月から連続3か月間の支払基礎日数が17日以上である必要があります。一方で、特例改定の場合は、新型コロナウイルス感染症の影響で事業主から休業命令や自宅待機指示などによって休業となった場合は、休業した日に報酬が支払われていなくても、給与計算の基礎日数として取り扱うことができます。
その上で、報酬の支払基礎となった日数が17日未満となる場合は、特例改定の対象となりません。
2.休業が回復した場合の届出について
休業が回復した月に受けた報酬の総額をもとにした標準報酬月額が、特例改定により決定した標準報酬月額と比較して2等級以上上がった場合、その翌月から標準報酬月額を改定しなければなりません。この場合は、月額変更届の提出が必要です。2020年4月から7月までの間の特例改定の回復手続きと考え方が異なるので注意してください。
休業が回復した月は、報酬支払いの基礎となった日が17日以上であるという条件を満たす必要があります。その上で、休業が回復した月の報酬総額をもとにした標準報酬月額が2等級以上上がる、という条件を最初に満たした場合のみが対象になります。
特例改定を行う場合は、休業した日に報酬が支払われていなくても、給与計算の基礎日数として取り扱うことができます。一方で、休業が回復した場合の基礎日数は、実際に労働した日や有給休暇を取得した日等の合計日数が17日以上の場合に随時改定を行います。
両者の考え方が異なりますので、間違えないようにしましょう。
2020年8月から2021年3月までの特例改定は、回復時における随時改定の方法が変更になっています。今回だけの措置であり、通常の随時改定の方法と考え方は全く違いますので、給与計算や手続きを行う際は良く確認しながら行うようにしてください。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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