どうしたら、ご機嫌な職場を会社全体で増やしていけるか
ジェイフィール コンサルタント
高橋 克徳 山中 健司
1.「不機嫌な職場」を変えたい、でも・・・
2008年に「不機嫌な職場 ~なぜ社員同士で協力できないのか~」(共著、講談社)を出版してから、すでに5年が経ちました。本を手に取られた多くの方が、ブログで「自分の職場のことが書いてある」「うちの職場もおかしい」といった書き込みをされ、ビジネス誌やネット上で特集が組まれるなどし、職場のコミュニケーション不全が大きな問題として認識されるようになりました。
こうした中で、すぐに動き出したのは、自分の組織、職場をどうにかしたいと強い思いを抱いてきた方々でした。現場のリーダー、人事の担当者、組合の委員長など、立場に関係なく社員目線で頑張っている人たちが、これでは人が追い込まれる、どうにかしたいという強い思いで連絡をいただくケースが多かったと思います。
ある会社では、朝出社してきた社長の机の上に、「不機嫌な職場」の本が置いてあったそうです。社長が「誰が置いた」と言って社内中を聞き回ると、一人の若手社員が「自分が置きました。うちの会社のことが書いてあります。読んでください」と言ったそうです。そこで社長も現場の話を聞いて、問題の大きさを実感し、社長からわれわれに連絡をいただいたというケースもありました。一人の若手社員の勇気ある行動はもとより、それに応えた社長も素晴らしいと思いました。
また別の会社では、人事担当者が本を読んで、経営者から社員までがみんなでこうした問題意識を持つべきだと経営層を説得して、全社員に講演をして欲しいという依頼もありました。1,000人以上もいらっしゃったので、二日間で5回の講演会を実施しました。自分の心と体を守るためにも、組織として良い仕事をし、個人も組織も成長するためにも、足元の職場を良い職場に変えることの重要性をみんなで共有できたと思います。
このように、強い思いを持った人たちの第一歩が、周囲を動かし、組織を動かしていく。そんな事例をいくつも見てきました。その一方で、強い問題意識や思いを持ちながらも、なかなか進まない、取り組みができないと止まってしまった企業も数多くあります。どこで止まってしまうのか。そこに、今の組織が抱える根深い問題が見えてきます。
2.「職場改革」に着手できない3つの理由
「不機嫌な職場を減らしたい」「抱え込む人、心や体を壊す人を減らしたい」「職場のコミュニケーションを良くしたい」「社員がイキイキ働く会社したい」・・・。
こうした思いを持った人が行動を起こそうとすると、いくつかの壁にぶち当たってしまいます。
第一の壁は、まさに「職場の壁」です。
本で読んだこと、講演で聞いたことがきっかけになり、職場の仲間にも、こうしたテーマで何か活動を起こしたいと相談してみる。ところが、「良いね」「大事だ」とは言ってくれるものの、一緒にやろうというと立ち上がってくれる人はなかなか出てこない。自分も忙しい、これ以上は難しい。そうした意識からなのか、「総論賛成、各論尻込み」状態になってしまう。会議の場で、きちんと話し合う時間も持てない。日々の仕事に追われていく。そうしているうちに、自分自身も踏み出せない状態になる。
こうなってしまうケースが多々ありました。みんな忙しい、だから思いを重ね、膨らませ、組織全体の思いに変えていくコミュニケーションがなかなかできない。そこで止まってしまうのです。
次に来るのが、「経営の壁」です。部内では思いは高まり、組織活性化に向けた動きをとろうと決めた。ところが経営を説得できない、経営から了承を得られない。そこで止まるケースです。
経営といっても社長の場合だけでなく、役員や部門長ということもあります。ただ、そうした意思決定者に持っていくと、「なぜ今、職場づくりが重要なのか」「それで業績が上がるのか」「個人の能力開発が先ではないのか」「そもそも、会社は仲良し倶楽部ではない。良い職場だろうか、そうでなかろうが、成果を出すことが大事」・・・。
こんな意見を言われて、そこで反論できなくなってしまったという話です。「良い職場をつくること」が、お互いの関係性を変え、知恵を出し合い、互いをカバーし合う状況を作り出す。これがさらに、他者への貢献意欲と認知を高めて、他者のための自発的な行動を生み出す。こうした良い行動が、個人を成長させるだけでなく、組織力、現場力を発揮させることになる。つまり、「ご機嫌な職場づくり」は単に「仲良し倶楽部」を作ろうとしているわけでも、業績と結びつかない活動をしているわけでもありません。ところがそこがうまく伝わらない、受け入れてもらえない。そこで苦労してしまうのです。
第三の壁は、「現場の壁」です。言い換えると、「目に見えない現場への遠慮」という壁です。
確かに重要なテーマだから講演や研修、ワークショップを行いたい。でも、現場にこれ以上負荷をかけられない。ただでさえ忙しい、疲弊している。そういう人を集めることができない。場や機会をつくることができない。
それでも実施しようとすると、一部の部門長から「こんなことをやって業績が上がるのか」「業績に直結しないような研修は必要ないし、それどころではない」というような声があがる。そこでためらってしまう、無理を通せないと思ってしまう。
それでも講演会や研修を実施して問題意識を共有ずるところまではできた。ところがその先には踏み込めない。本社側、人事側から進捗状況を確認したり、こんな方法でやってみてほしいという提案をしたり、進まない部署を支援する動きができない。だから、途中で進まなくなるところが次々に出て、結局うまくいかないという雰囲気が組織全体に流れてしまう。
職場の壁、経営の壁、現場の壁。この3つをクリアできなければ、動きをつくりだすことができなません。では、どうしたこうした壁をクリアできるのでしょうか。
3.事例1 ご機嫌な職場づくり運動
壁の超え方を具体的に考えるために、ここから二つの事例を紹介します。
ジェイフィールとジェイユニオンとが共同で企画・運営開催している「ご機嫌な職場づくり運動」(http://www.gokigenna.net/)という活動があります。わたしが実行委員長をさせていただき、参加企業・労働組合が連携して、「ご機嫌な職場づくり」を一緒に展開していこうというものです。
ジェイユニオンは、労働組合の活動支援をしている企業です。組合の執行部の中には、社員の幸せ、社員がイキイキと働く会社をつくりたい、そうした活動を自分たち主導でもやっていきたいと思っている人たちがたくさんいます。そうした人たちを応援して、1年間の職場づくり運動を起こそうということで、企画したものです。
各企業・組合から5職場を選んで組織感情診断を受けていただいて、その後、その組織感情診断の結果を分析し、ご機嫌な職場づくりの方法をシェアする研修会を実施する。その後、3回の活動共有、相互支援のための勉強会を開催して、9ヶ月後に第2回目の組織感情診断をとり、その結果も踏まえて、お互いの活動を持ち寄る報告会を実施。その中で、良い取り組みをしたところ、いろいろな障害があっても乗り越えた職場リーダーたちを表彰しようという仕組です。
1)どうしたら経営と現場の理解を得ることができるか
1年間活動してきましたが、ここでもいくつもの壁がありました。
最初の壁は活動の参加を決めるために、合意を得る段階で起きました。いきなり全社を巻き込むのは難しいので、5職場から始めようという提案だったのですが、それでも承認を得ることが難しいと言って断念せざるを得ない組合が数多く出てきてしまったのです。
まずは、執行部内で承認が得られない。いくら委員長が思いを強くしても、執行部内を説得できない、みんなが前向きになれない。経営に承認を得ないといけないといって、人事部や経営層に話をしようとして止まる、話をしたけれどもすっきりとした返事がなく止まる。現場の参加への理解を得られない。参加職場を決められないといって止まる。
わたしの中では、昔の組合のイメージがありましたので、もう少し強引にでもやろうと声をかけて進められるものだと思っていました。ところが、そう簡単ではない。いくらこちらが良いことをやろうとしても、経営の了承、現場の了承を得なければ、何もできない。そうした状況に置かれて、踏み出せない組合がたくさんあることを知りました。
執行部内の会議や経営への提案の場に参加させていただいて、一緒にその重要性と会社の成長につながる取り組みだということを説明させていただき、参加の了承をいただいたケースもありました。現場の巻き込みは、最終的には執行部のメンバーの所属部署、過去の部署の管理職にお願いをして、決定したケースが多くありました。こうやって、一緒に知恵を出しながら、どうにか参加にこぎつけた10組合43職場からスタートしました。
2)どうしたら職場のメンバーが前向きに受けとめてくれるか
最初は組織感情診断を取ります。それをもとに各職場リーダーが参加してキックオフの研修会を実施。ここは盛り上がりました。組織感情診断は本当に手に取るように自分たちの職場の状況がわかる。職場のメンバーがどこで萎縮していたり、悩んでいたり、壁を感じているかがわかる。すると、職場リーダーにも思いが出てきて、最後は自分たちの職場をどういう職場にしたいか、そのための取り組み案を持ち帰ることができました。
ところがここでまた問題が起きます。まず、そうはいってもメンバーに正しく趣旨を伝えきれない、組織感情診断の読み方が間違えていないか不安、自分が職場ワークショップを主導する経験がないから不安という声が上がってきたのです。
そこで、研修会の内容を別途、職場ワークショップ用に撮影した映像DVDとテキストを作成し、各職場に配ることにしました。巻き込むためのツールが必要だったのです。
3)どうやって集まる時間をつくるか
1回目の職場ワークショップはこうしてうまくできたのですが、そこから進まないというケースがまた出てきました。一番大きな理由は、時間作れないというものです。
業務時間内では活動できない。管理職にお願いできない。夕方もみんながいない。一緒に集まる時間が作れない。そういって、コミュニケーションの機会が作れずに止まる。
そこで勉強会のときに、まずは進捗状況を確認しながら、そのあたりをどう乗り越えたのか、どう乗り越えたらよいかを知恵を出し合うようにしました。
するとうまくやっているところは、やはり管理職にも組織感情診断を説明しながら、みんながもっと前向きに働けるようにどうしたら良いか一緒に考える時間を作りたいのでお願いしますと協力をとりつけたり、昼時に弁当を持ち寄るランチミーティングを企画したり、あるいは全員集められなくても、少人数で集まる機会を分散してつくったり、いろいろな工夫をしていました。そうやって前に進んでいく職場の話を聞いて、勇気をもらいながら自分たちの職場にあった方法を見つけていったのです。
4)ワークショップのテーマをどう発展させれば良いか
ところがまた、次の壁にぶつかります。
それは、集まる機会は作れたけれども具体的にどういう話をしたら良いかがイメージができない、最初はよかったけれども、継続的に話をしようとすると、ネタ切れになるということです。
ここでも、新たに準備することになったのが、「ご機嫌な職場づくりワークブック」でした。あたたか感情編、イキイキ感情編の二つを用意して、各組織感情を引き出すためのディスカッションや共同ワークのテーマや進め方を解説して、書き込みながら進められるワークブックを作成したのです。実際に勉強会で、そのワークブックを使って、各企業の職場リーダーたちでセッションを行っていくと、お互いの理解が進んだ、仕事への思いが共有できた、具体的な業務改善につながる議論ができるという反応が返ってきました。
それを持ち帰って、現場での活動を展開してもらいました。
忘年会を開いて、各社の職場リーダーの苦労をねぎらったり、最後の勉強会では、進んでいないところも、少しでも前に進もうと応援しあったり。こうした場を2ヶ月に1回程度作りながら、活動を進めていったのです。
5)ご機嫌な職場づくり運動から得られたこと
第2回目の組織感情診断の結果は、活動の質と量による診断結果の度合いは明確に見えていました。飲み会やボーリング大会、そして職場でのミーティング、目標や仕事への思いを重ねあう活動をしたところは、明らかに組織感情がよくなっていました。逆に組織感情としてはギスギス感情が増えて少し悪くなっているように見えているところも、実は真剣にみんながぶつかり合えるようになったからで決して悪いことではないという職場もありました。
でも、すごくよかったのは、職場リーダーという人たちが、苦しんで、うまく行かなくても一歩踏み出した、そうした勇気ある行動を取れたということに対して、お互いが認め合い、敬意を持てる関係ができたことです。励ましあいながらも、あきらめずに最後まで取り組めた。最後の活動報告会では、そんな充実感が溢れる場になりました。
4.会社全体を巻き込んで職場改革運動の事例
次に紹介するのは、ある企業が会社全体で取り組んだ職場改革運動の事例です。
弊社の組織変革セミナーの案内を受けた人事担当者が、人事役員を連れて、セミナーに参加いただいたことがきっかけで、具体的な活動がスタートしました。
1)経営から管理職までが同じ目線を持つ
もともと、会社のビジョン、戦略として、組織力が発揮できる企業にしようというメッセージが出ていました。ところが、各事業部の独立性が高く、実際に部署間の交流も少ないので、お互いに何をやっているのかわからない、連携も生まれない状況でした。具体的な動きを生み出すためには、実際に部門を越えてリーダーたちが結びつくことが必要だ。そう考えた人事役員が社長に思いを伝えて、プロジェクトがスタートすることになったのです。
最初に、社長、全役員と個別ミーティングをさせていただきました。経営の問題意識、思いをうかがいながら、部門を越えたつながり、組織力発揮の重要性を共有していきました。
ただ、実際に中核になるのは、職場の責任者である課長クラス。まずは彼らが忙しい中でも、その重要性を共有し、互いにつながれるような関係になることが大事だと考え、彼らを集めたキックオフの講演会を実施しました。この段階では、多くの課長さんは大変なことに巻き込まれたなと思っていたのではないかと思います。
その上で、職場ごとに組織感情診断を受けていただき、そのあと2回の終日研修を実施しました。部下と向き合う、部下を育てる、チームをつくる、ビジョンを語る・・・。こうしたテーマを通じて、課長同士がお互いの苦労、大変さを聞きながら、その中でも一歩踏み出すことの大切さを共有し、みんなで一緒にやってみようというモードがつくられていきました。
2)課長と一緒に走るサブリーダーをつくる
2回目の研修の最後のセッションで、自分の職場をどういう職場したいか、そのためにどんなことから手をつけたいかを考えもらい、現場に戻ったら、メンバーの前で自分の思いを話していただくことにしました。組織感情診断の結果をメンバーに見せながら、本当はこんな職場にしたいということを語ってもらうことにしたのです。
自分の思いを伝えるところまではよかったのですが、そこから具体的な動きをつくろうとしても、忙しいこともあり、なかなか議論の場がつくれなかったり、動き出せなかったりする職場が数多く出てしまいました。
そこで、課長が一人、自分の職場のメンバーの中からサブリーダーを選んでもらい、一緒に職場づくりの作戦会議を実施することにしました。具体的にどういう活動をしたいのか、その段取りやスケジュールを一緒に考えてたたき台を職場に持ち帰る。参加者のペア同士が、お互いの職場の活動を議論し合う。
組織変革にとって、実は大切なのは最初に声をあげる人よりも、その人を支持して、一緒に動き出す二番手の人です。その二番手を見て、周囲は自分もついていきたいと思う。だから、上司が一番手でも、サブリーダーが一番手になってもいい。大切なのは、二番手になる人が、組織に勢いをつけることだということをお伝えしました。
3)会社全体に活動の連鎖を起こす
そして現場活動がスタートします。最初は飲み会や朝会の見直しなどが中心でしたが、それでもお互いの状況がよくわかり、表情が明るくなってきた、会話は生まれてきたという変化が起きてきました。中には、お互いのコミュニケーション状況を把握しようと、自分たちでアンケート調査をしたり、合宿をやるところが現われたり、仕事の状況をお互いにアピールできる仕掛けをつくったり、いろいろな活動が生まれてきたのです。
それもいきなりではなく徐々に。それを生んだのが、人事部の地道な聞き込み、取材、掲示板とメールでの発信活動でした。ちょっとでも良い活動を拾い上げて、写真入で紹介しながら、活動の連鎖を起こしていく。途中で何度かサブリーダーの懇親会や勉強会も開きました。そんな動きが、徐々に連鎖を起こしていきました。
職場づくり運動の第1フェーズは、こうしたコミュニケーションの土台を作る活動が中心でした。約1年後に実施した第2回目の組織感情診断では、多くの職場で変化が起こりました。正直活動が不十分だったところでは、あまりよくならなかったところもあります。でもしっかり活動したところは、数字にも表れていました。
ただし、ここでもよかったのは、数字の結果よりも中身を見て、お互いの職場で起きていることを課長同士が一緒に考え、もっとよくするためにどうしたら良いかをかなり踏み込んでアドバイスし合っていたことです。課長同士が気づくと、事業部を越えて、お互いの部署のために真剣に悩み、アイデアを出し合える関係に変わっていました。組織力を発揮するための強い土台が自然とつくられていったのです。
4)部長クラスから「思い」を発信する
この間、役員や部長への報告会や部長研修も実施しながら、問題意識を共有していきます。その中で出てきたのが、部長たちから社員に示すべきことがあるのではないかということです。この会社の「よさ」「らしさ」を伝えよう。残すべきこと、変えてはいけないことを、社員に伝えよう。そういう思いから、部長たちが集まって合宿をしながら、自分たちの仕事への思いをプレゼンテーションできるように、議論を重ねていきました。この議論の中で出てきた、部長たちが経験した良い仕事の物語と未来へのメッセージを映像化したのです。
この映像を現場でシェアし、自分の経験とも重ね合わせて、自分たちがこれからも良い仕事をし続けるために持ち続けなければならないことを話し合い、働き方革新のフェーズへと入っていきました。部長の経験と思いの詰まった映像は、現場だけでなく、経営陣も含めて自分たちの会社への思いと誇りを取り戻すことになり、同時にみんなで会社をつくるという連鎖を起こしていくことになりました。
5.「ご機嫌な職場」を成功させる5つのポイント
組織変革の起点は、職場にあります。いくら経営陣から素晴らしいビジョンが出ても、管理職がいくら思いを持って行動を起こしても、職場全体を巻き込めなければ、日々の行動は変わりません。今までは、それを個人の意識の問題として捉えてきた企業が多いと思います。でも、人はそこまで強くはありません。
日々の仕事に追われて、成果への強いプレッシャーの中で、一人ひとりが意識して自分だけでも職場全体のことを考えて良い動きをつくる、リードする。そんなことができる人は、そうはいません。だからこそ、職場改革、組織改革は、運動としてみんなで動く仕組が必要なのです。
では、どうすればうまく行くのか。成功のポイントは次の5つあります。
第1に、何のための職場づくり運動なのか、目的を明確にし、共有することです。
組織感情診断の結果を分析してみて、わかったことがあります。それは、「ご機嫌な職場」では、人も組織も共に成長し続ける好循環が起きているということです。お互いを支援し合い、認め合う良い関係があるからこそ、もっと周囲のために頑張ろうと自分に厳しくなる、仕事に厳しく向き合える人が増えていく。これが「ご機嫌な職場」なのです。単なる仲良し倶楽部では、決してありません。現場力、チーム力を発揮し、お互いの力を認め合い、新たなチャレンジできる組織づくりのためにも、お互いが閉じこもり、心や体を壊したり、隠れて不正をするような人が出てしまう組織にならないためにも、お互いのことがよく見えて、互いの力を引き出し合う質の高い関係を築くことが重要なのです。まずはこの考え方をしっかりと共有することから始めてください。
第2に、心を開き、心に火をつける仕掛けが必要です。組織感情診断を現場で共有すると最初に起こるのは、沈黙です。でもすぐに、「なんだ。みんなも同じように思っていたんだ。安心した」という声を上げる人が出てきます。そう、人の心が見えなかったことが、お互いを萎縮させ、行動を起こせなくさせていた最大の要因だったのです。だから、お互いの感情が見えるようになると、それが大きな安心感を生み、壁を壊すことにつながっていきます。
そして次に、火をつけること。これは良い職場の映像を見せることが有効です。実際にイキイキと働いている人たちの姿、その人たちの立派な振る舞い、言動を見ると、自分が恥ずかしくなるし、勇気ももらえる。そんな時間を共有することで、自分の心の底に抑え込んでいた素直な気持ち、もっと本当はイキイキと働きたい、職場の仲間ともっと良い関係で働きたいという根源的な感情を引き出していくことができます。
第3に、行動を起こせるようにするためには、活動を習慣化することが必要です。心に火がついても、日常の業務に戻ると忙しい、余裕がない。それでも短い時間でも集まり、対話をする時間をつくることが必要です。ネット上でも良いかもしれませんが、それでも最初にみんなが心を開いて、話せる状況づくりが重要です。全員集まれなくても、少人数ごとに集まってでも、短い時間でも、きちんと活動を習慣化することで、徐々に自分のことを語る機会が増え、お互いの気持ちが見えてくるようになります。
第4に、活動をナビゲートする仕掛けをつくることが必要です。自主的に進んでいるところの活動を集めて、横展開できるような情報共有とフィードバックの仕掛けをつくる。もしなかなか自主的な活動が生まれなければ、主管部門側から職場活動のアイデアを提供する。特に初年度は、何をしたらいいかで止まるケースが多くあります。実際に、業務と直結しない活動ばかりをやっていて、途中で経営から批判を受けてしまうケースもあります。
だからこそ、そこにステップを組んで、活動を進化させることが必要です。
「『苦労話』はすればするほど職場がよくなる(メディアファクトリー新書)」で、具体的な話のテーマ展開の方法を整理しましたが、基本的は次の5つのステップで展開していくことが有効だと考えています。
① お互いを知り、理解し合うための会話
② お互いを支え合い、助け合うための会話
③ お互いの力を引き出し合うための会話
④ 志を取り戻す、未来への思いを重ね合う会話
⑤ 個々人の思いを組織の力に変えるための会話
こうした会話を生み出すための知恵を持ち寄る、進化させる。それが、職場の会話力を高め、組織の力を引き出していく活動へと結びついていきます。
第5に、評価すべきは、組織感情診断の数値よりも、変革への動きへ踏み出せたか、あきらめずに取り組んだかであるということです。正直、部署によってはなかなか進まない部署も出てきます。組織感情診断の結果が大きく変わらないケースもあります。だからといって、そこで活動自体を否定しないでほしいのです。
本当に多くの人たちが閉じこもり、気持ちよい会話ができなくなり、みんなで一緒にやるという活動から遠ざかってしまいました。しかも、そうした経験のない若い人たちも数多くいます。だから、いくら職場のコミュニケーションが大切だといわれても、本当にそれが楽しいことなのか実感できない、わからない。
この20年の組織運営で、本当に多くの根源的な大切な部分を失ったと思います。それを取り戻す作業が、「ご機嫌な職場づくり運動」なのです。だから、簡単ではありません。一歩踏み出す勇気、壁を越えようとする行動、連鎖を起こすための発信、その一つひとつの活動が、組織を変える一歩になっていくのです。
ご機嫌な職場づくり運動は、組織の土台を作り直す活動です。お互いの気持ちが見え、お互いに伝えるべきことを本音でぶつけ合い、議論する関係ができたかをしっかり確認していくことが重要です。
6.「ご機嫌な職場」から「ご機嫌な会社」へ
あらためて、企業、組織とは、何のためにあるのでしょうか。収益を上げることは、企業の存続と成長にとって重要です。でも、何のために企業が存続し、成長することが必要なのでしょうか。
それは、そこで働く人たちが幸せになれるからです。企業の存続が雇用を守り、企業の成長がより豊かな生活をもたらす。同時にそうした企業で働くことができれば、安心して働けるし、イキイキと働くこともできる。それが生きていく活力を生み出していく。
企業や組織は、人を幸せにするための道具です。幸せにできなければ、存続する価値はありません。いくら給与が良くても、人が追い込まれ、心や体を壊すばかりの企業は、存続すべきではありません。でも、多くの人たちがそうした企業でも、頑張っています。だからこそ、そうした会社が社員にとって価値ある存在になるように自己革新して欲しいのです。
昔と違って、ただ一致団結しようと言っているわけではありません。ビジネスのスピードを考えると、何でも相談して、一緒にできる状況ではありません。だからといって、自力でやっているだけでは、知恵も出ないし、状況を打開できない。だから、目の前の人との関係性が重要なのです。
ちょっとしたときにでも、職場の仲間に確認できる、相談できる、知恵がもらえる。全員一緒でなくとも、気づいた人が支援してくれる、支援し合える。こうした関係がお互いを守ることになり、知恵が出る組織をつくることになる。
今、やるべきは、こうした利他的な行動原理、互恵性という考え方を組織の根幹に据えることです。それがご機嫌な職場から、さらにご機嫌な会社に変えて行くことにつながるのです。
困難はたくさんあります。でも、ぜひ、一緒に乗り越えて、みんながイキイキと働き、新たなチャレンジができる会社に進化させてください。これからもわたしたちは、「ご機嫌な職場づくり」「ご機嫌な会社づくり」を応援し続けます。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- リーダーシップ
- マネジメント
- チームビルディング
ベストセラー「不機嫌な職場」の著者
リレーションシップを基軸にした新たなマネジメント論を提唱
「つながり力」の再生が、個を活かし、組織を強くする。
「組織感情」「リレーションシップ」など、組織力を高めるための方法論を数多く提案。
個々人が働く喜びを取り戻し、組織がイキイキと動き出す支援をしています。
高橋 克徳(タカハシ カツノリ) 株式会社ジェイフィール代表取締役 武蔵野大学経営学部 特任教授
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