調査速報!日本の従業員エンゲージメントの状態は?Vol.1
昨年大きな反響を呼んだ、全国1万人を対象とした従業員エンゲージメント全国調査。
2023年に引き続き、2024年も株式会社アジャイルHRと株式会社インテージが共同開発し、東京大学医学系研究科の川上憲人特任教授と共同研究を行った「A&Iエンゲージメント標準調査」を利用して、全国調査を実施しました。
コロナの制約が外れたこの1年間の従業員エンゲージメントの変化は、どうなったのか?数回に分けて、速報レポートをお届けします。
1.調査の目的
従業員エンゲージメントの国際調査において、日本はかならずと言ってよいほど最下位にランキングされます。国民性の違いによる影響もありますが、実際に個々の日本企業を調査すると、従業員エンゲージメントが高い企業もある一方で、低い企業も非常に多く、全体として日本の従業員エンゲージメントが低いことに疑いはありません。
問題は「なぜ日本の従業員エンゲージメントが低いのか」という点にあります。それを明らかにするには、国内における広範な調査データの分析が必要とされます。具体的には、以下の3つの仮説に基づく分析が有効です。
仮説1:構成要素の視点
従業員エンゲージメントの構成要素の中に低いものがある。
仮説2:影響要因の視点
従業員エンゲージメントにネガティブな影響を及ぼす何らかの要因がある。
仮説3:セグメントの視点
従業員エンゲージメントの平均を下げる特定のセグメントが存在する。
前回の全国調査は2023年1月31日から2月6日にかけて実施しました。
その時期は、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行した2023年5月以前のコロナ禍終盤期でした。今回の調査は5類移行後10ヵ月目の2024年2月5日から2月9日に実施したため、前回と今回の違いを分析することによって、コロナ後の従業員エンゲージメントの変化がわかります。
本調査は、日本の従業員エンゲージメントが低い理由と、コロナ後の変化の2点を明らかにすることを目的としています。
2.日本の従業員エンゲージメントが低い理由
2-1.構成要素の視点
■会社への帰属意識が低い
従業員エンゲージメントは、以下の2つの概念を含んだ個人の心理状態を指します。
・ワークエンゲージメント:仕事を通じて得られるポジティブな心理状態
・組織コミットメント:所属する会社や組織への帰属意識や愛着心
本調査では4件法を採用しているため(4:そうだ、3:ややそうだ、2:ややちがう、1:ちがう)、肯定的回答と否定的回答の中間のスコアは2.5となりますが、回答者全員の平均値は以下のようになりました。
【従業員エンゲージメント:2.59 】
・ワークエンゲージメント:2.68
・組織コミットメント:2.49
従業員エンゲージメントは、ワークエンゲージメントと組織コミットメントの平均値となります。ワークエンゲージメントの値は中間スコア(2.5)を0.18上回っていますが、組織コミットメントの値は中間スコアを下回っており、従業員エンゲージメントを引き下げる方向に作用していることがわかります。会社への帰属意識が高かった、かつての日本企業のイメージとは異なり、組織コミットメントがマイナス要因となっています。
2-2.影響要因の視点
■フィードバックと学習機会が不足
従業員エンゲージメントに影響を及ぼす主な要因に、「仕事の資源」があります。資源とは燃料であり、エネルギー源であるため、資源のスコアは従業員エンゲージメントのスコアの高低に影響を及ぼします。
図1は本調査で測定している「仕事の資源」の全16項目の全国平均値を、スコアの高い順に並べたグラフです。
スコアがもっとも高い上位2つの資源は以下のとおりです。
・役割明確さ:自分の職務や責任が明確であること
・仕事の意義:自分の仕事に意味があると感じられること
日本企業はジョブ型ではなく職務や責任が明確ではないためにエンゲージメントが低いといった論調もあります。
また仕事に意義を感じられないためエンゲージメントが高まらないといった論調を耳にすることもあります。しかし、実際には多くの回答者が、「役割明確さ」と「仕事の意義」を肯定的に捉えているため、調査結果からこれらの説は裏付けられません。
スコアがもっとも低い下位2つの資源は以下のとおりです。
・公正な人事評価:人事制度の結果に関して十分な説明がされていること
・キャリア形成:意欲向上やキャリア開発に役立つ教育機会が存在すること
これらは、職場におけるフィードバックと学習機会の不足を意味しています。
どちらも個人の動機付けと成長に不可欠な要素であり、その資源不足が従業員エンゲージメントを抑制していると考えられます。
次回以降のコラムでは、日本の従業員エンゲージメントを低下させている各セグメントの詳細について解説をします。自社における従業員のエンゲージメントを調査する際には、日本において、また自社の業界においてはどうなのか?という視点を持つことも重要です。
単に数値の上下を測定し、その変化を見るだけはなく、「どこに原因があるのか」まで分析できる設計がされていること、またそれが学術的にも検証されていることは必須の条件です。
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日本において、1on1とOKRを含む、パフォーマンスマネジメントの重要性をいち早く唱え、多くの企業の経営者と共にマネジメント改革に携わる。
東京大学法学部卒業後、アクセンチュアにて、人と組織の変革を担当するチェンジマネジメントグループの立ち上げに参画。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任後、アジャイルHRを設立。
松丘啓司(マツオカケイジ) 株式会社アジャイルHR 代表取締役社長
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