MBOに代わる新目標設定手法「OKR基礎講座」その3
OKRに関する情報は巷にあふれていますが、誤解されて受け取られていることも少なくありません。本コラムでは、日本においていち早くOKRの必要性を唱え、多くの企業でOKR導入支援を行ってきた、株式会社アジャイルHR代表の松丘啓司がOKRの基本的な考え方について分かりやすく解説します。
■第2回目のコラムは、OKRの「基本の5つの考え方」のうち、1つ目の「構造化とフォーカス」について解説しました。今回は、2つ目の「アライメント」について解説します。
2. アラインメント
アラインメントには「整列」といった意味があります。トップ層のOKR、さらにはその上にある会社のパーパスやビジョンの実現に向けて、全員のOKRが整列した状態をイメージしていただければよいと思います。
このようなOKRツリーが構築されることによって、パーパスやビジョンの実現に向けた全社のベクトル合わせが可能になります。
◆OKRツリー構築の手順
OKRは自分が「やりたい」と思える目標ですが、会社の業務における目標であるため、会社や組織に貢献する目標でなければなりません。そのため、個人のOKRはより上位のOKRの達成に貢献するものであることが求められます。
MBOでは目標は上から下に配分されるのが一般的でしたが、OKRでは上位のOKRに貢献するために何を目標にしたいかというように、下から上に関連付ける方法が用いられます。その意味でOKRは「ボトムアップ」と言えます。
ただし、上位層のOKRが決まっていないとどのOKRに貢献するかを決められないため、いちばんはじめにトップ層のOKRが設定される必要があります。それが、OKRは「トップダウンとボトムアップの融合」であると言われる意味合いです。
これまで目標が上から与えられるのが当たり前だった状況で、突然、「自分のやりたい目標を考えてください」と言われても、すぐには決められないことが少なくないでしょう。何もない状況でOKRを考えることは難しいかも知れませんが、「トップダウンとボトムアップの融合」によって、以下のような2段階のプロセスを経ることで自分のOKRについて考えやすくなります。
段階1:上位層のどのOKRに貢献したいかを決める
段階2:そのOKRに貢献するために、自分は何を目標にしたいかを考える
◆OKRツリー構築の考慮点
以下ではOKRツリーを構築する際の考慮点について2つ解説します。
「上位層のOKR全体に関連付けるか、特定のKRに関連付けるか」
ある人がOKRを立てる際、上位層のあるOKR全体に貢献するOKRを考えるのか、それともそのOKRの特定のKRに貢献するOKRを考えるのか、どちらが望ましいでしょうか?どちらの方法でも運用可能ですが、人によってやり方がバラバラになってしまうとOKRツリーが複雑になってしまうため、会社としてのルールを事前に決めておく必要があります。
しかし、どちらの方法がより望ましいかというと、上位層のOKR全体ではなく特定のKRに関連付けたOKRを設定する方法を推奨します。それによって、ある人のOKRが何に貢献するものであるかがより明確になります。また、OKR全体に関連付ける方法だと、そのOKRのあるKRの達成に貢献する下位のOKRが設定されていなくても気づきにくいという問題も生じます。
「OKRツリーの階層は組織階層に対応させるか」
たとえば、「社長‐役員‐部長‐課長‐担当者」という組織階層があった場合、それぞれの階層でOKRを設定するとOKRツリーは5階層になります。OKRツリーの階層が深すぎると、担当者レベルまで下りていった際にはタスクレベルのような些末な目標になってしまう恐れがあります。
またOKRには、個人が別々に達成を目指すよりもチームで達成を目指すことによって、チーム力が引き出されるという効果があります。現実的に、たとえばトップ層のOKRは社長だけで担うのではなく、社長と役員の経営層チームで担うものになるでしょう。そのため、OKRには「共有」という考え方が必要になります。OKRの共有とは、1つのOKRを複数人で担う(複数人がOKRのオーナーとなる)ことです。
経営層以外でも、たとえばある部に課が複数ある場合、ある課長は自分の課に関わるOKRしか担当しないが、部長はすべてのOKRのオーナーになるといった運用も想定されるでしょう。このようにOKRの階層と組織階層は1対1で対応させる必要がありません。
これらの考慮点を踏まえたOKRの運用を可能にするために、OKR支援システムは「Oを上位のKRに関連付ける機能」や「1つのOKRを複数人で共有する機能」をサポートしている必要があります。
OKRを導入した多くの企業で、OKRの設定方法や手順でつまずくことが見られます。事前に設定の基本的なルールを定めておくこと、上位層からOKRを設定することは、効果的な運用のために必須となります。
次回はOKRの基本的な考え方の残りの3つを解説します。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- キャリア開発
- リーダーシップ
- マネジメント
日本において、1on1とOKRを含む、パフォーマンスマネジメントの重要性をいち早く唱え、多くの企業の経営者と共にマネジメント改革に携わる。
東京大学法学部卒業後、アクセンチュアにて、人と組織の変革を担当するチェンジマネジメントグループの立ち上げに参画。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任後、アジャイルHRを設立。
松丘啓司(マツオカケイジ) 株式会社アジャイルHR 代表取締役社長
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