新たな価値を生み出すコンピテンシー評価
新たな価値を生み出すコンピテンシー評価
コンピテンシー評価によりパーパスの実現・人的資本の最大限活用を目指す
コンピテンシー評価とは?
「コンピテンシー」とは、ハーバード大学のデイビッド・マクレランド教授が、1970年代に提唱した概念である。現在広く認識されている意味は「高い業績を上げる人材に共通する行動特性」である。
「コンピテンシー評価」とは、社内で高い業績を上げる人材に共通する行動特性を抽出して体系化し、それをもとに育成・定着・活躍に応用していくものである。コンピテンシー評価と職能資格制度(能力評価)は混同されることがあるが、評価の内容について明確な違いがある。
職能資格制度とは、社員の能力・スキル・知識などを評価するものである。
一方でコンピテンシー評価は、社員の能力・スキル・知識ではなく、行動特性を評価する方法である。つまり、能力そのものではなく、「能力・スキル・知識を活用しどのような行動をしたか」という実際の行動を評価する方法である。
コンピテンシー評価が日本でも導入されたのはバブル経済崩壊後の1990年代頃である。それまでは年功序列の評価制度の中で、能力評価を採用している企業が一般的であった。
しかし、バブルが崩壊し経済不振に陥ると、年功序列制度による人件費のコストが経営に重くのしかかった。
また、能力評価には、評価基準が曖昧であるというデメリットがあり、実際には能力が上がっていない=成果が上がっていないにも関わらず、年功序列により賃金が上がるケースが往々にして見られた。そのような環境下で、確かな成果に繋がる行動を求められるコンピテンシー評価への注目度が高まったと言える。
パーパス実現に向けた新たなコンピテンシー評価
"コンピテンシー評価2.0イメージ"の活用
※1990年代から多くの企業で導入されているコンピテンシー評価と、2019年以降パーパス経営の台頭により導入する企業が増えてきた"パーパス実現に向けたコンピテンシー評価"の混同を避けるため、パーパス実現に繋がる行動特性、かつ高い業績を上げる人材に共通する行動特性="コンピテンシー評価2.0"として扱う。
出所:タナベコンサルティングにて作成
昨今でもコンピテンシー評価を使用している企業は少なくない。しかし1990年代に導入されたコンピテンシー評価と現在のコンピテンシー評価では、目的や構築方法が異なってきている。
理由としては、VUCA時代の到来や、「SDGs(持続可能な開発目標)」や「サステナビリティ」への関心の高まり等から、2019年頃からパーパス経営が注目視されたことが挙げられる。
※パーパス経営については様々な定義があるが、本稿ではパーパス経営を、ミッション・ビジョン・バリューも含めた形で、企業として社会における自社の存在意義を明確に定義し、この存在意義の実現を軸とした取り組みを行う経営の在り方とする。
その結果、自社のパーパス実現に向けた着眼点を踏まえたコンピテンシーを策定し評価制度に落とし込む企業が増えている。
いくら卓越した行動の結果、成果に繋がり売上・利益が生まれたとしても、自社のパーパス実現に向けて反していれば、全く無意味であり、昨今社会問題になっている事例のように結果として組織崩壊に繋がる可能性すらある。
従来のコンピテンシー評価では、「高い業績を上げる人材に共通する行動特性」にとどまっていたが、コンピテンシー評価2.0では、「パーパス実現に繋がる行動特性かつ、高い業績を上げる人材に共通する行動特性」という着眼である。
コンピテンシー評価2.0導入のメリット・デメリット
メリットは、下記の通りである。
1.パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの浸透と組織統一
コンピテンシー評価項目の着眼点をパーパス・ミッション・ビジョン・バリューから抽出することで、被評価者は今まで以上に意識し行動する。結果として、理解度の向上や浸透が見込める。
また、会社の方向性を理解・浸透をしていくことで組織の本質でもある"統一"につながる。
2.効率的な人材開発と採用への展開
コンピテンシー評価は会社として求める行動特性を評価項目として設定するため、内容自体が業務遂行の上での行動指針となります。被評価者にとっては具体的な行動を取りやすく成長へとつながる。
また、指導者にとっても、被評価者とあるべき行動のギャップから、的確な指導ができることで、効率的な人材開発が見込める。活躍社員が増えることで、社員そのもののブランディングや、求職者への制度の紹介により採用強化につながる。
3.評価基準の明確化による納得感の醸成とエンゲージメントの向上
コンピテンシー評価は能力評価と違い、具体的な行動特性が評価項目となるため、評価者と被評価者間での捉え方の違いが生じにくい。評価エラーが発生しづらいことで、評価における公平性も担保できる。日々の行動に対して公平な評価がなされていくことで、従業員のエンゲージメント向上につながる。
一方、デメリットは、下記の通りである。
1.導入自体にハードルがある
コンピテンシーは会社によって異なるため、他社の物真似ではなく、自社独自の内容を構築する必要がある。
構築に際してのハードルとして、例えば制度導入の際にパーパス実現に向けた行動特性の抽出が必要であるが、自社のパーパスの理解、咀嚼ができなければ行動まで落とし込むことは難しい。
また、高い成果(業績)を挙げている人からのヒアリングが必要であるが、そもそもわが社でいう成果(業績)は、売上なのか、利益なのか、人材基盤なのか、顧客基盤なのか等の定義において共通認識が必要である。曖昧な定義のまま構築が進めば、行動に落とし込み社内で運用をした際は、評価者・被評価者間での認識のズレが生じる可能性がある。
2.制度導入後に評価者・被評価者への落とし込みが必要
こちらについては、コンピテンシー評価に限る話ではないが、評価者にはコンピテンシー評価を活用した評価の着眼の理解、被評価者にはコンピテンシー評価の内容を理解した上で"何を頑張るのか"を明確化する必要がある。
私自身ご支援させていただいているクライアントについても、コンピテンシー評価策定後は、評価者研修・被評価者研修により社員に腹落ちをしてもらうケースが多い。
3.環境変化に合わせてブラッシュアップが必要
企業は環境適応業である。環境が変われば経営の方法が変わり、経営の方法が変われば、社員に求める成果が変わり、成果が変われば求める行動も変わる。つまりは策定後もブラッシュアップを重ねなければ、時代に即さない評価制度となってしまう。
コンピテンシー評価2.0の具体的な構築方法と手順例(職種・等級別)
Step1 パーパス実現に向けた行動特性を抽出
(1)パーパス・ミッション・ビジョン・バリューからキーワードを洗い出し
(2)キーワードに対してどのような行動特性が理想か職種・等級別に検討
※基本的には経営陣・人事部にて検討を行う
パーパス実現に向けた行動ができているモデル社員が存在する場合は、モデル社員を巻き込み検討
Step2 高い業績を上げる人材に共通する行動特性
(1)わが社の業績を定義し、モデル人材を選定
※職種・等級別に1人以上選定することが望ましい
(2)モデル人材へのヒアリングの切り口・項目の検討
(3)モデル人材のヒアリングにより職種・等級別の行動特性の抽出
Step3 コンピテンシー評価内容の作成
(1)Step1・Step2について職種・等級別に整理しまとめる
(2)似通った内容を組み合わせる・重複した内容を削除する
※細かい内容にした場合は、実際の評価や行動の際に着眼点がぼやける可能性があるため、
できるだけシンプルにまとめることが望ましい
Step4 コンピテンシー評価2.0を評価制度に落とし込む
(1)Step3について実際の評価シートを策定する
※現在運用している評価シートの能力評価や情意考課をコンピテンシー評価に置き換える企業もある
(2)評価ウェイトを決定し、賃金・賞与制度と紐づけを行う
さいごに
今回は、厳しい環境変化の中で、パーパスの実現・人的資本の最大限活用のためのコンピテンシー評価2.0についてお伝えした。
最後に皆様にお伝えしたいことは、あくまで評価制度については、策定2割・運用8割であるということだ。どれだけ完璧な評価制度を策定しても運用できなければ、無価値である。
つまりは、コンピテンシー評価2.0についても、初めから完璧を目指すのではなく、運用の中でブラッシュアップを行い全員で制度を育てていくことが必要不可欠である。
※本コラムは大西が、タナベコンサルティングの経営者・人事部門のためのHR情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
HRコンサルティング チーフコンサルタント
大西 将之
人材業界で法人営業、マネジメント業務に従事後、当社に入社。【人】に関わるテーマを中心に、製造業、建設業から卸売業まで幅広い企業の経営支援に取り組んでいる。”支援を通して、クライアント、社員、そして社員の家族の幸せに貢献する”というポリシーのもと、クライアントの本質的な課題と向き合う姿勢でのコンサルティング展開で高い信頼を得ている。
主な実績
・中堅製造業:採用戦略構築コンサルティング
・中堅卸売業:新入社員受入体制構築・社外エルダー担当
・中堅卸売業:階層別教育
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・中小建設業:経営理念・人事ビジョン策定コンサルティング
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タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部(タナベコンサルティング コンサルティングジギョウブ) コンサルタント
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