間違った若手人材育成と離職防止策
間違った若手人材育成と離職防止策
正しいオンボーディング体制構築の実施ポイント
全社員で新しい人材を受け入れる風土と体制づくり
若手離職の背景
新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況について取りまとめたデータ(参照元:厚生労働省)によると、高校卒業者が36.9%、 大学卒業者で31.2%であった。直近10年をみてもほぼ同じような比率が続いているため、近年だけが突出して多いわけではないが、社員規模や業界による差は大きく、実際の離職率はさらに高くなっており、若手定着に苦戦されている企業も多いのではないだろうか。
若手人材の離職背景としては、大きく3つある。
1つ目は、仕事内容が自分に合わないという理由。
成果や成長が感じられない期間が長くなりすぎると、自分には適性がないのではと考え、他の選択肢を探す行動を取り始める。コンサルティング現場で経営層と会話をしていると、体感として、他の選択肢を模索するまでの期間が短くなっているのではと聞くケースは多い。
2つ目は、職場の人間関係がよくないという理由。
個人間での相性面は除くと、コミュニケーションの少なさから関係悪化に繋がるケースはよくお聞きする。背中で語る伝達スタイルのベテラン層と承認欲求の強い若手世代では、価値観がまるで違い、お互いの理解ができぬままの職場も多いのではないだろか。
3つ目は、昇進やキャリアに将来性がないという理由。
これは、自身に対する会社からの評価を感じてのケースもあれば、上位ポストの空き状況をみて判断しているケースもあり、様々であるが、概して、社員と会社の見えている範囲の違いから発生する場合が多い。会社の方向性と当人のキャリア希望を確認し、適切なコミュニケーションが求められる。
離職の結果、起こること
貴重な若手人材が離職すると、以下の問題が発生しやすい。
1.後継・後任人材の不足
2.知識・ノウハウの流出
3.既存社員のモチベーション低下
4.企業イメージダウン
5.教育研修費の損失
これまで手塩に掛けてきた若手人材の離職は、単純な人員減だけでなく、既存社員のモチベーション低下に加え、対外的な企業イメージにも影響が出る。イメージ低下は、次世代の人材確保にも悪影響を及ぼし、最悪のケースとしては、事業では黒字経営であるが、人材がいないため倒産に追い込まれる、いわゆる「人材不足倒産」を招きかねない。
「企業は人なり」という経営の格言が正に当てはまる場面と言えよう。
この対策のため、以前は飲み二ケーションで親睦を深める企業も多かったが、新型コロナウィルス蔓延で強制的にその機会を奪われた。足りないコミュニケーション不足を補うためにWEBツールを導入するも、活用しきれず、お困りになった企業も少なくない。
このようなケースでは、コミュニケーションの目的に立ち返るべきだとお伝えしている。
何のために新たな人材(新人)とコミュニケーションを取るのか、その結果、何を目指すのか を改めて整理すべきである。
手段だけが一人歩きすると、すべて効果の低い取り組みになってしまう。
若手社員の離職を防止する具体的な対策(オンボーディング体制構築のポイント)
若手離職を防止するためには、採用・配属・育成を分けて考えるのではなく、すべて繋がっているものと捉え、入社から活躍していくまでの道筋を設計することが大切である。そのためには、オンボーディングという考え方を押さえたい。
オンボーディングは英語のon-boarding、目的地までの飛行機や船に乗るという意味である。オンボーディングとは、新しく入ったメンバーが早期に組織に馴染み、力を発揮できるようにするために企業が提供する取り組みを指す。これは、新卒入社だけでなく、中途採用者や社内異動者も含めて考えると良い。
この考え方を導入段階としては、全社での求める人材像、活躍人材に必要な素養、教育体系・計画を押さえた上で、まずは職場に馴染み、問題なく業務が進められるまでの段階を検討していくと良い。
入社前の段階では、内定者との信頼関係を作ることを主眼に置く。内定者交流会、面談、会社見学会などが具体的な施策として挙げられる。
入社直後であれば、学びの意欲が高いため教育を中心とし、会社の考え方を理解・浸透させ、目線を合わせることが大切になる。また、これからの会社生活の中で、不安なことがあれば支える体制ができていることを伝え、安心したスタートを迎えるような体制も構築しておくべきである。
その後は、定期的な状況把握とともに、学び・刺激を受けられる機会を作り、必要があれば介入もする距離感で、経過をみていく。現場で直接指導・相談に乗る既存社員もこの全体像を理解した上で、必要な関りと役割分担ができれば理想的である。
さいごに
オンボーディングという言葉は聞き馴染みなく新たな取り組みかと思われたかもしれないが、具体的施策で言えば、突飛なものがあるわけではない。最も大切なことは、一貫性を持たせた全体設計を通じて、全社員で新たな人材を迎え入れ、ともにより良い組織を作っていくという風土を作ることである。新入社員もベテランもお互いがお互いから学び合い、信頼関係を強固にしていくことで、仮にモチベーション低下の社員が発生しても一早く気づき、フォローすることができる。すぐさまこの状態に出来上がるものではないが、少しずつ時間をかけ、オンボーディングという考え方の本質を押さえ、一つ一つの施策に繋げていくことをおススメしたい。
※本コラムは立入が、タナベコンサルティングの経営者・人事部門のためのHR情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部 チーフマネジャー
立入 俊介
総合人材サービス会社にて、大手~中堅中小企業の新卒採用・人材育成支援に従事し、プレイングマネージャーとして組織マネジメントを担い、社内外両面の組織改革の経験後、当社へ入社。採用領域での知見を活かし、「社員が活き活きと働き、周囲に薦めたくなる組織作り」の信条のもと、顧客の理念・ビジョン・企業風土・採用競争力・制度設計・グループ人事まで、多面的要素から戦略的な人事コンサルティングに行っている。
主な実績
・新卒採用支援コンサルティング
・食品メーカー向け賃金制度設計コンサルティング
・人材育成支援コンサルティング
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