人事制度の抜本的改革
人事制度の抜本的改革
自社の持ち味を活かせる制度改革のシナリオづくり
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の異同とは
ここで、あらためてジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いを整理します。
新卒一括採用に代表される日本のメンバーシップ型雇用では、知識・経験を持たない状態から潜在能力に期待して採用し、社内教育を行う前後で配属先が決まります。配属先ではOJTにより育成され、職能レベルを高め、キャリアを形成していく中で人材配置を繰り返し、身に付けたスキルに応じて、選ばれし人材が管理職を命じられます。
一方、ジョブ型雇用では、新卒と中途採用に差はありません。入社後は保有するスキルに応じた職務を担い、処遇されます。その前提として、「ジョブ・ディスクリプション」(職務記述書)が必要であり、役割や責任、権限、目標といったことが明確に整理されています。
ジョブ型雇用は企業にとって生産性向上につながる働き方を促進でき、社員側も責任の範囲が明確で業務遂行がしやすいというメリットがあります。
半面、求めるスキルを保有する人材確保が困難になったり、スキル向上を求めて人材が流動化するといったデメリットがあります。
ジョブ型雇用は万能ではない
ジョブ型雇用を採用するにおいて押さえるべき課題があります。
以下に整理します。
1. ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)の作成や職務等級制度の導入など、形を変えるだけですべての課題が解決するわけではない
2. ジョブ・ディスクリプションは、事業・経営環境やテクノロジーの変化により、不定期に更新する柔軟な対応が必要
3. 記載内容が詳細すぎるとメンテナンスコストが増大する
4. 職務等級制度はツールであり、大切な事は評価・処遇制度の公平性・納得性の維持・確保である
ジョブ型雇用を採用したからと言って、人事労務上のあらゆる課題が解決するわけではありません。
検討すべき人事制度改革の方向性
筆者の考える日本に適した人事制度改革の方向性の1つが、「ハイブリット型」の人事制度です。そのポイントは以下の通りです。
1. 部門横断型のコミュニケーションパイプや協働スタイル
2. 個人の成長・適性に応じた柔軟なジョブ・アサインメント
3. 若年層に対する職務横断的な育成(若年時の組織内固有知識・技能の蓄積)
4. 計画的なジョブローテーションによる経験値の蓄積
極端に、ジョブ型雇用に傾倒するのではなく、メンバーシップ型雇用の利点や特性を活かした融合型(ハイブリッド型)の制度を見出すことが有効であると考えます。
構築フレームにおいては、以下の3つの切り口に整理できます。
【構築フレーム3つの切り口】
1.階層で分ける
メンバーシップ型とジョブ型を「階層」によって分ける方法。
一般職層は、メンバーシップ型を適用して、幹部になる手前ぐらいまでジョブローテーションで、さまざまな役割を通じて多様な経験を積んでもらい、能力を開発しながら適性のあるジョブを見つける。適性が見つかってくる頃には能力が高くなっているので、そこから管理職層になってもらい、今度はジョブ型で職務をしっかりとこなしていくという形に変えていく。管理職層は人件費の適正配分を行う。
2.職種で分ける
メンバーシップ型とジョブ型を「職種」で分ける方法。
高度な専門性を発揮する研究職、SE(システムエンジニア)などは、初めからジョブ型にして、スペシャリストを育成する。それ以外の職種、例えば営業職、企画職、事務・管理職は、メンバーシップ型によりジェネラリストを育成する。
3.昇格要件としてジョブ型を採用する
ジョブ型を「昇格要件」として取り入れる方法。
一般職層も管理職層も同様に、等級制度として「役割等級」を採用する。役割等級とは、後ほど詳しく解説するが、職務だけでなく、役割を持つ本人の能力も評価し、同一役職であっても「役割の大きさ」で等級を分ける等、役割の大きさに応じた賃金の設定を行う。
<各パターンの事例について>
(1)階層での区分(流通業:A社)
①一般職層は、さまざまな仕事にチャレンジする機会を設けることで成長を促すため、職能等級制度
②管理職層以上は、ジョブグレードすなわち職務等級を導入する
③職務はジョブのサイズを踏まえ、a.知識・経験、b.問題解決、c.達成責任 等の要素で整理される
(2)職種での区分(製造業:B社)
①高度な専門性を発揮する研究職、IT系職種(SE、ひいてはデータサイエンティスト)
または、事務職、物流職などの定型業務型の職種へのジョブ型採用
②将来のマネジメント層を養成するためメンバーシップ型雇用も並行して実施
(3)昇格要件での採用(卸売業:C社)
①等級制度は役割等級を採用し、昇格の際にジョブを活用するパターンであり、上位等級の職務遂行能力職務レベルで判断する方法
②一般職、管理職を問わず「業績づくり」、「実務遂行」、「組織貢献」、「理念実践」の役割等級を採用
③昇格要件に、昇格必須課業(タスク)を設定
まとめ
人事制度の改革にあたり、留意しなければならないことは改革目的であります。
ジョブ型雇用が取りざたされているから飛びつくのではなく、自社の風土、ビジネスモデル、人材の成熟度合い(成長レベル)、働き方など。十分なメリット・デメリットの検討の上、決して短期的視点ではなく、中長期的にみて事業運営を永続的に維持できる必要があります。
このあたりの理解を不十分なままに、単に流行っているからという理由でジョブ型人事制度の導入を行うと自社にフィットせずに失敗してしまう確率は高いと言えます。
筆者のコンサルティング実践事例を振り返っても、改革目的→マイルストーン(中間目標)→改革実現ための人事制度改革(手段)というステップを踏んできた企業においては、うまく人事制度改革まで歩めている実感がございます。
ぜひ、自社の持ち味を活かせる制度改革のシナリオを経営陣が共通のイメージをもった上(ビジョンの共有)で取り組んでいただきたい。
※本コラムは松本が、タナベ経営の経営者・人事部門のためのHR情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベ経営 HRコンサルティング事業部
HR大阪本部 本部長代理
松本 宗家
クライアントの立場に立った現場優先のコンサルティングを実践。組織戦略や評価連動型人材育成システムの構築など、人材に携わるコンサルティングに定評がある。「企業は人なり」をクライアント企業とともに体現することに心血を注いでいる。中小企業診断士。
主な実績
中堅商社/人事制度再構築コンサルティング
中堅製造業/人材採用コンサルティング
大手製造業/幹部研修
アパレル製造業/ジュニアボードコンサルティング
食品製造業・サービス業・ゼネコン/FCCアカデミー構築支援コンサルティング
各業種/考課者研修
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- 人材採用
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- キャリア開発
創業60年以上 約200業種 15,000社のコンサルティング実績
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強い組織を実現する最適な人づくりを。
企業において最も大切な人的資源。どのように育て、どのように活性化させていくべきなのか。
企業の特色や風土、文化に合わせ、組織における人材育成、人材活躍に関わる課題をトータルで解決します。
タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部(タナベコンサルティング コンサルティングジギョウブ) コンサルタント
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