上司と部下の信頼関係を築くために人事ができること
「部下を信頼できなくて辛いんです・・」
私は彼女の悩みを電話口で1時間弱耳を傾け、さらに
その部下からも悩み相談があったのを受けて、
双方の言い分を把握した上でアドバイスをしました。
本日のコラムでは、この一部始終と共に、
「上司と部下の信頼関係を築くために人事ができること」
についてお伝えしたいと思います。
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■年上女性部下のモチベーションを上げたい
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今回の相談内容と状況は以下の通りです。
<登場人物>
Aさん(女性管理職)
Bさん(女性部下。Aさんより年上)
<背景>
複数拠点を持つサービス業の企業で、事務系の
業務を担当するAさんチームは、各メンバーも
それぞれの拠点に散らばって業務対応しています。
Aさんはメンバーの中でもBさんをとりわけ信頼
しており、Bさんも拠点のスタッフから信頼されていました。
事態が一変したのは、Aさんと同じ現場にBさんが入り、
一緒に仕事をするようになった頃からです。
離れている時は見えなかったBさんの仕事ぶりが
気になってしまい、それまで仕事ができると
思っていたけれど、いまいち要領を得ないBさんに対して
Aさんは不満を抱くようになっていきました。
一方、Bさんも現場が変わって思うように
仕事が捗らず、自分に対してイライラしているのが
周囲から見ても分かるほどになっていました。
どんなに頑張っても周囲が納得するパフォーマンスが
出せず、Aさんからも認めてもらう機会も減ってしまい、
近頃では「もうどう思われてもいい」と開き直って
仕事へのモチベーションも下がる一方です。
<Aさんの相談>
・Bさんの「開き直り」が気になる
・Bさんと面談すると、モチベーションが下がっていて
給与面に不満があることが分かった
・Bさんにパフォーマンス発揮して欲しいが、対応方法が分からない
<Bさんの状況>
・Aさんに認めてもらえず不満が溜まっている
・自分がパフォーマンスを発揮していないことは分かっている
・昇給が叶わず、ますますやる気を失っている
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■ハーズバーグの二要因理論
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Aさん、Bさんからそれぞれ相談を受けた私は、
「ハーズバーグの二要因理論」
が頭に思い浮かびました。
<ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)>
アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱。
人間の仕事における満足度は、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と
「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものであるとする考え方。
動機付け要因の例:達成感・承認・仕事のやりがいなど
衛生要因の例:給与・作業条件・人間関係など
この理論からも、Bさんが「給与面の不満」を訴えていた
理由の根元には、「承認欲求が満たされていない」という
感情がBさんの中で渦巻いていると私は判断しました。
そもそも、社員の満足度UPを図らないことには、
生産性向上は見込めません。
Bさんの上司であるAさんは、一緒に仕事をするようになって以来、
Bさんのミスをフォローすることが重なり、承認よりも指摘するほうが
多くなってしまい、承認する機会を見出せなくなっていました。
その結果「Bさんを信頼できない自分が辛い・・」という状況に
なってしまったのです。
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■Bさんには承認を、Aさんには信じる勇気を
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私はまずBさんの気持ちを吐き出させることにしました。
Bさんは1時間以上かけて、会社や上司である
Aさんへの不満、自分が思うように成果を出せないもどかしさを
話してくれました。
私が顧問という外部の立場で関わっているからこそ
洗いざらい話してくれたかもしれませんが、私も
外部の立場だからこそ、Bさんの話を
よりニュートラルに受け止めることができていると思います。
また、Bさんは自分が仕事でパフォーマンスを発揮できて
いないことを自分で自覚していたので、私はあえてBさんの
力不足の部分について指摘することはしませんでした。
伝えたことは、Bさんの不満の根元である
承認欲求を満たすような声かけのみ。
「頑張っておられるんですね」
「必ず見ている人はいますよ」
「その取り組み姿勢は素晴らしいです」
と伝え続け、Bさんも少しずつ落ち着きを取り戻してくださったようです。
次にAさんに対して、Bさんとの話を通して気づいたことを、
支障がない範囲で以下のようなことを伝えました。
「Bさんは、モチベーション低くなっているように
見えるかもしれませんが、前向きに取り組んでいますよ」
「Bさんは、自分がもっとしっかり仕事ができるように
なりたいと思っていますが、少し時間がかかるタイプの
ようです。長い目で見守るのも一つかもしれませんね」
Aさんは、想像よりパフォーマンスが上がらないBさんに対して
「もっとできる人だと思っていたのに」と不満を抱え、次第に
「またミスをするんじゃないか」と不信感を持つまでに
至っていました。
その状態から、以前のような信頼関係を築き直すためには
多少時間がかかってしまうかもしれませんが、AさんとBさんの
関係を修復し、Bさんがパフォーマンスを発揮して生産性を
高めるためには、
先ずは上司から部下を信頼する
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ということが何よりも重要だと私は考えています。
だから、私はAさんがBさんを少しずつでも信頼して
Bさんのささやかな成果もクローズアップして承認する
といった機会を増やして欲しいと考え、Bさんはやる気が
あるんだということを繰り返し伝えたのでした。
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■上司と部下の間を取り持つ役割の重要性
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現在、AさんとBさんの間には少しずつではありますが
信頼関係を取り戻しつつある状況です。
Aさんは
「Bさんは時間は多少かかるけれど、
できるようになれば誰より生産性が高い」
と信じてBさんに向き合い、些細な部分も
良いと思えばクローズアップして褒めることを
意識しています。
Bさんは、Aさんは良き理解者かもしれない、
という気持ちが芽生えてきているようで、
給与が上がらないならやっていられない、という態度が
軟化したばかりか、衝撃の一言(↓)
「Aさん忙しそうですね、私にできることあれば言ってください」
という発言があったそうで、その驚きの言葉をもらった直後に
Aさんから即電話で報告を受け、Aさんと私で喜びを分かち合ったのは
言うまでもありません。
このように、利害関係が発生する立場同士の対立を解消するのは
当事者だけでは難しいものです。
できれば、当事者同士で乗り越えることができればベストですが、
部下のミスに対して苦言を呈して、チャンスを与えず仕事を
取り上げてしまう、という上司がいるという話もよくあるようです。
こういった場合は、その上司と部下の間だけの問題ではなく、
会社全体に課題があることが多いのですが、そうであっても
やはり上司である立場の人が、意思を持って部下を全面的に
信頼する行動を取らねばならないと思います。
その行動を阻害する原因を洗い出して分析し、
双方の関係性をよりよくするために効果的に
働きかけができるのは、人事担当者や、経営層に近い
トップマネージャーの方ではないかと思います。
ご存知のとおり、離職理由のトップが「人間関係」である以上、
人と人との間を取り持ち、結果として社員のモチベーションアップ
につなげて生産性を高めることは、会社成長に欠かせない
役割ではないでしょうか。
そういう意味で、人事担当者の役割は
非常に重要であると改めて感じている次第です。
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■外部の力もうまく活用する
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私も前職で人事担当をしていた頃には
ぎこちない関係の上司と部下の間に入っては、双方の言い分を聞き、
互いの文句は私の中だけに留めて、お互いの信頼関係を
再構築するための情報のみを、それぞれに伝えて
うまくコミュニケーションが図れるように持っていく、
という「橋渡し役」を担っていました。
ダイバーシティ経営コンサルタントとして
全社的な人材育成に関わっている現在も、
社内の人と人との間を取り持つ役割を果たしていますが、
社外の第三者として関わる方が、私の影響力も発揮しやすいせいか、
信頼構築のスピードが10倍ほど速い感覚があります。
まず社内の人事担当者などニュートラルな立ち位置で
間を取り持つことができればより良い結果が生まれると
思いますが、どうしても難しいという場合は
外部の力を借りるのも1つだと思います。
外出自粛にテレワーク・・
モチベーションダウン、イライラ度がアップしている
この時期に、信頼関係が崩れつつある状態をどう盛り返せばいいのか、
そんな相談が増えてきた今日この頃。
今回のコラムが、人と人とをつなぐ役目を担う人事担当者の皆様にとって、
少しでも参考になれば嬉しく思います。
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◆技術系企業D&I突破口となる次世代リーダー・女性管理職を育成
元NTT女性管理職10年、約500名のSE部門における人事育成担当3年の豊富な現場経験を持つ。これまでのべ5,000人以上の技術系企業のリーダー・管理職育成に携わる。専門は技術系企業に特化したD&I推進コンサルティング。
細木聡子(ホソキアキコ) 株式会社リノパートナーズ代表取締役/技術系ダイバーシティ経営コンサルタント/(公財)21世紀職業財団客員講師/中小企業診断士
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