人的資本経営とデータ活用(第95期 人事部長クラブ5月例会)
人事を分権化し、社内労働市場育成
95期人事部長クラブ5月例会が2023年5月26日に開かれ、早稲田大学政治経済学術院教授の大湾秀雄氏が「人的資本経営とデータ活用」をテーマに講演した。大湾氏は、人的資本投資を抑制する特殊構造が日本企業に存在していると指摘したうえで、人事の分権化を通じて、現場管理職の意識改革と社員の自己研鑽意欲の向上を図るべきとの考えを示した。
大湾氏は人的資本投資を抑制する日本の特殊構造の一つとして、「集中的人事が投資意欲をそいでいること」を挙げる。その結果として、人材育成の予算権限が現場に与えられておらず、自律的なキャリアが形成できないため、自己研鑽意欲が高まらない。そして、中間管理職の部下育成力が弱い。
また、世界各国で「仕事の面白さ」について質問した国際社会調査のデータによると、欧米の主要国では7~8割が「自分の仕事は面白い」と回答しているのに対し、日本では約半分の人しか自分の仕事が面白いと感じていないという。
一方で、「仕事の面白さは何によって決まるのか」に関しては、日本の場合の一番の決定要因は、「興味・関心のマッチ」であり、二番目は「人間関係」となっている。仕事が面白くないと感じる理由は「自分の仕事が自分の関心とマッチしていないから」あるいは「人間関係が良くないから」というわけだ。
こうしたことが起こる背景について、大湾氏は「人事が集権的にアサインしているためだ」と指摘している。解決策として、採用・育成・異動・配置に関して、現場がある程度権限を持ち、従業員にも選ぶ権利がある仕組みにすると、社内に労働市場が生まれる。
そして、内部労働市場が緊張感と圧力をもたらし、「職場を良くしていこう」というモチベーションを多くの管理職が持つことによって、職場の人間関係の改善が期待できるという。
加えて、従業員が行きたい職場を選べる仕組みを導入することで、仕事に対する姿勢が変わり、長期的に「自分は何をしたいか」を入社した時から考えることができる。自律的にキャリア展望を描くことで、どういったスキルや経験を身に付けるべきかを考えて行動するので、働きがいが生まれやすい。
個人と仕事のマッチング効率を引き上げることに効果をもたらしている施策の事例として、ソニーの人事異動施策を紹介した。新しい挑戦をしたいという個人の意志により希望する部署やポストに応募できる「社内募集制度」と、高い評価を得た社員に対してFA権を与える「社内FA制度」、本来の業務を続けながら業務時間の一部を別の仕事に充てられる「キャリアプラス制度」、新たなチャレンジを希望する社員と人材を求める部署をマッチングする「キャリアリンク制度」の4制度を組み合わせている。
もう一つの例であるシスメックスのマッチングアルゴリズムによる配属は、東京大学マーケットデザインセンターが導入を支援している。
社員が希望のポジションを希望順に複数選び、組織・上司は各ポジションの候補者を希望順に記載する。マッチングアルゴリズムを活用し、それぞれの希望度に基づいた厳正なマッチングを提案する仕組みだ。
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