逆説4,米国式人材マネジメントを導入しない
1990 年以降、日本企業は米国式の人材マネジメントの一部を導入してきた。 米国式人材マネジメントそれ自体は悪いものではない。職務定義(Job Description)、成果主義(Pay for Performance)、しかし、多くの日本企業では これらの施策はうまく導入・運用されていない。当該企業を取り巻く人材獲得 市場と人材の価値観の両方とバランスが取れていないからだ。
米国の人材市場は、日本の大企業のように長期雇 用を必ずしも前提にしていない(非長期雇用)。そのため労働者マーケットが発 達しており、人材紹介業も多く存在し、企業間での人材流動性が高い(高い人 材流動性)。また、雇う側も雇われる側も専門スキルの有無を強く意識しており、 それら専門スキルは職種別にある程度、整理・体系化されて存在し、転職時に はそれらの有無が重視される(職種別専門スキル)。
また、米国式市場では、経営者側が短期的に獲得できる成果を求める一方で、 従業員側は成果に対して合理的にタイムリーに報いて欲しいというニーズが存 在する(成果主義)。さらに、職種別の専門スキルの有無を重視するので、一つひとつの職務がどのようなものであって、それら職務にはどのようなスキルが 必要なのかを明確に定義しておくことが重要になってくる(職務主義)。このよ うな市場で人材獲得競争に勝つには、スキルがあればすぐに抜擢される魅力的 な短期選抜の仕組みが有効である。これが備わっていないと外部から人を採れ ない(人材の外部調達・短期選抜)。企業はすぐに成果を上げることができるス ペシャリスト人材を求め、そういったスペシャリストに成長の場を与えて短期 間で育てる(スペシャリスト型人材育成)。
このように見ていくと、成果主義や職務定義など、日本にも紹介されたいわ ゆる米国型人材マネジメントは米国の労働市場にとても合ったバランスの取れ た仕組みであるということがわかる。ここで「バランスの取れた」というのは、 米国の労働市場とマッチしているという意味であって、どこの国でも合う訳で はない。特に日本は全く異なる人材市場の特色を持っているため、米国式人材 マネジメントとのバランスをとるのは困難である。
一方で、日本式人材マネジメントもこれまではバランスを保っていた。人材市場は、大企業を中心に長めの雇用が前提である(長期雇 用)。労働市場も第二新卒や 30 歳前後のマーケットを除いては、それほど流動化はしていない(低い人材流動性)。一つの企業で身につけたスキルは、企業独 自のものであることが多く汎用性が効きにくい(企業特殊スキル)。そのような 人材市場では、長く勤めれば勤めるほど偉くなり報酬もあがる仕組みが適合し やすい。また、人々はいろいろな部署を経験しながら、能力と経験をじっくり と積みあげる(職能主義)。長期雇用であるため、内部人材育成を強く意識し、 新卒入社した社員をじっくりと鍛えるという考え方が強い。昇進や選抜は米国 の会社とは比べれば遅く、人材の選抜についても内部公平性を強く意識するた めに慎重である。このような環境では、自らのスキルを発揮したスペシャリス ト型ではなく、企業忠誠心の高いジェネラリスト型の人材が多数輩出される。
米国型も日本型もどちらも労働市場に合ったバランスのとれた人材マネジメ ントである。ここで最もやってはならないのは、米国型の仕組みをそのまま労 働市場の違う日本に入れてしまうことだ。労働市場に合わせずに仕組みだけを 取り入れてしまい、立ち行かなくなっている会社はこのことをあまり意識して いない。
成果をあげた人に競合他社よりも報いる仕組みをつくれば、成果をあげる人材を採用できるようになる訳ではない。労働市場が十分に機能していて、必要 とされるスキルが自社でも通用する職場環境があり、新たな人材を受け入れる 組織風土があってはじめて成果をあげる人材が来てくれるのだ。制度を入れた だけで、労働市場、職場環境、および組織風土が変わるのではない。労働市場、 職場環境、及び組織風土など全てに一貫してバランスのとれたポリシーがあってはじめて制度も機能するのだ。
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「人事の大学」を運営する株式会社JIN-Gの社長です/
ビジネス・ブレークスルー大学で准教授も務めます/
組織人事戦略コンサルタント
・株式会社JIN-G 代表取締役 組織人事戦略スペシャリスト
・ビジネス・ブレークスルー大学経営学部グローバル経営学科准教授
三城 雄児(ミシロ ユウジ) 株式会社JIN-G 代表取締役 組織人事戦略スペシャリスト
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