#1 休職者が出る職場の共通点
休職者が出る職場にはどんな共通点があるのでしょうか。ここでは特にメンタル不調により休職に至った原因を見ていきます。
1.メンタル不調者が現れる原因
独立行政法人労働政策研究・研修機構が2010年に発表したデータからメンタル不調者が現れる原因について、次のような結果が示されました(※1)。
まず注意すべき点は、この調査の回答者が、事業所の人事担当者もしくは健康管理の担当者であるということです。「本人の性格」という回答が67.7%になっている点など、前述の方々による主観的な捉え方が影響して割合が高くなっていることが考えられます。
そうした点は考慮した上ではありますが、「職場の人間関係(58.4%)」が半数を超え、「仕事量・負荷の増加(38.2%)」「仕事の責任の増大(31.7%)」も高い割合を占めていることは特徴的といえるでしょう。
メンタル不調になる原因は一つとは限らず、複数の要因が複雑に絡まっている場合が多いです。「家庭の問題(29.1%)」などの職場では解決することが難しい理由もありますが、「上司・部下とのコミュニケーション不足(29.1%)」などの日々の職場での人間関係も社員のメンタルヘルスに大きく影響していると考えられます。
では、実際に休職する社員はどのくらいいるのでしょうか?
厚生労働省が令和3年に実施した労働安全衛生調査によると、1年間の間に1ヶ月以上休職した社員がいる企業(※規模500人以上の事業所)の割合は87%でした。1年間という短期間であっても、休職した社員がいる事業所の割合は高くなっています。
休職者が出るということは、その会社における休職の仕組みや制度が整っていると考えることもできますが、いずれにしても休職する社員をできるだけ減らす取り組みをしていくことが必要です。
2. うつ病による休職者の再休職率は高い
休職後職場復帰したものの、再び休職する社員の割合も高いことがわかっています。厚生労働省の研究班の調査によると、うつ病で休職した社員のうち47.1%が5年以内に再発、再休職となっていました(※2)。
うつ病で休職した社員の再発・再休職率の割合は高いといえるでしょう。再休職率の高さからも、不調者を休職させたから、もう問題ないというわけではなく、その後の適切な再発予防トレーニングが重要といえます。
3.休職対策に力を割くべき理由は?休職は様々な形で会社に影響を及ぼす
一度休職すると再休職する可能性が高いからこそ、社員がメンタル不調を訴え、休職する前に早めに対処していく必要があります。以下では休職が会社に与える影響を2つ提示し、なぜ休職対策に力を割くべきなのかについて解説します。
①休職者が出た職場における生産性や心理的安全性の低下
メンタル不調によって休職した社員が出ると、休職した社員の業務を周囲の従業員が負担することで業務負荷がかかったり、時間内にこなすことができず、残業で業務を遂行する状況が生じます。一人当たりの業務量の増加によって、社員の生産性の低下にもつながります。
さらに休職した社員の業務を引き受けた社員は増えた業務量を減らしてほしいと言い出しづらかったり、職場にどんな問題があって休職したのかと疑問に感じることも考えられます。その結果、職場における生産性や心理的安全性が低下してしまう可能性があります。
職場で休職者を増やさないことは他社員の生産性の維持・向上やお互いの心理的安全性の確保のためにも重要になってきます。
②経済的損失や企業経営面への悪影響
休職によって会社側が支払うコストが発生したり、人的資本(※)の情報開示によって投資家からの会社の信頼が低下する可能性があります。(※人的資本...社員が身につけている技術や能力などを資本としてとらえた経済学の用語)
例えば、1人の社員がメンタル不調等に伴い休職し、周囲の社員の残業代で業務を遂行すると想定した場合、追加で422万円かかるという計算になります。また、メンタル不調による退職率も42%と高く、新しい社員を雇うための採用コストも考慮する必要がでてきます。
さらに、先進的な投資家の間で社員の健康管理・健康増進を企業が重要な経営課題の一つとして取り組んでいく「健康経営」への注目はますます高まっています。そのため企業が人的資本を可視化することが望まれるようになってきており、人事部門の責任者と投資家が直接対話をすることも少なくありません。
メンタル不調による休職を予防することは、社員一人一人の生産性を維持・向上させるだけでなく、コスト削減や社員や投資家からの信頼感の獲得にもつながります。
※本コラムは、ピースマインドの人事・労務向けコラム『はたらくをよくするお役立ち情報』に掲載している記事を転載したものです。
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参考情報
※1 独立行政法人労働政策研究・研修機構 平成24年 職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査
※2 厚生労働省 平成28年「主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究」
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大手不動産デベロッパーで長年経営企画業務を担当。ヘルスケア事業の立上げに携わったことを契機にメンタルヘルスケア業界に転身。従業員のメンタルヘルスケアや企業の職場改善、医療機関の経営再建に従事した後に、営業部長を経て現職。
吉野 学(ヨシノ マナブ) ピースマインド株式会社
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