「企業支援の視点から考える、精神障がい者の定着支援の試み」②
前回のコラム「企業支援の視点から考える、精神障がい者の定着支援の試み①」では、職場定着支援の背景となる、企業における障がい者雇用や治療と職業生活の両立支援の現状についてご紹介しました。後編では、本人のアセスメントや企業支援の工夫をご紹介いたします。
要因が複雑に絡む事例に対して、心理士の多角的なアセスメントによって、本人の適性や能力を確認し、今後のより良い働き方(本人の自己認識、職場の配慮等)の検討を目的として、職場定着支援プログラムを実施しています。
本人のアセスメントでは、客観的な指標として、心理・機能検査を用いて、知的発達の水準や性格傾向を確認します。さらに、個別課題やグループ課題を通して、職場で必要とされる作業遂行能力の確認し、本人が理解しやすいかたちで、特徴をフィードバックします。
また、企業支援としては、
①本人からのヒアリングによる障がい・疾病の状況の情報整理、
②人事・現場管理職からの情報収集による入社以降のパフォーマンスの確認、
③書面や受診同行による主治医からの病状聴取、
④本人に対するプログラム実施状況と疾病の現状を考慮した今後の見通しについての報告等の工夫をしながら介入を行います。
精神障がい者の雇用では、入社後にミスマッチやギャップが起こりやすく、職場でのパフォーマンス不良が問題となりやすい状況にあります。対応が必要な事例では、パフォーマンスの向上を目指すにあたり、疾病の治療と就労の両立が要となります。治療と就労の両立を叶えるためには、現在の症状の回復程度に併せて、職場における安全衛生面の留意事項や懸念及び個人の生活状況等について、総合的に検討しなければならないと言われています(小山,2017)。
また、企業の障がい者雇用の体制として、当該従業員の異動は多くありませんが、現場管理職が異動する可能性は十分あり、その際の連携が上手くなされないと、対応が後手となり、従業員の状態が悪化することが懸念されます。
複数の要因が混在し見立てが難しいケース、あるいは、複数名の関係者間で共通認識が持ちにくいケースでは、心理士が多角的にアセスメントを行い、関係者へ積極的にアウトリーチしていくことで、本人および企業の抱えるギャップを軽減することが可能と思われます。また、心理士ならではの細やかなフォローアップを行うことが、産業領域の心理士の役割として求められ、早期対処が実現できるものと考えます。
精神障がい者の定着支援に関しては、身体・知的に比べ、試行錯誤している企業が多いですが、採用の前段階から精神の専門家を上手く活用できると、受入れもスムーズで、その後の定着も安定していくと思われます。また、心理士が関わることで、社内外の医師との協働も可能となり、メンタルヘルス全般と同様に、より一層のリスクマネジメント強化が望まれます。
【参考文献】小山 文彦「『働き方改革』における治療就労両立支援の重要性」2017
- 安全衛生・メンタルヘルス
- 人材採用
- マネジメント
- その他
公認心理師/臨床心理士/シニア産業カウンセラー
【専門領域】障がい者雇用の企業支援、精神障がい者の採用・定着・育成支援
精神科・心療内科クリニックにて、医師との協働で会社員のメンタルヘルス相談等に関与。EAP事業会社にて企業のメンタルヘルス支援に従事。現在は、企業の人事部門に対する障がい者雇用のコンサルテーション、精神障がい者の現場管理職・本人支援を実施。
諏訪 裕子(スワ ユウコ) シニアコラボレータ―
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所在地 | 渋谷区 |