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【ヨミ】エイチアールビーピー

HRBP

HRBPとは?

HRBP(HRビジネスパートナー)は、経営層および事業部の責任者のパートナーとして、事業戦略と人事戦略を結び付け、策定・実行を担う人事の役割・機能です。
 
HRBPは現場のビジネスを深く理解し、経営や組織が抱える課題をしっかりと捉えなければなりません。組織開発や労務管理といった人事の専門スキルはもちろん、人や組織を動かすコミュニケーションスキルや人事戦略を立案・遂行するスキルも必要です。事業部門の課題を人事施策に反映させ、従業員のモチベーション・生産性向上を図りつつ、組織を成長させます。

掲載日:2018/11/06 更新日:2024/12/27
HRBP

HRBPとは

HRBP(HRビジネスパートナー/Human Resource Business Partner)は、事業部や本社人事と連携しながら事業戦略の実現を目指し、さまざまな人事施策を展開します。企業によってHRBPの定義は異なり、担う役割や機能も多様です。例えば、事業部門に所属し、その部門の人事責任者としての役割を果たすケースや、人事部門に所属しつつ事業部門のパートナーとしてサポートするケースなどがあります。企業はHRBPの部門や担当者を設置することで、従業員の採用から退職までを一気通貫で行うことができます。

2024年の『日本の人事部 人事白書』の調査結果によると、16.6%の企業が「HRBPがいる」と回答しました。従業員規模が5001人以上の企業では35.9%が「HRBPがいる」と回答していて、規模が大きい企業ほど、HRBPが存在している割合が高くなっています。

これまでの人事との違い

以前の人事は、主に日々の管理業務を実行することが役割とされていました。スムーズな組織運営を目的に活動していて、組織の戦略立案や実行に直接関与する部分は少なかったのです。それに対してHRBPは、経営戦略に基づき、採用から退職までの人事全般を一気通貫でデザインします。

CHROとの違い

CHROとは「Chief Human Resource Officer」の略で、人事部門の最高責任者のことを言います。HRBPが経営層や事業部門のパートナーであるのに対し、CHROは経営層の一員として人事部門を率いて、人事戦略の策定、施策実行の責任を負います。

これまでの人事とHRBPとの違い
これまでの人事 HRBP
役割 日々の管理業務を実行 事業戦略のパートナーとして人事施策をデザイン・実行
目的 スムーズな組織運営を目的とする 事業戦略と連動した組織成長と事業目標達成の支援
対応範囲 採用・労務管理などの特定業務 採用から退職までの人事全般
アプローチ 事務的・定型的な対応 戦略的で柔軟な対応
スキルセット 組織運営のための基本的な人事スキル 専門的な人事スキル、戦略立案能力、事業理解、コミュニケーション能力
経営との関係 経営戦略への関与は限定的 経営層と密接に連携し、経営戦略に積極的に関与

ウルリッチが提唱した概念

HRBPという概念を提唱したのは、アメリカのミシガンビジネススクール教授であるデーブ・ウルリッチといわれています。ウルリッチは、それまでの「人と組織に対してどのように活動するか」という観点ではなく、「いかに価値を提供し、企業経営に貢献するか」という観点から、人事部門に求められる役割を再定義しました。HRBPを「各部門の人や組織に関する課題を解決する機能」と分類しています。

【ウルリッチが提唱した人事の役割】

  • CoE(Center of Excellence)……人事の制度設計を行う
  • HRBP(Human Resource Business Partner)……CoEが設計した制度を用いて現場の課題を解決する
  • HR Ops(HR Operation Services)……給与計算などの定型業務を行う

HRBPが求められる背景

経営環境の変化

今日の経営環境は、テクノロジーの進化、グローバル化、リモートワークの普及などにより、急速に変化しています。従来の固定的な人事管理では対応しきれない状況が増える中、HRBPには組織が必要とする人材を柔軟かつ戦略的に育成・活用できる体制を整えることが期待されているのです。

人材獲得競争の激化

現在の売り手市場では、優秀な人材の確保が難しくなっています。特にDX人材など、高度なスキルを持つ人材のニーズが増加。HRBPは市場の変化を的確に捉え、事業部門が必要とする人材を確保するための戦略を立案し、企業の採用活動を成功に導きます。

戦略人事の重要性

「戦略人事」とは、経営戦略と人事(人材)マネジメントを連動させることによって、自社の競争優位の実現を目指そうとする考え方です。これまでのオペレーションを中心とした人事部門のあり方に対して、変化の速いこれからの時代に求められる人事部門の役割であると、デーブ・ウルリッチ氏が提唱した考え方です。戦略人事を実現するためには、経営層や事業部門の人事領域におけるパートナーが必要なのです。

HRBPの役割・仕事内容

事業戦略との連携

HRBPは事業戦略に基づき、人的資源を戦略的に配置・活用する役割を担います。例えば、新規事業立ち上げの際は、必要なスキルを明確にし、それに応じた採用・育成プランを構築します。また、中長期的な事業成長を見据え、現在の人材リソースと将来的な要件のギャップを把握し、採用計画や育成戦略に反映させることで、事業の持続的な発展を支えます。

経営陣への提言

事業目標を達成するために組織の現状を多角的に分析し、事業部門のニーズや課題を踏まえた戦略を立案し、経営陣に効果的な提言を行います。こうした提言により、人事が事業成長の一翼を担う存在としての価値を高めるのです。

現場の従業員支援

経営層だけでなく現場の従業員をサポートすることも、HRBPの重要な役割です。事業部門の責任者と連携しながら、従業員の育成支援やエンゲージメント向上を図ると同時に、現場の労務リスクにも目を配ります。

HRBPに求められるスキル

人事のプロフェッショナルスキル

HRBPには、採用・育成・評価・労務管理など、幅広い人事機能に関する専門知識と実践的スキルが求められます。これにより、最適な人材管理と組織運営が可能になり、企業の成長を支える基盤が整います。

戦略立案能力

HRBPには経営陣と連携し、企業の中長期的な成長を支える人事戦略を立案・実行するスキルが不可欠です。短期・中期の目標に応じた人材計画の作成や、事業に即した人事施策を企画するなど、経営目標達成に寄与する役割が期待されます。

ビジネス・事業理解力

HRBPには、自社ビジネスや市場動向に対する深い理解が求められます。事業モデルや競合環境の変化を把握し、人事施策に反映させることで、事業成果に直結する戦略を立てることが可能です。ビジネス全体への理解は、組織目標と一致した人事戦略の構築を支えます。

コミュニケーション能力

HRBPには、経営層、事業部門リーダー、現場の従業員など、多様な立場の人々と信頼関係を築くコミュニケーション力が不可欠です。異なる意見や背景を持つ人々と円滑に対話し、信頼をベースにした関係を構築することで、組織全体の調和と協力を促進します。

HRBPの導入ステップ

経営陣の理解

まずは、経営陣にHRBPの役割を理解してもらいます。HRBPは単なる人事担当者の延長ではなく、事業戦略のパートナーとして企業経営に貢献する存在であることを強調します。具体的な事例を交えてHRBPの重要性を説明し、組織としての同意と支援を得ることが不可欠です。

明確な人事戦略の決定

HRBPの導入に伴い、組織全体で共有できる明確な人事戦略を設定します。人事戦略とHRBPが担う役割がリンクしていなければ、組織は成長しません。目指すビジョンや人事としての方針を明文化し、HRBPと事業部門にしっかりと認識させるプロセスが必要です。

組織の再編成の検討と役割の明確化

現在の組織構造や役割分担を見直し、必要に応じて再編成を検討します。HRBPが円滑に活動できるよう、人事部門と事業部門の役割を整理し、重複部分を解消します。また、事業部門との密な連携体制を整え、HRBPが主体的に動ける組織基盤を構築することも重要です。

適切な人材の配置と育成

どのような人材をHRBPにするかを決めます。HRBPを社内で育成するか外部から採用するかは、企業の状況によって異なります。社内育成では企業文化への理解やコスト削減、キャリアパスの提供がメリットですが、新たな視点が不足しがちです。一方、外部採用は最新の知識や即戦力が期待でき、短期間で成果を出せる可能性がありますが、文化適応に時間がかかることや採用コストが高い点が課題です。

導入プロセスの実行と現場へのサポート

HRBPには、経営陣と現場の双方と信頼関係を築くことが求められます。HRBPが新たに導入された際は、現場に混乱が生じる可能性があるため、HRBPが必要とされる事業部門から段階的に導入していくことを検討します。また、HRBPが成果を上げられるよう、人事部門が適切に支援し、成功事例を他のHRBPにも展開できるようにします。

導入後の検証と改善

HRBPの導入後は、当初設定したビジョンや目標が実現できているかを定期的に検証します。成果が出ていないHRBPに対しては、スキルを向上させるためのトレーニングや制度の見直しを検討し、継続的な改善を行います。

HRBPの事例

富士通

富士通株式会社では、HRBPという言葉が浸透していなかった20年前から、現場に近い人事として経営陣への提言を行う役割が設けられていました。現在、同社のCHROを務めている平松浩樹氏は、本社人事からの施策を受け止め、現場へ説明する場面を多く経験しています。事業部門と経営陣をつなぐHRBPをうまく機能させるには、意向を伝達するだけではなく、現場の一員として自分事として向き合うことが必要だといいます。従業員と信頼関係を築くことで、現場からの率直なフィードバックが得られて、戦略人事の施策に反映させることが可能になります。

採用や育成といった人事の縦割りの機能を超えて仕事に従事してきた平松氏は、現在は社長から「私のHRBPとして事業戦略の実現を支えてほしい」と言われているそうです。同社が描くビジョンの実現に必要な要素を、具体的な人事戦略やテーマに落とし込み、迅速に取り組んでいます。

カゴメ

カゴメグループでは、2012年に人事面でのグローバル化の統括責任者に就任した有沢正人氏が当時、人事制度が機能していない状況を把握し、現場にヒアリングした事実をもとに、人事戦略が経営戦略のなかで最も重要であることを経営陣に提言しました。

その結果、2013~2015年度中期計画に「グローバル人事制度の導入」という形で、人事の課題が経営の第一課題として盛り込まれました。2017年からは、人材育成担当という位置づけでHRBP機能を導入。HRBPは「個人の自律的キャリア開発支援」「現場人事課題の明確化」「経営・本部と人事の強固なブリッジづくり」を担っています。現場における人事課題やその解決策について、意思決定機関である人材会議に報告・提案を行うことから、HRBPは役員レベルに近い能力を持った人材が担当しています。

三井化学

三井化学のHRBPは、人事部もしくはグローバル人材部のどちらかに所属しながら、事業本部と連携。役員や本部長クラスと事業戦略やサクセッション・プランなどの事柄について話し合います。ときには、HRBPが現場から孤立しないよう、現場との連携が強い人事部長がシニアHRBPとしてサポートすることもあります。こうした機能によって、各現場の状況を適切に把握し、スピーディーに人事施策と連携できるようになっているのです。

HRBPの設置に伴う課題とHRBPの育成ポイント

〈 プロフェッショナルに聞く 〉

大矢 雄亮氏
大矢 雄亮さん
株式会社グロービス
グロービス・コーポレート・エデュケーション ディレクター

株式会社グロービスでグロービス・コーポレート・エデュケーション部門全体の経営企画を担当する大矢雄亮氏は、HRBPが経営のスピードと自律性を高める上で極めて重要なポジションである一方、スキルセットの難易度が高く本質的な役割を果たせるレベルに至るまでにはGAPが大きいことや、経営層からの理解・支援が十分でないケースも散見されることが課題だと指摘します。HRBPを育成するには、人事や経営戦略の知識に加え、各ステークホルダーから信頼を得るためのリーダーシップやコミュニケーション力、能動的なスタンスなどを磨くことも重要だと述べています。

近年は市場環境の変化や技術革新の進展が激しいため、経営のスピードを上げて対応していかなければなりません。しかし、事業部の提案がなかなか承認されなかったり、本社と事業部で逐一すり合わせなければならなかったりと、スピード感に課題がある企業が多いのが実状です。経営のスピードを上げるには、各事業部に権限を委譲して迅速に意思決定をすることが重要ですが、その際に組織体制の要になるのがHRBPです。

HRBPという役割を新設したばかりのフェーズでは、必要なスキルが満たされていないケースも多いようです。HRBPを設けても、いちいち本社にうかがいを立てないと判断ができない、あるいは本社からの指示を遂行することに留まっているようでは事業部内の信頼も得られません。

HRBPを効果的に機能させるには、次の三つが必要だと考えています。

  • HRBP自身がスキルを高め、事業部側から信頼される人材になること
  • 経営層から事業部へ、情報や権限を適切に委譲すること
  • 社内でHRBPのプレゼンスを高める取り組みを行うこと

一つ目と二つ目は、経営層や事業部と対等にやりとりを行うために不可欠です。三つ目は、HRBPという役割になじみのない従業員に対して、「HRBPがどのような存在なのか」を伝えるために必要です。具体的には、トップからHRBPの役割や重要性に関するメッセージを発信したり、HRBP立ち上げ時期に社内のエース級人材を配置したりといった取り組みが挙げられます。

HRBPは、人事や経営戦略に関して精通している必要があります。しかし、知識があることは前提にすぎません。HRBPに最も求められるのは、経営層や事業部の責任者から信頼されることです。そのためには、事業をけん引する「リーダーシップ」や、相手を思いながらも最終的には会社のためを貫ける「コミュニケーションスキル」、情報をアップデートして自発的に課題設定や施策のアイデアを考え事業部側に働きかける「能動的な姿勢」などが欠かせません。

特に「能動的な姿勢」は大切です。受動的な姿勢では、事業部内の「御用聞き」で終わってしまいます。世の中の普遍的な知見トレンド、他社での取り組みなどの情報をつかんで提案したり、現場のメンバーの実情や本音の声を拾い、リアリティある課題認識や対策の提案ができたりすると、事業部からの信頼を獲得しやすいでしょう。

HRBPは人事部と事業部のどちらも経験がある人が理想ですが、そのような人材はあまり多くありません。例えば、事業部での経験がなくても、部署内の業務や課題をヒアリングし事業について理解を深めたり、自分なりに抽象化したものをまとめて提案したりといった行動をいとわない人材が、HRBPとして活躍できます。

HRBPを育成する上では具体的な知識や資格といったハードスキルに加え、リーダーシップやコミュニケーションスキル、能動的な姿勢といったソフトスキルも必要です。ソフトスキルは素質によるものと思われがちですが、原理原則を知り、自身の認識をアップデートしながら実践を繰り返していくことで身に付けられます。HRBPを育成する際は、ハードスキルとソフトスキルの両方の習得を追求していくことが重要です。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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