【第7回テーマ】
グローバルに活躍できるコア人財の育成
【第7回テーマ】
グローバルに活躍できるコア人財の育成
『日本の人事部』は、2011年1月21日(金)に、第7回「HRクラブ」を開催いたしました。
今回のゲストは、中外製薬株式会社 顧問の熊谷 文男氏。
第1部の講演では、2002年10月に中外製薬がロシュと戦略的アライアンスを締結し、外資系企業に生まれ変わったことを契機として、いかに組織改正と人財育成に取り組んできたのかについて、お話しいただきました。また、第2部では、熊谷氏がファシリテーターとなり、参加者同士による事例の共有や、ディスカッションが行われました。現在、人事担当者にとって最重要課題の一つである「グローバル人材育成」について、深く考えることができた今回のHRクラブ。当日の様子を、レポート形式でご紹介いたします。
【第7回 開催概要】
- ■ テーマ
- グローバルに活躍できるコア人財の育成
- ■ 開催日時
- 2011年1月21日(金)18:30~20:30
- ■ ゲストスピーカー
- 中外製薬株式会社 顧問 熊谷 文男氏
プロフィール: 中外製薬株式会社 顧問、製薬企業米国駐在員OB/OG会のアメリカファルマ会 会長。1975年 中外製薬入社、臨床開発部門に配属。13年間、13品目の新薬開発に従事。1988年 米国関連会社(ニューヨーク及びシカゴ)に5年間出向し、国際開発に従事。1993年 帰国後、プロジェクトマネジメント制度の導入・確立を担当。2003年「新生中外製薬」発足一年後から人財開発部も兼務。研究部門及び臨床開発部門、プロジェクトマネジメント及びライフサイクルマネジメント関連スタッフ組織の人財育成を担当。2007年 参与人財開発部長。2010年 現職。「プロジェクトマネジメント」及び「人財育成」に関わる学会、セミナー、研究会、大学等での講演や執筆は多数。
グローバルに活躍できる人財の定義とは?
中外製薬に入社後は、長年にわたり開発に携わってきたという熊谷氏。2002年、同社がスイスの大手医薬品メーカー、ロシュの傘下に入ってからは、「人財育成」にも取り組まれてきたそうです。(同社では、人材を「財産」と考え、「人財」と表記するとのこと)。今回は、熊谷氏の長年にわたる幅広い「グローバル」に関する経験に基づき、数多くの事例や経験についてお話しいただきました。
まずは、「グローバルに活躍できる人財をどのように定義しているか」について、いろいろな方たちの見解を紹介。この中で熊谷氏は、大来佐武郎(おおきた さぶろう、元外務大臣)、明石 康(あかし やすし、元国連事務次長)による定義が、「最もしっくりくる」とのことでした。その定義とは、「外国の人々と一緒に、違和感なしに自然体で仕事ができる人。国際関係を抽象的に物知り顔で語るのではなく、広く内外でのびのび働き評価される実践型・対話型の日本人」というものです。
なお、中外製薬としては、「グローバルに活躍できる人財」を、「Challenge(挑戦)」「Commitment(当事者意識)」「Communication(相互連携)」という、三つの「C」で定義しているとのこと。それでは、同社はそのような人財を育成するために、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
製薬企業は、他の製造業に比較してグローバル化が遅れていたそうです。1980年前後には、日本での医薬品の売上だけで全世界の売上の約30%を占めており、日本の製薬企業が海外に進出する必要がなかったことが大きな理由です。現在では、日本における医薬品の売上は、全世界の約9%にまで落ち込んでいるそうで、製薬企業の急速なグローバル化が進みました。同社では2002年に、ロシュとのアライアンスを実施しました。その結果、国内の製薬企業で第4位になるまで成長しました。
「グローバル人財」をどのように育成していくのか?
熊谷氏は、これからの「できる人」とは、「大学名」や「会社名」で判断されるのではなく、「何が専門なのか」「どんな仕事をやってきたのか」が問われるといいます。また、日本語のほかに英語ができるのは当然で、それに加えて、他の言語も使える必要性も出てくるとのこと。
昨今、多くの企業が「英語の公用化」を進めたり、昇進・昇格の条件に、TOEICのスコアを課したりするなど、社員の英語力の強化に注力しています。同社でも、TOEICのスコアを昇格時の目標や研修受講の基準として設置。また、実際の英会話力の向上にも力を入れているそうです。
しかし、熊谷氏は、「グローバル人財」とは、単に英語が話せる「英語屋」ではなく、ビジネスの現場で力を発揮できる人であるべきだといいます。実際、同社では、実践的なロールプレイや、シミュレーションにも力を入れているそうです。
例えば、同社の取り組みのひとつに、LCT(LifeCycle Team)in Actionというものがあります。熊谷氏がこのプログラムに参加した際は、18カ国から30人の人がスイスに集まり、一週間に渡って生活を共にしながら、シミュレーションゲームを楽しんだそうです。資料を大量に読み、その内容を元にディスカッションを実施。参加者それぞれが、異文化交流を図り、多くの実践的な体験をすることができたといいます。
続いて、中外製薬としてのグローバル人財育成に関する取り組みを紹介。特に、「グローバル人財育成の裏ワザ」に関する説明は、参加者の関心が高かったようです。一例を紹介すると、人財を評価する場合、過去や現在の評価ではなく、「これから仕事で何ができるのか」に視点を置いているということ。また、ボトムアップではなく、コア人材に対して、集中的に教育を行なっていること。一方で、その他の人財に対しても研修の受講後には個人別に「処方箋」を出し、半年後には上司と本人とが成長の度合いを確認しあうなど、さまざまな工夫が紹介されました。
1時間という限られた時間の中では、語りつくすことができないほど、さまざまな話が聴かれた、第1部もここで終了。熊谷氏の講演を通じて、「グローバル人財」とは「英語力」に限らず、ビジネスパーソンとして、幅広い力が求められていることがわかりました。参加者も、その重要性について改めて認識したようです。
参加者は「グローバル人財」をどのように考えたのか?
続く第2部では、第1部の講演を受け、熊谷氏への質疑応答と、三つのチームに分かれてのディスカッションを実施しました。ディスカッションのテーマは「貴社ではグローバルに活躍できる人材をどのように定義していますか」と「グローバルに活躍できる人材を育てるにあたって、特に難しいと感じている点は何ですか」。ディスカッション後は各チームの代表者が、話し合った内容について、発表しました。(以下、発表の内容から一部抜粋)
「英語ができなくて勉強すべき人も、仕事が忙しくて、そのための時間を割けないのが実情。また、本人の意欲はどうかという問題もある」
「日本人には、積極性や危機感がない。要件に組み込んで逃げられないようにするなどして、グローバル展開に向かわせることが重要だ」
「グローバルに展開する企業では、『国境』という考えはない。その中で、日本人をいかに売り込んでいけばいいのか。日本人は会議の場ではとても静かだが、他の国の人材はしっかりと自分の意見がいえる。本格的に日本人がグローバル展開を目指していくなら、この問題は避けては通れないだろう」
「グローバルに仕事を進めていく上で、『仕事ができる人』と『英語ができる人』であれば、やはり、前者への期待が大きい。しかし、その人は英語が不得意だということもあるだろう。社内に、自ら学ぼうとする風土を醸成していく必要がある」
企業によってその取り組み状況や問題点はさまざまでしたが、共通しているのは、「グローバル化」が現在の最重要課題であるということ。今後、この流れはさらに加速化していくと考えられますが、その際に重要となるのは、やはり、いかにグローバル人財を育成していくかということでしょう。今回のHRクラブは、参加者の皆さまにとってグローバル化について真剣に考え、進めていく上での大きなポイントとなったようです。
グローバル人財という大きなテーマを語るには、2時間という時間は短かったようで、今回は終了時間をオーバーしてからも、ディスカッションや質疑応答が行われました。それでも、「まだ話し足りない」「もっと熊谷氏のお話が聞きたい」という参加者が多数。そこで、既に恒例となっていますが、今回も居酒屋にて懇親会を開催。グローバル人財に関する熱い情報交換が、夜遅くまで続きました。
【参加者の声】
≪講演の感想≫
- 体系的なお話から具体的手法までお教えいただき、大変参考になりました。
(マスコミ 経営管理 課長) - 密度の高いお話でしたが、とても分かりやすく聞くことができました。
(不動産 管理部 スタッフ) - 参考になる仕組みが多かったです。多くの制度があることは、とても素晴らしいと思いました。
(総合機器メーカー グローバル人事 シニアスペシャリスト) - 実際に起こっている苦労話についてお伺いする時間が、もう少し欲しかったです。
(金融 総務人事マネージャー)
≪ディスカッションの感想≫
- 先進的な取り組みを行なっている企業から事例を聞くことができ、大変勉強になりました。
(不動産 管理部 スタッフ) - さまざまな企業の情報が、とても参考になった。
(メーカー系コンサルティング会社 教育研修グループ長)