CASE2:短時間型派遣スタッフ「時短スタイル」が組織改革につながる可能性
株式会社スタッフサービスでは、14時まで・16時までの時短勤務や、週4日以内で勤務するような派遣スタッフの働き方を応援。「時短スタイル」と銘打って、企業にも積極的な働きかけを行っています。企業にはどのような効果が期待できるのでしょうか。同社で時短スタイルを推進する執行役員の平井真さんにうかがいました。
- 株式会社スタッフサービス 執行役員 東京オフィス事業本部 本部長
平井 真さん - (ひらい まこと)2002年、スタッフサービスに入社。事務職派遣の営業職を経たのち、技術者派遣のオフィス長を7年間務める。2013年、技術者派遣領域のユニット長として近畿エリア全体を統括し、2015年4月より事務職派遣部門の東京事業本部長に就任(現任)
いま、企業は時短の派遣スタッフをなぜ必要としているのでしょうか。
いくつかの要因はありますが、最近だとやはり、首都圏を中心とした急激な求人数の上昇による人手不足です。フルタイムの正社員を採用するのはもちろん、アルバイト・パート採用にも苦労しているところが少なくありません。そこで、フルタイム一人分の仕事にはならなくても、部分的に業務を切り出して派遣スタッフに任せたい、というニーズは確実に増えていますね。たとえば本当は営業5名体制にしたかったところを営業4名+アシスタント2名の体制にし、デスクワークを時短の派遣スタッフが引き受けることで、営業は顧客提案に集中するような動きです。
また、人手不足は企業が自社で雇用する人材だけの話ではなく、派遣スタッフもフルタイムで就業できる方が十分に足りていません。そのため、フルタイム1名という企業からのオーダーに対して、「時短スタッフ2名ではいかがですか」と我々からご提案することもあります。実は、フルタイムを希望するスタッフが足りない一方で、「時短で働きたい」と当社に登録する人たちは年々増えています。子育てと両立しながら働きたいという女性が増えているからです。特に東京では、その傾向が顕著ですね。企業・個人双方のニーズが高まるなか、時短スタイルは、2年続けて稼働人数が130%上昇しています。
そうした時短スタイルの増加によって、企業側も新たな活用の仕方を始めています。たとえば繁閑の波がある企業では、特に忙しい曜日だけに投入しています。「週3日だけ働きたい」というようなスタッフにとっても魅力的な就業先ですし、フルタイムの人材を一人受け入れるよりも、人員配置を最適化しやすいでしょう。
また、育児休暇中の社員の代替役として派遣スタッフが必要とされるニーズは以前からありましたが、各社がダイバーシティ推進に取り組むなかで、派遣の活用の仕方が変わってきたのも追い風になっています。それは、「育休社員の復帰後の働き方を見越して、時短の派遣スタッフを受け入れることで準備しておきたい」というもの。つまり、“出産前の社員の代替”ではなく、“復帰後の準備・リハーサル”として時短スタイルを活用しているのです。企業側の意識として、「もはやフルタイムを前提とした組織では生き残れない」という危機感も影響しているのではないでしょうか。
ニーズが増えている一方で、一律の働き方ではない人を受け入れることには苦労しないのでしょうか。
もちろん、大多数の企業がこれまで“短時間だけ働く人”を受け入れてこなかった訳ですから、社内にある業務のほとんどはフルタイムの人が遂行することを前提に組み立てられています。そのため、業務やタスクを整理・分解して切り出すというような、短時間JOBを作り出す過程に苦労されるケースもありますね。
しかし、タスクを切り出すことによって得られる、副次効果もあります。ブラックボックス化していた業務のマニュアル化が進んだのが最たる例です。業務を分解し複数の担当者が協働で一つの仕事を進めるようになり、組織のチームワークが向上したというご意見もいただきました。マネジメントにも好影響を与えていますね。時短スタイルで働く人は、14時や16時に退社しますので、フルタイムとはスケジュールの感覚が違います。曖昧に指示を出すのではなく、期限や仕事のゴールを明示することや、余裕を持って仕事を渡すことが必要。そのように意識するようになったことで、自然とマネジメントのスキルが向上したという声もいただきました。
さらに経営観点で言えば、仕事が見える化され、構造改革が進むという側面もあります。業務の棚卸を行うことで、派遣スタッフに任せる仕事が明確になるだけでなく、「この業務はIT化しよう」「あまり意味がない業務なので、思い切って廃止しよう」といった検討材料が得られます。派遣の就業は多くの場合、当社のような派遣会社の営業と配属先となる現場責任者の方とで打ち合わせますので、経営や人事の視界では気づきにくい業務の各論に言及して業務改善ができるのもメリットです。
時短スタイルで働く側にとってはどんな影響がありましたか。
象徴的なのは、「働く理由」が就業前と就業後では傾向が変化したことです。働きはじめた理由は、「家計のため」と回答する人が全体の8割でしたが、時短スタイルで働いてからは「仕事が楽しいから」と答える人の割合が上昇しました。単に仕事内容や環境に満足しているだけではなく、“仕事とプライベートの両立が実現できている”ことが、仕事が楽しいという感覚につながっているのではないでしょうか。
また、「いずれはフルタイムで働きたい」という意向も上がっており、時短スタイルで働くことで自信をつけている人も多いようです。出産や育児をきっかけに離職していた方の中には、再び社会に出ることに不安を感じている人も多いですが、そういう人たちが自信をつけるステップにもなっているかもしれません。
最後に時短スタイルの拡大で目指す姿を教えてください。
人手不足は今後も間違いなく続きます。これからは組織が多様な働き方を受け入れない限り、事業成長はあり得ない時代。これは何も企業単体の話ではなく、社会全体の問題なので、日本が経済成長していくための取り組みとして時短スタイルを拡大させていきたいですね。
また、働く個人にとっても、時短スタイルは「小さな子どものいる女性が一時的に選択するもの」とは限りません。たとえば、育児で時短を選択した人がフルタイムに復帰しても、数年後に親の介護の問題で再び時短を選択したい場合もあるでしょう。それが叶わずに離職してキャリアが断絶するのは、本人にとっても企業や世の中にとっても大きな損失。ライフステージの変化にあわせて働く時間を柔軟に何度でも変えられる姿が、これからの時代の働き方だと思います。
CASE3:ハイスキル人材の新たな活躍の形「ZIP WORK」という働き方
ZIP WORKER 山崎 浩司さん
「ZIPWORK」(ジップワーク)とは、特定分野のスキルに長けた人が時間を限定して企業で働き、専門性を活かした価値をスピーディーに発揮するという、「短時間JOB」の進化形。育児中の女性に限らず、さまざまな立場のハイスペック人材がこの働き方を選んでいるといいます。果たしてZIP WORKは、企業や個人にどのような効果をもたらすのでしょうか。ZIP WORKを推進している、株式会社リクルートスタッフィングの平田朗子さんと、この働き方を選んだZIP WORKER(ジップワーカー)である山崎浩司さんにインタビューしました。
- 株式会社リクルートスタッフィング エンゲージメント推進部 部長
平田 朗子さん - (ひらた さえこ)1985年リクルートに入社。2004年10月に(株)リクルートスタッフィングへ転籍し、 首都圏の人材派遣の営業マネジャー、営業部長などを歴任。全国の派遣スタッフ数の多いクライアントに、人材派遣や人材採用に関する総合的な提案を行う総合戦略推進部 部長や、事務未経験を対象にした無期雇用派遣『キャリアウィンク』の事業責任者を経て、16年より現職
- ZIP WORKER 山崎 浩司さん
- (やまざき こうじ)会社員としてマーケティングや営業支援を幅広く経験後、2016年4月に独立開業。クライアント企業に対する販促企画支援を本業としながら、17年10月よりZIP WORKERとしても働く。
「ZIP WORK」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
平田:もともとは、育児中の女性が短時間で活躍できる働き方を模索するなかで生まれた発想なんです。「働きたくても働けない」という女性のうち3割は、「自分の希望する条件に合う仕事が見つからない」ことをその理由として挙げています。時間的制約による条件の不一致に加えて、短時間の仕事には自分のスキルや経験を活かせるものがないから働かない、というケースが多かったんですね。専業主婦をしている女性のなかには、出産するまで専門的な業務経験を積み、特定分野のスペシャリストとして活躍していた人も少なくありません。そんな彼女たちですら、仕事に復帰しようと思っても時間的制約に阻まれているのが実情でした。そういう状況を受け、短時間でもキャリアを活かし、高度な専門性を発揮できる仕事が必要だという考えから生まれたのが「ZIP WORK」です。山崎さんのように“育児が理由ではない人たち”が、この働き方をポジティブに選ばれているのは、ZIP WORKを推進するなかで新たに見えてきた発見なんですよ。
山崎:私がZIP WORKという働き方を選んだのは、育児が理由ではなく「本業との両立」ができる仕事だからです。私は2016年に独立して企業の販促支援を本業としていますが、まだ創業間もないこともあって、どうしても収入には波があります。安定的な収入の基盤をつくる方法を探していて出会ったのがZIP WORKでした。今は、動画配信システムを手がける企業で、マーケティング業務に従事。週3回、10時~17時をZIP WORKERとして働き、残りの時間を使って本業に打ち込んでいます。
平田:実は、ZIP WORKERの中で育児を理由にこの働き方を選んでいる方の割合は36%。残りは山崎さんのようなダブルワーカーが30%で、学業や介護との両立が理由の人もいます。これは推進する私たちにとって非常にうれしい結果です。育児中の人が働きやすい仕組みは、他の多くの人にとっても働きやすい仕組みであり、多様な働き方を生みだしやすいのだと思います。
企業はどんな目的でZIP WORKを導入されていますか。
平田:まずは何と言っても、人手不足の解消ですね。特に法務や人事など管理部門系の専門職は、フルタイムで働ける即戦力人材が見つかりにくく、多くの企業が苦労されています。そのためZIP WORKを検討すると選択肢の幅が広がる分、即戦力人材が確保しやすくなりますね。人手を必要とする理由は、たとえば「新規事業を素早く立ち上げるために、社内では手薄な役割を担ってほしい」「業務改善を目的に、一定の業務だけ切り出して任せたい」「後回しになっていた業務に、集中して取り組んでほしい」など。限られた時間で働くからこそ、スピーディーに仕事をして結果を出すことが求められるようなニーズと相性が良いですね。
山崎:今、私が働いている会社も、これまで手薄だったマーケティング分野の強化を目的にZIP WORKを導入したようです。たとえば私が就業開始直後に担った仕事は、展示会への出展。初出展で進め方に迷われていたようですが、私は前職で経験があった分、主催企業とのやり取りや展示内容の企画などをすぐに進めることができました。また、私が意識していることは、短時間勤務だからこそ最初から時間をかけて完璧なものをつくるのではなく、たたき台をつくって方向性の確認を取ること。顔を合わせて打ち合わせをする機会はどうしても限られてしまうので、相手との認識がずれないような仕事の進め方を意識しています。そうした少しの工夫があれば、フルタイムで働いているみなさんとも違和感なく働ける気がしますね。はじめは周囲のみなさんもZIP WORKERと一緒に働くことに戸惑った部分もあるかもしれませんが、次第に私の仕事を評価してくれて、いろんな人から相談をいただくようになりました。
平田:山崎さんの就業先のように、「最初は半信半疑だったけれど、一度導入してみたら予想以上に良かったので、積極的にZIP WORKERの受け入れを検討するようになった」という企業はとても多いですね。これまでの日本では、フルタイムで働ける人を前提に組織を運営してきましたから、はじめにZIP WORKERを受け入れるときは、多少勇気も必要ですし、不安な面もあるとは思います。しかし、ZIP WORKERは専門性の高いプロフェッショナル人材ですので、彼らの特性にあった仕事の任せ方をすれば、きっとその効用を実感できるはず。もともとのスキルの高さに加えて、働ける時間が限られているので生産性がとても高く、プロジェクトを一気に加速させるきっかけになった例もあるほどです。
ZIP WORKを活用すると、どんなメリットがあるのでしょうか。
山崎:働く側の立場で言えば、収入が安定したおかげで本業に安心して取り組めるようになったのが一番うれしいことですね。また、ZIP WORKは自分のスキルを活かして働く仕事なので本業との親和性も高く、本業のヒントになることも多い。そのため、単に収入のために働いているというよりも、両方の仕事で相乗効果を得ている感覚です。本業だけだと視野が狭くなりがちですが、別の軸を持つことで学びが得られるのもうれしいことです。
平田:企業側にとっても、ZIP WORKERと共に働くことが変化のきっかけになっている場合があります。既存社員が持っていなかった経験やスキルを持ち、さまざまなバックグラウンドを背景に、フルタイムではない働き方をする人と一緒に働くことで、多様性を受け入れる風土が根付いていきます。また、ハイスキル人材の働き方をお手本として、フルタイムの人たちが生産性向上に本腰を入れはじめたという事例もあります。個人が自らの持ち味を発揮しつつ、生産性高く働くことは、時間的制約があるかどうかにかかわらず、すべての人にとっての“あるべき姿”。その重要性に気づき、会社として本気で取り組むためのきっかけをZIP WORKが担っていると感じています。