【後編】転勤制度見直しを解説!制度変更の3つのポイントとは?
メンバーシップ型の雇用制度の中で、人材の成長や組織活性化の一手段として活用されてきた転勤制度。しかし、働き方や「労働」に対する価値観の多様化等、企業を取り巻く環境変化により、その意義や役割が見直されつつあります。
本記事は、転勤制度が見直されている背景やポイントを解説する後編記事です。
________________________________
前編目次
・今、転勤制度が見直されている理由
・転勤制度の目的とデメリット
・転勤制度変更において検討すべきポイント1:複数の雇用管理区分の用意と内容の変更
後編目次
・転勤制度変更において検討すべきポイント2:「転勤のあるコース」を選んだ従業員への配慮
・転勤制度変更において検討すべきポイント3:リモートワークを活用し、遠隔地からの勤務を可能に
・転勤制度見直しのファーストステップ
________________________________
転勤制度変更において検討すべきポイント2:
「転勤のあるコース」を選んだ従業員への配慮
前編から続いて、2つ目のポイントは「転勤のある雇用管理区分(コース)」を選んだ従業員に対して、従業員個人の事情やキャリアに関する考え方等を把握し、従業員への配慮の仕方を見直すことです。
入社時に「転勤があるコース」を選んだ従業員も、ライフステージの変化やキャリア志向の変化によって転勤に対する考え方も変わり、転勤を望まなくなるケースが多々あります。
特に転勤の場合、従業員の転居が伴うこともあり、従業員の希望や意思、キャリアに関する考え方を汲まずに一方的に進めてしまった場合、エンゲージメントが大幅に低下するリスクが発生します。
エンゲージメントの低下防止のために、雇用契約書や就業規則等で転勤を定めているとはいえ、従業員の意思や希望をなるべく汲めるよう、企業側でも望まない転勤を減らすためのアクションをすることが有用です。
従業員の意志に配慮すればするほど、従業員が望まない転勤は減りますが、その分当初の転勤目的を実現させることが難しくなります。
転勤を進めるうえで、従業員の意思や事情にどの程度配慮しているかは企業によって様々ですが、「配慮の程度」について、筆者の所感を以下にまとめました。
_____________________________
従業員への配慮が極めて高い:従業員に転勤の拒否権がある
従業員への配慮が比較的高い:従業員に転勤の拒否権は無いが、従業員個人の事情を考慮したり、従業員へ事前の相談を行なっている
従業員への配慮が比較的低い:従業員に転勤の拒否権や事前の相談は無いが、個人事情を一定程度考慮する
従業員への配慮が低い:従業員に転勤の拒否権と事前相談は無く、基本的に個人の事情も考慮しない
_____________________________
上記の通り、「配慮の程度」を分類した要素としては3つあります。
・転勤の拒否権
・従業員への事前相談の有無
・個人事情の配慮
転勤の拒否権は、従業員に転勤を伝えた際、従業員側にその拒否権を持たせることです。拒否権を持たせている企業は数多くないものの存在します。
従業員への事前相談の有無は、転勤候補者を絞り込む段階で、転勤できそうかどうか従業員に事前相談をするケースです。
しかし、事前相談時に従業員が転勤を拒否したい意向を示したとしても、拒否権を与えていない場合は、最終的に該当従業員に転勤を命じることもあります。
個人事情の配慮は企業ごとに異なりますが、転勤候補者を絞り込む際や最終決定する際に、人事や現場部門が候補者の個人事情を一定程度参考にすることを指します。
<従業員に配慮する項目例>
・本人の健康状態
・家族の病気・介護
・子どもの教育・進学
・配偶者の妊娠・出産
・配偶者の仕事
・住宅の取得
筆者の所感ですが、従業員が1,000名以上いる企業において、従業員へ事前相談はしないものの、転勤の候補者を選ぶ際に各人の家族事情等を参考にする企業(上記の表「従業員への配慮が比較的低い」)は3〜4割ほどです。
事前相談をしていない企業では、その理由として、事前相談時に「転勤をしたくない」と明言した従業員に対しても、その後正式に転勤を伝えなければならないケースがあることが挙げられます。
しかし、事前相談無しに転勤を命じられた従業員は、事前相談があったうえで転勤を命じられた場合よりも「まったく配慮されていない」と感じることもあります。事前相談をしていない企業は検討する価値があるかもしれません。
転勤制度変更において検討すべきポイント3.:
リモートワークを活用し、遠隔地からの勤務を可能に
前述したポイント1,2は以前より検討・変更されてきた内容でした。
近年では、「転勤ありの雇用管理区分」を選択した従業員が遠隔地の事業所を拠点とする部署へ異動となっても、実際に転居を伴う転勤はせず、リモートワークでの勤務を可能にする企業が徐々に増えています。
たとえば、筆者が所属しているチームには事業所の概念が無く、メンバーは東京・大阪・福岡の事業所に所属しており、他部署から異動する場合でも転居は不要です。各自オフィスに出社することもありますが、基本的に打ち合わせはオンライン会議にて行います。しかし、週2〜3回、案件やチームミーティング、1on1等で対話する時間は十分捻出できています。
リモートワークが可能か否かは職種に依存しますが、リモートワークが可能な職種では、このような運用が検討されるケースは今後増えると考えられます。
転勤制度見直しのファーストステップ
前章までにおいて、雇用管理区分や個人事情の考慮の仕方、リモートワークの活用による遠隔地からの勤務等、転勤制度の見直し要素について紹介してきました。
最後に、転勤制度見直しの第一歩として、確認すべきポイントを2つご紹介します。
1.転勤制度の必要性を確認する
最初に、自社にとっての転勤の必要性を確認します。
本記事では企業が転勤制度を行う主要な目的として、「適切な人材配置の実現」と「従業員の育成」をあげました。
まず、これら2つの目的が、どの程度従業員を転勤させることによって実現しているか、転勤がないとどれほど実現できないかを確認します。
たとえば、地域限定コースで管理職に昇格できる場合、地域限定コースで管理職になった人と転勤を繰り返して管理職になった人でどの程度能力差があるのか比較します。その結果、実は大して能力差がないとわかるケースもあるでしょう。
「適切な人材配置の実現」と「従業員の育成」が転勤制度以外の方法で達成できるのであれば、転勤制度の縮小を検討しやすいです。転勤制度に大きく依存する一方で、デメリットも大きい場合は抜本的に考え直す必要があるかもしれません。
たとえば、無理に教育目的での転勤を考える必要がない場合は、転勤すべき人の絶対数を減らせる可能性が高くなります。また、各地域の地域限定コースの人数を増やし、地域別採用を強化するといった対応で、長期的に転勤者数を減らすことも考えられます。
2.転勤制度が引き起こすデメリットの確認
次に、転勤制度による目的の達成度とデメリットを比較した際に、デメリット、つまりネガティブな要素が大きくなりすぎていないかを確認します。
転勤制度のデメリットの一つとして、望まない転勤による従業員のエンゲージメント低下について取り上げました。
たとえば、転勤を経験する前後の従業員のエンゲージメントの変化や転職をきっかけとした退職者数の変化についての調査や効果測定は、ネガティブ要素を確認する際には有効です。
転勤制度の必要性とデメリットの程度の差に応じて、検討方針も異なります。それらを下の表にまとめました。
上の表以外にも様々な検討ができますが、転勤制度が目的にどの程度寄与しているのか(=必要性)と、転勤制度が引き起こすデメリットの2点を天秤にかけることで、転勤制度そのものの変更を考える必要があるか、従業員への配慮などの運用方法を見直すべきか、検討の方向性を定めることができます。
自社の転勤制度を見直す際、漠然と転勤制度をどのようにするか検討するのではなく、まずは自社の状況を、必要性とデメリットの2軸にわけてざっくりと分析することが有用です。
本記事が貴社の転勤制度見直しの参考になれば幸いです。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- キャリア開発
WHI総研
入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。現在は各企業の人事部とのディスカッションと、それらを通じて得られるタレントマネジメント、戦略人事における業務実態の分析・ノウハウ提供に従事している。
奈良 和正(ナラ カズマサ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研
対応エリア | 全国 |
---|---|
所在地 | 港区 |