【前編】転勤制度見直しを解説!制度変更の3つのポイントとは?
メンバーシップ型の雇用制度の中で、人材の成長や組織活性化の一手段として活用されてきた転勤制度。しかし、働き方や「労働」に対する価値観の多様化等、企業を取り巻く環境変化により、その意義や役割が見直されつつあります。
本記事では、転勤制度が見直されている背景やポイントについて前後編で解説します。
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前編目次
- 今、転勤制度が見直されている理由
- 転勤制度の目的とデメリット
- 転勤制度変更において検討すべきポイント1:複数の雇用管理区分の用意と内容の変更
後編目次
- 転勤制度変更において検討すべきポイント2:「転勤のあるコース」を選んだ従業員への配慮
- 転勤制度変更において検討すべきポイント3:リモートワークを活用し、遠隔地からの勤務を可能に
- 転勤制度見直しのファーストステップ
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今、転勤制度が見直されている理由
働き方や「労働」に対する価値観の多様化等により、転勤制度を見直す日本企業が徐々に増えています。
2021年の新型コロナウイルス感染症拡大と共に、リモートワークが普及してから、転勤制度の見直しを検討しはじめる企業が増えたように感じます。
働き方や働くことに対する価値観が多様化したことで、求職者や従業員が「より自分に合った働き方」をこれまで以上に描きやすくなり、リモートワークといったコミュニケーション手段が発達することで、自身が描いた働き方を実現できる選択肢も広がったためです。
転勤制度については、出産・子育て世代の従業員の活躍をはじめ、多様性推進の観点から以前より見直されてきましたが、転勤を望まない求職者や従業員の増加が想定されるため、企業側は自社の魅力付けや従業員の引き止めを目的に転勤制度を再考しています。
実際に、日本経済をリードするような複数の大企業が「希望しない転勤の撤廃」を推進する動きをみせています。
一方で、転勤制度は各地域への人員補充や従業員の人材教育手法として、企業にとって必要な制度として導入されており、転勤制度の見直しは慎重に行う必要があります。
転勤制度の目的とデメリット
転勤とは、転居を伴う異動のことを指しますが、そもそも転勤制度は企業経営においてどのような役割を果たしているのでしょうか。本章では、転勤制度の主な目的やデメリットについて解説します。
■転勤制度の主な目的
転勤制度の主な目的は以下の2つです。
●適切な人材配置の実現
転勤制度における最も基本的な目的は、適切な人材配置の実現です。
全国に事業所がある場合、ある事業所での人材不足や事業所の新設等、事業所内での異動や管轄エリアにおける採用のみでは、従業員の補充が困難な場合があります。
そのような際に、別地域の事業所から該当事業所、部署、ポストに配置できる従業員を転勤させることで、従業員の需要と供給の調整を行い、適切な人員配置を実現します。
●従業員の育成
日本企業におけるホワイトカラーのキャリア形成では、仕事の経験の幅を広げることが重視される傾向があります。
事業所や管轄エリアの枠を越え、従業員に様々な環境と業務を経験させることができる転勤は、幅広い経験の他、スキルを持った従業員の育成において有用な手段と言えるでしょう。
また、育成の対象は「非管理職」というイメージが強いかもしれませんが、管理職を対象にした経営幹部育成、経営幹部候補育成等にも転勤制度が利用されることがあります。
ここでは、大きく2つの転勤制度の目的について取り上げましたが、この他にも以下のような目的もあります。
・組織の活性化
・組織内の連携強化
■転勤制度のデメリット
転勤制度の利用により達成可能な目的がある一方、転勤は従業員の転居を伴うため、以下のようなデメリットも生じます。
1.転居費用等、諸費用の負担が発生する
転勤により転居が必要となる場合は、それに伴う諸費用を企業が補填するケースが大半です。補填内容には、支度料、荷造運送費、単身赴任手当等があります。
支度料や荷造運送費は一時的な費用であり企業や職位、家族帯同の有無によって金額は変動しますが、10万~30万円ほど発生します。単身赴任手当も同様に要件によって変動しますが、毎月3万~5万円ほどの費用が発生することが多いようです。
2.望まない転勤が引き起こす従業員のエンゲージメント低下
転勤がある企業の場合、従業員は雇用契約書や就業規則等に記載された「企業の転勤命令権」に同意のうえ入社します。
しかし、ライフステージの変化やキャリア形成の過程で転勤に関する考え方が変化したり、転勤がしづらくなる事情ができることによって、従業員が転勤を望まなくなることもあるでしょう。
こうした中、転勤を望まない従業員に転勤を命じたことで、エンゲージメントや生産性の低下、離職による人材の流出等に繋がる恐れがあります。
3.望まない転勤による採用率の低下
冒頭でも触れましたが、リモートワークの普及により、多種多様な働き方が可能になりました。そのため、自身のキャリアや働き方を考えるうえで「望んでいない転勤をすることがないか」を気にする求職者が増えているように筆者は感じています。
そのような中で、従業員の多様な要望に応えるべく、従業員が望まない転勤をさせないような人事制度を制定している企業もいるでしょう。
自社の競合にそのような企業がいた場合、優秀な求職者が競合他社に流れる可能性があり、その結果、自社の採用率が低下してしまう恐れがあります。
転勤制度変更において検討すべき3つのポイント
経営環境の変化に伴い、各企業も転勤制度の見直しや変更をしてきましたが、働き方や働くことに関する価値観が多様化した今、企業はどのような観点で転勤制度を見直すべきでしょうか。
転勤制度の変更において検討すべき3つのポイントをご紹介します。
■ポイント1. 複数の雇用管理区分の用意と内容の変更
1つ目のポイントは、「転勤や異動等を通じて、様々な経験を積めるような雇用管理区分」や「一つの拠点や職種に従事し、転勤することがないような雇用管理区分」等、複数の雇用管理区分を用意したり、その内容を変更することで、転勤の有無について従業員の選択肢を増やすことです。
従来より、転勤できない事情を抱える従業員も安心して働けるよう、転勤なしを選択できる雇用管理区分(コース)が準備されてきました。これらは「勤務地限定社員制度」「地域限定社員制度」等と呼ばれることもあります。
転勤ができない事情を抱える従業員向けの雇用管理区分を用意し、従業員の意志で雇用管理区分を選択できるようにすることで、「望まない転勤」を減らすことが可能です。
転勤のないコースは、転勤のあるコースに比べて手当や基本給が低く設定されたり、職種や昇進・昇格の制限が設けられることが一般的です。
雇用管理区分と報酬について、下記のイラストで整理しました。
(株式会社Works Human Intelligence作成)
※1.全国転勤なしの区分には転勤エリアを限定する区分と原則転勤無しの区分に分かれることがあります。
※2.昇進・昇格はおもに経営陣より下位職位までにおける昇進を指しています。
転勤制度を見直す場合、「転勤なし」もしくは「転勤エリアを限定」するような新しいコースの設置や、従来設けられていた「転勤のあるコース」と「転勤のないコース」における手当や賃金の差を調整することで、「転勤のあるコース」を選択する従業員の増加を図ることや、「転勤のないコース」を選択しやすくすることがあります。
実際、リモートワークが普及した昨今、望まない転勤を避けるために、従業員が従来より「転勤のないコース」を選択しやすい環境づくりを重視した制度変更が増えたように感じます。
一方で、企業には各事業所や管轄エリアに必要な人員数を適正に配置することも求められ、「転勤がある」働き方を選択する従業員も一定数確保しなければなりません。
今後、「転勤を望まない従業員」と「転勤を望む従業員」の間の人員配置バランスをとるためには、「転勤のないコース」と「転勤のあるコース」の賃金/手当以外の差を無くしていく企業が増えると考えられます。
具体的には、「転勤のないコース」を選んだ従業員も管理職への昇進を可能にするという方法が挙げられます。
この動きと同時に、「転勤のあるコース」においては、従業員からの人気が低い地域への手当や賃金を増やすといった制度変更も今後増加すると考えられるでしょう。
後編では続くポイントと転勤制度見直しのファーストステップをご紹介します。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- キャリア開発
WHI総研
入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。現在は各企業の人事部とのディスカッションと、それらを通じて得られるタレントマネジメント、戦略人事における業務実態の分析・ノウハウ提供に従事している。
奈良 和正(ナラ カズマサ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研
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