部下を叱れない管理職にお勧めの、フィードバックの標準形
部下を叱れない管理職が増えています。これへの対処法が、部下へのフィードバックの「標準形」をつくること。パワハラを回避しつつ、部下に行動変容を促す方法論を解説します。
部下を叱れない管理職への処方箋
部下を叱れない上司が増えています。パワハラへの逆風が強くなる中、「こんなこと言ったら、パワハラと受け取られてしまうのでは…?」と部下に接するのに「おっかなびっくり」。筆者は企業研修で管理職向けに指導することが多いのですが、人事の方から、「ウチの管理職は部下指導ができなくて…」という悩みを最近よく聞きます。
そんなときにおすすめなのが、部下へのフィードバックの「標準形」を作ることです。具体的には、下記のフォーマットがお勧めです。
事実 : その部下の現在の言動が適切でないことを相手に認識してもらうために、事実(ファクト)を収集しておき、告げます
意図の確認 : 部下が、何らかのねらい(意図)をもってその言動を行ったかを確認します。ねらいが誤っていた場合、それを修正します
評価 : それが適切でないこと、もたらすデメリットなどを説明します
基準 : 本来の「あるべき姿」を伝えます。できれば事前に伝えておくとベター
具体的行動 : 「何を、どう変えて欲しいのか」を伝えます。その際、「素早く」や「なるべく早く」など曖昧な表現を避けて、誰が聞いても同じ理解をできる言葉にします
確認 : 理解(解釈)がズレている可能性があるので、確認します
動機づけ : 新たな行動をとることにやる気を高めます。相手のやる気の源泉を刺激するように表現ができればベター
自己効力感アップ : 部下が「自分もできる」と思えるよう、期待感を言葉にしたり、実践している人を例に挙げたり、あるいは自身の過去の失敗談を語ります(モデリング)
そもそも必要がない「部下を叱る」
ここまでお読みいただくとおわかりかと思いますが、いわゆる「叱る」、つまり大きな声や威圧的な態度で指導することは、お勧めしていません。叱ることによって部下との信頼関係が崩れてしまうと、その後の指導が部下の心の中に入っていきません。ましてや、人材の流動化が進み、「早めに成果を上げてもらう」ことの重要性が高まった今、叱ることは不要であると結論づけられるでしょう。
では、先ほどのフォーマットに戻って、具体的な会話例を紹介します。
事実 : 先日のお客様からの問合せメール、○○さんが返信したのは2日後でした
意図の確認 : わざわざ2日後に返信したのは何か意図があったんですか?
評価 : その返信スピードだと、お客様の満足度は高めることはできないので、適切ではありません
基準 : 以前もお伝えしたかもしれませんが、一次返信は24時間以内でお願いします
具体的行動 : 完璧な返答でなくてもいいんです。間違いなく問合せを受けつけた旨を返信して下さい。具体的には、こんな文章になります…
確認 : これからは実行できそうですか?/何か疑問はありますか?/今のポイント、ご自分の言葉で復唱してもらえますか?
動機づけ : これをやると、お客様にすごく信頼してもらえるので、その後の商談がやりやすくなります
自己効力感アップ : 実は私も若い頃はこれを知らなくて、一度失敗したことがあったんです。ところが、すぐに一次返信するクセをつけただけで…
なお、最後の「自己効力感」ですが、「自分はできる」という感覚で、自信(中核的自己評価)の源です。部下にしてみると、上司から指導された新たな行動をできるかどうか不安なところもあるでしょう。これを、「自分もできる」と思ってもらうために必要なのです。
部下育成の本質は行動変容
冒頭の問題意識に戻りましょう。部下を叱れない管理職への対応が、本稿のテーマです。しかし、その裏返しとして「部下を叱れるようになりましょう」というのが今の時代に即していないことは明らかです。
むしろ必要なのは、部下指導の本質への理解。そもそも叱ることは目的ではなく、本来的には「部下に適切な行動をとってもらう」、すなわち行動変容こそがその本質です。これを実現するための方法論が、ここまで紹介したフォーマットによる標準形の確立です。
ちなみにこの、「標準形」というところもポイントです。実はフォードバックの受け取り方は、部下によって個別性が高く、全ての部下に同じような言い方は通用しません。実際、管理職の方ならば、「わかりました!」と返事はいいのに行動は変わらない部下、少しでもネガティブなことを持ち出すと、「私だって頑張っているのに…」と感情的になる部下…など、さまざまなタイプに心当たりがあるでしょう。
逆説的ですが、個別性が高いからこそ標準形が必要だと筆者は考えています。基準が何もない中での試行錯誤は迷走につながりかねません。そうではなく、一つのフォーマットを基準とすることで、「この部下には行動の具体化を強くしてみよう」、「この部下には自己効力感アップをはたらきかけよう」と、調整をうまくはたらかせることができるのです。
もし、「当社の管理職は部下指導ができない」という悩みにマッチしたら、参考にしていただけると幸いです。
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グロービス経営大学院の立ち上げを担った人材育成のプロ
ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る
木田 知廣(キダ トモヒロ) シンメトリー・ジャパン代表
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