2024年 合理的配慮の義務化、人事の対応は
合理的配慮とは2016年に日本に正式に導入された、障害のある人への配慮方法の考え方です。2021年現在は、企業などの民間事業者は義務ではなく努力義務という状態ですが、改正障害者差別解消法が成立したことで、民間事業者も義務化されることが決まりました。法律が施行される2024年以降は、合理的な理由がない「配慮の拒否」は法律違反になります。
■ あなたの会社は大丈夫? 合理的配慮に関する「理解度チェック」
合理的配慮の義務化に向けての準備するにあたり、制度の理解は大丈夫でしょうか。以下の「理解度チェック」を確認してみてください。チェックリストを実施して、制度への理解に不安を感じた人事ご担当者様は特にこの後の記事に目を通していただき、義務化に備えて頂けると幸いです。
- 問1 企業は、障害者から働く上で支障があると申出があれば、すべて対応しなければならない。
- 問2 合理的配慮の対象者は、障害者雇用率にカウントされる障害者手帳を持っている従業員に限る。
- 問3 募集・採用時の合理的配慮は、障害者ご本人からの申出がなかったとしても実施をする必要がある。
- 問4 職場における支障の有無の確認は募集・採用時にしっかり行っているので、入社後にあらためて実施する必要はない。
- 問5 健康診断により障害があると新たに分かった場合、合理的配慮について確認が必要な対象者として対応している。
■ 企業における「合理的配慮」の基本的な考え方
合理的配慮義務の対象となる「事業主」は、全ての事業主が合理的配慮の法的義務の対象とされています。企業の大小に関わらずすべての会社に義務付けられるということですね。また、対象となる「障害者」は、障害者手帳を持っていない方についても、一定の条件を満たす場合は、対象となる障害者に含まれます。
合理的配慮を行うにあたっては障害者本人から申し出てもらう必要があります。配慮事項は、障害者の個別事情や、職場環境によって具体的内容は大きく異なります。合理的配慮の提供に当たっては、事業主と障害者の話合いにより決定されるものとされています。障害者が求める措置が、事業主にとって過重な負担に該当する場合には、障害者と話し合い、過重な負担にならない範囲で配慮を行います。
■ 募集・採用時に企業が注意すべきこと
募集・採用時についても、基本的な考え方にのっとり、障害者本人から配慮の希望を申し出ることが基本です。面接日等までに時間的余裕をもって事業主に申し出ることが求められています。事業主は本人から申し出を受けたら、具体的な配慮事項の内容について話合いを行いましょう。
<募集・採用時の合理的配慮の例>
- 視覚障害:採用試験の点字や音声等による実施、試験時間の延長
- 身体障害:面接の際にできるだけ移動が少なくて済むようにする
- 精神障害:面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認める
- 発達障害:面接・採用試験について、文字によるやりとりや試験時間の延長等を行う
■ 入社後の職場で企業が注意すべきこと
事業主は雇入れ時までに、障害があることが分かっている場合には、職場において支障となっている事情の有無を確認し、支障となっていることを改善するための措置(配慮事項)の内容を確認する必要があります。支障の有無を確認する機会は、職場環境の変化を考慮し入社時に限らず必要に応じて定期的に確認を行うものとされています。
合理的配慮の手続きにおいては、障害者の意向を確認することが困難な場合は、就労支援機関の職員等に、その障害者を補佐する支援を求めても差し支えないとされています。配慮の内容が事業主にとって「過重な負担」である場合の話し合いがもつれてトラブルとなり、当事者同士での話し合いの継続が困難となった場合などには特に、支援機関の助けを借りるとよいでしょう。
<入社後、職場での合理的配慮の例>
- 視覚障害:移動の支障となる物を通路に置かない、机の配置や打合せ場所を工夫する
- 身体障害:スロープ、手すり等を設置する、職場内での移動の負担を軽減する
- 精神障害:できるだけ静かな場所で休憩できるようにする
- 発達障害:業務指示やスケジュールを明確にして指示を一つずつ出す
■ 合理的配慮と障害者枠との違いは? 内容に差をつけるべき?
合理的配慮が民間企業に適用される以前から、日本の企業には障害者手帳を持っている方を対象とした障害者雇用制度が先行して存在しています。今回の合理的配慮の義務化により、障害者手帳を持たない障害者、つまり一般枠雇用であっても障害があれば、適切に配慮する義務が生じた点が、企業にとってのこのたびの大きな変化でしょう。
では、障害者雇用で受けられる配慮と、一般枠雇用における合理的配慮には、違いがあるものなのでしょうか? この疑問に対する明確な答えはまだ無く、これから制度が施行される中で様々な議論が起こることが予想されます。現時点で確実にいえることとしては、「障害者差別解消法」における合理的配慮と比較して、障害者雇用制度のほうが「障害者雇用促進法」で様々な助成金や制度が整っており、金銭的にも時間的にもより手厚い配慮ができる環境が整っている、という点です。
■ 「理解度チェック」 答え合わせで理解を最終確認しましょう
問1. 企業は、障害者から働く上で支障があると申出があれば、すべて対応しなければならない。
回答:誤
解説:合理的配慮は、個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべきであり、事業者への過重な負担となる配慮の要請には応じなくてよいものとされています。その場合、障害者との話合いの下に、意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で合理的配慮慮を行うとが指針に示されています。
問2. 合理的配慮の対象者は、障害者雇用率にカウントされる障害者手帳を持っている従業員に限る。
回答:誤
解説:合理的配慮を提供する対象障害者は、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」とされており、障害者手帳を所持していない方々も合理的配慮の対象となります。
問3. 募集・採用時の合理的配慮は、障害者ご本人からの申出がなかったとしても実施をする必要がある。
回答:誤
解説:募集・採用時には、どのような障害特性を有する方から応募があるか分からないことや事業主がどのような合理的配慮の提供を行えばよいか不明確な状況であることを鑑み、障害者ご本人からの申出をもって、障害特性に配慮した必要な措置をとるものとされています。
問4. 職場における支障の有無の確認は募集・採用時にしっかり行っているので、入社後にあらためて実施する必要はない。
回答:誤
解説:職場の状況の変化、また障害の状況によっては、その程度が変化し別の配慮が必要となる場合も考えられます。そのため、事業主必要に応じて定期的に、当該障害者に対して職場において支障となっている事情の有無を確認することが求められています。
問5. 健康診断により障害があると新たに分かった場合、合理的配慮について確認が必要な対象者として対応している。
回答:誤
健康診断を通して事業者が取得する情報は、労働者の健康確保を目的として把握するものであり、合理的配慮を目的とするものではありません。個別の事情を考慮しながら、あらかじめ合意を取っておくなど、その都度適切に対応する必要があります。
雇用において合理的配慮を行う目的は「障害によりパフォーマンスを発揮することを妨げている場合は、適切な配慮を行う」ことです。一般論として障害者雇用に比べ、一般枠のほうが給与等の処遇が良い場合が多く、合理的配慮はそれに見合った成果を発揮してもらうための配慮を行うものです。そのうえで、事業主の過重な負担とならない「合理的な配慮」の範囲では、期待するパフォーマンスを発揮することが難しい場合には、より配慮ができる素地が整っている「障害者雇用」に切り替えることを検討していただく、というのが適切な流れなのかもしれません。
■ まとめ:合理的配慮を適切に運用するためのポイント
これまで確認してきた通り、合理的配慮は対象となる障害者ご本人と、事業主が話し合い、相互理解によって行われるものです。しかし何をもって合理的な配慮といえるかどうかをはじめのうちから当事者のみで確認することは、経験がない場合には難しいかもしれません。その場合は、各社の先行事例を確認したり、専門機関に相談することが有効でしょう。ぜひ自社のリソースのみで対応しようとせず、外部のリソースも上手に活用しながら、障害者ご本人はもちろん、企業全体の利益向上に繋がるような合理的配慮の提供に取り組んでみてください。
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精神・発達障害人材の活用に関する企業コンサルティングのプロフェッショナル
これまで30社を超える国内大手・外資系企業の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画しています。
大野 順平(オオノ ジュンペイ) 株式会社Kaien 就労支援事業部 法人向けサービス担当 ゼネラルマネージャー
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