第27回 事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
前回まで、特殊な労働時間制を導入している場合の給与計算の考え方について、数回に分けて説明してきました。
今回は、一般の会社でも多く導入している「事業場外労働に関するみなし労働時間制」を紹介します。
営業職など社外で業務をすることが多い従業員がいる会社では、この制度を取り入れた就業規則を規定している会社がほとんどです。しかし、社会情勢が変化しているにもかかわらず、漫然と従前の就業規則のまま運用していたために、労働基準監督署の調査で是正指導を受けたり、会社にとって厳しい判例が出ているケースもあります。
ここで改めて、事業場外労働に関するみなし労働時間制の考え方を整理しておきましょう。
<事業場外労働に関するみなし労働時間制とは?>
従業員が社外(事業場外)で業務を行う場合は、上司等の指揮監督が及ばないため、労働時間の判定をすることが困難になります。
そのような場合に、使用者に課されている労働時間の算定義務を免除して、あらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度が「事業場外労働に関するみなし労働時間制」です。
事業場外で仕事をする従業員がいる会社は、珍しいことではありません。一般的には、営業職など会社の外で業務を行う従業員はすべてこの制度の対象になると考えられているようですが、この制度の対象となるには、以下の3つのいずれにも該当していない必要があります。
1)何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合。
2)無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合。
3)事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合。
近年では、携帯電話が普及したことにより、2)の要件に該当し、事業場外労働とは認められないにもかかわらず、従前のまま対象者として取り扱われているケースが増えています。
みなし労働時間制の導入を検討している会社はもちろん、すでに制度を導入している会社であっても、専門家や労働基準監督署に業務内容等を伝えて、対象者となり得るか再確認することをお勧めします。
<労働時間の算定方法>
事業場外のみなし労働時間制における労働時間は、次の3つの方法で算定します。
1)所定労働時間
2)所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間
3)2)に該当する場合で、労使協定で定めた時間があるときはその時間
ここで算定された時間数は、あくまでも「事業場外労働」に対してのみなし時間です。労働時間の一部を事業場内で労働した場合には、その時間については別途把握しなければならず、「みなす」ことはできない点に注意が必要です。
つまり、1日の中で、事業場内での業務と、事業場外での労働の両方がある場合には、「事業場内における実際の労働時間」と、「みなし労働時間制により算定される事業場外で労働した時間」を合計した時間がその日の労働時間数になります。
営業職の方で、朝いったん会社に出社し、社内業務を行ってから外回りに出かけるといったようなケースは注意が必要です。
<割増賃金の計算方法>
事業場外のみなし労働時間制を適用していたとしても、割増賃金の支払いがすべて免除されるわけではありません。
次のいずれかに該当する場合は、別途割増賃金の支払いが必要です。
1)時間外労働
終日、事業場外で業務を遂行した場合で、事業場外労働のみなし労働時間数が所定労働時間を超えている場合は、超過時間は時間外労働になります。
また、一部の時間を社内で業務した場合には、その事業場内での労働時間数と、事業場外労働のみなし労働時間制により算定された時間の合計時間がその日の労働時間になります。その時間が所定労働時間より多ければ、超過時間は時間外労働になります。
これらの超過した時間は、通常の残業代の計算と同様に、1日8時間を超えているのであれば、2割5分以上の割増賃金を支払う必要があります。
2)休日労働
休日に事業場外のみで業務を遂行したのであれば事業場外のみなし労働時間が、一部を社内で業務した場合には、事業場内での労働時間数と事業場外のみなし労働時間制により算定された時間の合計時間が、休日に勤務した時間数になります。
法定休日に休日労働をした場合は、3割5分以上の割増賃金を支払う必要があります。
3)深夜労働
事業場外労働のみなし労働時間の対象であっても、午後10時から午前5時までの間に実際に労働したときは、その時間については 2割5分以上の割増賃金を支払う必要があります。
事業場外労働に関するみなし労働時間制において、労務管理や給与計算上、最も注意をしなければならないのは、労働時間の一部を事業場内で勤務した場合の取り扱いです。
「営業職は営業手当を支給しているから残業代を支給しない」といった会社もあるようですが、携帯電話の普及など社会情勢は変化しています。対象となる業務が適切か、労働時間の一部を社内で労働した場合の算定方法は適切に規定化されているかなど、この機会に再チェックしてみてはいかがでしょうか。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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