第2回「魔法のノート」
このコラムでは、わたしが出会った素敵なマネジャーたちの物語をご紹介します。彼らのストーリーの中に、「働く」を「幸せ」に変えるための大切なヒントが詰まっていると思います。ぜひ、感じ取ってください。
*このコラムは実話をベースに作成しておりますが、社名や氏名、そして若干の設定を変更したストーリーとなっています。
第2回「魔法のノート」
新任マネジャーの高木は頭を抱えていた。
4月に念願のマネジャー昇格を果たし、1年目の今年は何としても良い成果を残したいと思っていた。自分を引き上げてくれた部長、そして自分の昇格が正しかったと人事にも見せ付けたい。そう思っていた。同期よりもマネジャーへの昇格が遅れた高木には強い思いがあった。
しかし現実は甘くなかった。高木は自分と共に成果をあげていく仲間の部下達が、自分の足を引っ張っているように感じていた。何度も何度も同じミスを繰り返し、何度も何度も叱り続ける。「いい加減にしろ」と正直思っていた。
ちょうど半年たった10月に人事部主催で新任マネジャーのフォローアップ研修が用意されていた。研修は新任マネジャー同士がグループになりお互いの現状の悩みを共有し、お互いに解決策を考えるというスタイルらしい。
研修と言うより、新任マネジャー同士の作戦会議と言う感じだ。
研修と言えば一方通行の重たいものという認識があったが、同じ立場で悩んでいる仲間達と話し合いながらというスタイルは新鮮だった。思わず愚痴大会になりそうになると、講師ではなくファシリテーターという外部のリード役がさりげなく介入してき対話を促進していた。
最初は自分の悩みを披歴することに抵抗感があったが、その場の雰囲気とファシリテーターに促され素直に自分の悩みを話してみた。
「なんど指導をしても言う事を聞かない部下がいるんです。」
「何度注意しても治らないのでやる気がないんだと思うんですが・・・。」
「最近はついつい怒鳴ってしまうというか・・・。」
「皆さんの中に同じことで悩んだことのある方はいませんか?解決策の糸口とか?」
ファシリテーターに促され、一人の参加者が手を挙げた。彼も自分と同じく遅れてマネジャーに昇格した山田だった。山田の話は興味深かった。
「同じことで悩んではいませんが、同じことで課長を悩ませたことがあります。新入社員の頃、いつも課長に怒られていて正直自信を失っていました。途中からは何で起こられているのか?なぜ怒られているのかもわからなくなり、いつも課長の怒りを鎮めるための返事をしていました。最大の目的はこの場をやり過ごすこと。で、たぶん指導してくれている内容がほとんど耳に入っていなかったんです。そのことに気が付かされたのが1冊のノートを書くようになってからなんです・・・。」
「ノート?」
「毎回、課長から注意を受けた内容をノートまとめるように言われたんです。」
「なんだノートをつけるだけか・・・。先輩から注意されたことをノートにメモするなんて言うのは当然のことだ。そう当然のこと・・・。」
ファシリテーターが一言介入してきた。
「具体的にはどんなノートを書いていたんですか」
山田は自分の経験を色々と披露した。どうやら今の部署でもそれをやっているらしい。当然のこと。自分が先輩にやってもらって良かったこと。それらを地道に実践している山田が何か遠い存在に見えてしまった。「自分は問題児だったので、問題児の気持ちが良く分かるんです」とも言っていた。気持ちねぇ・・・。
アドバイスは具体的だったが、それだけだった。ただ当然のことではあるが、それ以外にこの状況を打開する方法が見当たらなかった。
まずは1人一冊ノートを作った。部下に注意する際はそのノートを渡し、自分の言ったことをそこにまとめさせる。1頁1項目。簡単だと思ったが意外と苦戦した。私の言ったことを部下が上手く書けないということだった。部下に書かせると何が分かっていて、何が分かっていないかが手に取るように分かるようになってきた。
同じミスを部下がしたら、以前書いたノートの頁を開けさせ、そこに2度目と言うチェックをさせた。このノートを取り入れてから部下の反応と言うか、何かが違う感じがしていた。今度は直りそう。そんな雰囲気がした。
またノートを付けはじめて驚いたことがあった。正直出来損ないと思っていた部下のノートが6頁以上進まないのだ。どうしようもないと正直感じていたが、6つぐらいの課題なら何とか直してあげたいと感じ始めていた。
部下達の雰囲気も随分変わってきた。部下達に思い切って最近の状況を聞いてみた。
「お陰さまで楽しく働けています。以前の課長はいつもイライラして正直何を言っているか・・・。今はよく話を聞いてくれるし、丁寧に説明してくれるので。本当に有難うございます。」
「イライラして何を言っているか分からなかった」という言葉には正直イラっとしたが、ノートに問題をまとめさせようと思うと落ち着いていくことは間違いなかった。
3ヵ月後。状況は一変した。部下が思うように動いてくれるようになってきたのだ。ミスも殆どなくなり、上手くいけば前半戦の遅れを挽回できるペースになってきた。しかし、そんな事は今の自分にはそれほど重要ではなかった。結果以上に部下がイキイキしていること。そして自分がイライラせず、課長として部下の変化を楽しめていること。そして毎日楽しいこと。それが何よりの成果だった。
「魔法のノート」のお陰で本当にすべてが変わりました。
END
- モチベーション・組織活性化
- マネジメント
- コーチング・ファシリテーション
- チームビルディング
- コミュニケーション
アサヒビール株式会社、同社関連会社でのコンサルティング部門で活躍後独立。ジェイフィール設立より参画。
リフレクションラウンドテーブルのカリキュラム開発、展開や診断ツールの開発などを担当。多摩大学大学院博士課程前期修了、同大学・知識リーダーシップ総合研究客員主任研究員。雑誌掲載、寄稿、学会発表など多数。
片岡 裕司(カタオカ ユウジ) 株式会社ジェイフィール コンサルタント
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