第4回「やりがいはどこから来るのか?」
このコラムでは、わたしが出会った素敵なマネジャーたちの物語をご紹介します。彼らのストーリーの中に、「働く」を「幸せ」に変えるための大切なヒントが詰まっていると思います。ぜひ、感じ取ってください。
*このコラムは実話をベースに作成しておりますが、社名や氏名、そして若干の設定を変更したストーリーとなっています。
第4回「やりがいはどこから来るのか?」
新任課長の山本は初めての部下との目標設定を終え、猛烈な疲れを感じていた。部下との目標面談は大変だとは尊敬する部長、加藤から聞いていたものの、こんなに大変だとは思っていなかった。
5名の部下を抱える山本だが、想定外に彼を疲れさせたのは期待の8年目、島田だった。評価も高く、同期で一番に課長昇格もできそうな島田に、来期から始まる中期計画の取りまとめ役を任せるという事が山本の考えだった。
これをやり切れば、部長にも、人事にも自信を持って昇格の打診ができる。山本はそう考えていた。
目標面談では、管理職への登用をしてやると熱っぽく山本は語ったが、肝心の島田の反応は、「やりがいを感じない」という意外な反応であった。
思わず山本は、
「やりがいとか、モチベーションとか言っているじゃない。」
「お金をもらっている以上プロなんだから・・・。」
「やりたいとか、やりたくないじゃなくて、どうやるかを考えなさい」
と感情的に押し切ってしまった。
イラッとすると言葉が止まらなくなるのが山本も自覚する欠点でもあった。
そんなタイミングで人事部から、新任課長を集めてのワークショップというものを開催するという連絡がきた。
新任課長同士が集まり、初めての目標設定をどう乗り切ったか。お互いの取り組みを共有し、お互いから学ぶ相互支援の場という趣旨がメールに書かれていた。支援の場なんて聞こえの良いことが書いてあるものの、人事部門による新任課長チェックの場に間違いないと山本は踏んでいた。
「まあ、問題はなかろう。少々手こずったものの、島田にも難しい課題を課したし・・・」
当日はワークショップというだけあって、テキストもなく、参加者は車座に座らされた。
講師の代わりと思われる、ファシリテーターという司会進行役がついた。
お互いの経験から学ぶという趣旨のようで、それが最も効果のあるマネジャーの学習法ということだった。
ファシリテーターから出された最初のお題は、マネジメント経験の中で「感情の高ぶった経験」を思い出すというものだった。山本は迷う余地もなく、島田との目標設定場面を思い浮かべた。
山本の順番は3番目にまわってきた。
山本は事の経緯を披露し、仲間たちからも色々な意見がでた。
「最近の若者は・・・」
「ちょっと強引だったんじゃない・・・」
ひとしきり議論が収まってきたころに、ファシリテーターという進行役が「全員に質問ですけど」との前置きで優しく問い掛けてきた。
「最近はマネジャーになりたくないって人も多いようですね。では島田さんをもっと動機付けるにはどうすれば良かったでしょうか?」
そこで山本のいつもの悪い癖が出た。
「俺、そういうのは嘘だと思うんです。誰だって評価されて、給料が上がればうれしいんですよ。そうやって課長になりたくないとか言っている奴は自分の本音にフタをして、傷つかないように逃げているだけです。まともに付き合う必要なんてないんです。」
言い終わって山本はしまったと思った。これは人事によるチェックの場だった。こういう課長をパワハラ課長と呼ぶのかもと・・・。
ファシリテーターは山本の噛みつきにも慣れた感じで、笑顔で更に問い掛けてきた。
「じゃあ、山本さんの部下、島田さんは山本さんに本音を言ってないってことですね。」
「・・・。」
「じゃあ、なんで本音を話していないんでしょうね。」
「彼の本音を知るためにできそうなことは何かありますか?」
山本は先程の暴言への恥じらいもあり、「少し考えます」と一旦黙ることにした。
黙っているうちに山本は少し冷静に自分を俯瞰できているような不思議な感覚を覚えた。
面談風景を覚えながら、一方的に話す自分の姿がそこにはあった。
「本音の前に、あいつの声すら思い出せないな。。。どんな声だっけ?」
山本の表情が緩みだしたのを見計らってファシリテーターが再び山本に問い掛けてきた。
「山本さんが一番本音が話せたなぁって思える上司はどんな人でしたか?」
山本は尊敬する加藤部長のことを思い出していた。加藤はいつも部下のことを第一に考えてくれている・・・という風に感じられたなぁ・・・。なぜなのか・・・。
職場に戻り、山本は島田と面談の機会を持った。腹を決め、まずは彼の入社からの8年間について教えもらった。初めて知ることが沢山あった。そもそも3年前に作った今の中期計画も取りまとめは島田だったということ。島田は前任の課長に机上の空論を作るのは上手いが、実践力がないという指摘を克服したいと考えていたとのことだった。今のプロジェクトに集中したいというのが彼の本心だったようだった。
「でも、自分の昇格のことを考えてくれて本当にありがとうございます。ただ、実力もないのに昇格しても意味が無いですし。自分は成果以上に新しいことができるようになる時にやりがいを感じるんです。」と清々しく語る島田に、山本は耳が赤くなる感覚を覚えた。
「やりがいか・・・ 俺の"やりがい"ってなんだったっけ。。。」と山本はつぶやいた。
END
- モチベーション・組織活性化
- マネジメント
- コーチング・ファシリテーション
- チームビルディング
- コミュニケーション
アサヒビール株式会社、同社関連会社でのコンサルティング部門で活躍後独立。ジェイフィール設立より参画。
リフレクションラウンドテーブルのカリキュラム開発、展開や診断ツールの開発などを担当。多摩大学大学院博士課程前期修了、同大学・知識リーダーシップ総合研究客員主任研究員。雑誌掲載、寄稿、学会発表など多数。
片岡 裕司(カタオカ ユウジ) 株式会社ジェイフィール コンサルタント
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