バックキャスティングで描く中期経営計画のストーリー
バックキャスティングで描く中期経営計画のストーリー
―1.今の繁栄は3年前に打った手の結果
「先見力」という言葉がありますが、未来を正確に予測できる人間などまずいません。それでも「環境は激変する」と決めつけるところから始めなければ「変化の予兆発見」はできないものです。加えて、積極的に対応しようという姿勢こそが「変化こそ常道」という社風を築くものです。そこで強調したいことは「今の企業繁栄は、3年前に打った手の結果である」ということです。
経験上「経営革新」には、最低でも3ヶ年はかかるものです。常に3年先を考え、経営設計しなければ、「衰退企業」になる可能性は大なのです。
スポーツの世界でも企業経営の世界でも「先手必勝」が勝負の明暗を分けますが、ことビジネスの世界では必ず競争相手がいます。常に一歩前を進む者のみに天使は微笑むものです。現在の激動の時代には、なおさらこの心構えがものをいうのです。
―2.富のピラミッド
アメリカの経済学者レスター・C・サロー氏の「富のピラミッド(Building Wealth)」がかつて話題になったことがあります。その著書の中で印象深い言葉を紹介すると「企業が成功を続けるためには、自社を破壊する意思を持たなければならない。自社を自ら破壊しないのであれば、他社に破壊されるだけである」が挙げられます。つまり、企業は常に時代の変化に対応して、勇気をもって変革しなければ生き残れません。
―3.経営者、幹部は徹底して業績ストーリーを組み立てるべき
業績ストーリーを組み立てるには以下の6点が重要です。
(1)業界における自社のポジションはどこか
(2)ライバルと差別化できる商品、サービス、技術は何か
(3)真の顧客は誰か、ターゲットの明確化と絞り込みはできているか
(4)人材力はどの程度か
(5)ライバルと比較して自社の強みと弱みは何か
(6)自社のマネジメント・スタイルは適正か
いずれにしても「正しい目、冷静な目」で自社を現状認識してストロング・ポイントを明確にすることが、経営戦略を構築する上で極めて重要なのです。
加えて「KFS(キー・ファクター・フォー・サクセス)主要成功要因」を明確に絞り込むことも肝心です。そこで重要になるのが「仮説思考」。これは、先々を予測して「仮説を立て、実行し、検証して、ノウハウ化する」一連の考え方です。
まずは「自社なりの成功ストーリー」を描ききることが必要です。仮に「仮説が正しくない」と分かれば、即、次ぎの手を打てばよいのです。その方法は「業績にこだわって、こだわって、こだわりきる」ことに尽きます。自社の「成功ストーリー」を見出せないのは、単に「こだわりが足りない」だけの方便にすぎないのでしょう。
―4.自社の強みと弱みを徹底して整理して特化すべき
中期経営計画を立案するにあたり整理分析すべき事項は、以下の6点です。
(1)自社が属する市場が今後どうなるのか
(2)自社のマーケットポジションの確認(どの程度のシェア率)
(3)ライバルと比較して自社の強みと弱みの確認
(4)コア(核心)にすべき自社の特徴点はなにか
(5)コア以外でアウトソーシングすべき機能は何か
(6)上記(1)~(5)を踏まえて「今後の打つべき実行具体策」の構築
これらのことを、「自社の中期経営計画」として発信し、全社一丸体制をつくるべきです。
―5.マイナス要因は排除せよ
さて、苦労して組み立てた「成功ストーリー」を成功させるポイントは3点です。
(1)中期経営計画の明確化
「中期経営計画の発表」と「中期経営計画の明確化」を同じと考えている人が多いが、厳密に言えば間違いである。「明確にする」とは、全社員に理解させきることであり、単に伝えることではありません。
(2)基本ルールの徹底
実行すると決めたことは、いかなる理由があれどやらせきることです。例外は認めない姿勢が「リーダーシップ」を示す方法です。
(3)チームワーク(全体優先の姿勢)
仮に、進もうとする方向に反する人がいた場合、まずは根気強く説得することです。それでもダメなら「マイナス要因として排除」する勇気を持つことも肝心です。
つまり「全体優先の姿勢」を貫くことが、組織における「チームワーク」なのです。
―6.ルーツ農法に教えられた人材育成
ここで問題なのは、どうすれば社員が「自ら望んで取組む姿勢」を醸成できるかです。ある経営者から、「ルーツ農法」といわれるトマト栽培方法の話を聴き、示唆に富んでいたので紹介します。その内容を簡単に説明すると以下の内容です。トマトの原種はアンデスの山の中です。土地は痩せ、雨も少なく気候条件もトマトにとっては、大変厳しい所です。その厳しい条件下で育成したトマトが熟成する直前に養分を与える農法が「ルーツ農法」と呼ばれています。それとは逆に、ビニール・ハウスで十分に肥料を与え育てたものが、普通我々が手にする「ハウス・トマト」です。育成方法の違った二種類のトマトを同じ水槽に落とすと「ハウス・トマト」は水に浮き、「ルーツ農法育成トマト」は底に沈むという。つまり、「ハウス・トマト」と「ルーツ農法育成トマト」では、その中身の密度に格段の差があるのです。アンデスの山奥の痩せた土地のように枯れる寸前まで厳しい環境で育ったトマトは、ギリギリでもらった養分をありったけの生命力で吸収し中身が充実するのです。
―7.「小さな欲」と「大きな欲」
このことを人に喩えて考えた場合、温室育ちの社員と厳しい職場環境で育った社員とでは、その成長スピードと密度において格段の差がでるのは人も企業も植物も同じなのです。
どんなに厳しい経済環境、時価主義賃金時代を力説しても、聞く側がビニール・ハウスにいたのでは本当の理解はできないと考えるべきです。今後の人材環境を考えると、「大きな欲」を持ち、真の実力を培って限りない成長をなし得る人と「小さな欲」に甘んじて一向に成長しない人に、大きく二分されるでしょう。
―8.まとめ
2022年の日本の貿易収支は、約20兆円の赤字となりました。大方の企業で、少なからず業績に与えるインパクトは少なくないはずです。コロナ、ウクライナ危機の長期化に伴い、あらゆるものが価格高騰し、経費アップ圧力はなかなか収まりません。それでも、3年から5年先を見据えて、成長戦略を描くのが経営者の仕事なのです。如何なる時代も中期経営計画は、成長を前提に策定されるのが原則です。激変の経営環境は、企業躍進のチャンスと思い挑みましょう。皆様の頑張りに期待いたします。
出所:タナベコンサルティングにて作成
※本コラムは大嶺が、タナベコンサルティングの長期ビジョン・中期経営計画策定の情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
ゼネラルパートナー 沖縄支社 副支社長
大嶺 正行
沖縄支社長、東北支社長を経て、コンサルティング・セミナー・各種講演の第一線でプレーイングマネジャーとして活躍している。成長戦略をベースとし、多種多様なビジネスモデルに精通し、各業界・領域を熟知。企業の課題に応じて最適なビジネスモデル改革を支援しクライアントから厚い信頼を得ている。
主な実績
・中堅機械メーカー:既存技術を応用して既存業界から他業界への進出し、業績拡大し主たる顧客業界の転換に成功
・中堅機械メーカー:粉体のオペレーション技術の中でも計量技術をオンリーワンレベルまで高め、電池業界、半導体業界で注目される優良機械メーカー(損益分岐点操業度52%)
・中堅鉄骨工事業:若手の技術者集団を組成し、地元大手ゼネコンの技術パートナーの立ち位置を確立
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タナベコンサルティング ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部 コンサルタント(タナベコンサルティング ストラテジードメインコンサルティングジギョウブ コンサルタント) コンサルタント
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