サステナブルな成長を実現するグループ経営におけるCFOの役割
サステナブルな成長を実現するグループ経営におけるCFOの役割
―グループ経営におけるCFO
「CFO」とは、Chief Financial Officer の略であり、最高財務責任者を指します。経営管理を統括し、会計の専門知識を駆使して経営戦略に必要な情報を提供し、企業活動における最適解を追求するのがCFOであります。CFOには、次の4つの役割がありますが、パフォーマンスマネジャーからビジネスパートナー、オペレーションマネジャーからオペレーションデザイナーへの役割が求められています。
パフォーマンスマネジャーは、戦略実行の推進が主な役割ですが、ビジネスパートナーは、企業価値向上のための戦略立案に参画し、経営資源をコントロールすることが役割です。ここで重要なのは、事業部門最適ではなく、全社最適による経営戦略を重要視し、現在の業績以上に将来の業績を向上させる戦略を構築することです。
また、オペレーションマネジャーは、日常取引処理の効率的な実行が主な役割でありますが、オペレーションデザイナーは、全社的リスクマネジメントや業務改革に向けたルールや仕組みを構築し、コントロールすることが役割です。ここでも重要なのは、現在のリスク以上に将来リスクの全社的視点の統制です。
出所:タナベコンサルティングにて作成
―進化するグループ経営におけるCFOの役割
財務戦略家(CFO)から企業価値創出者(CVO※)への進化 ※Chife Value Officer
グループ経営におけるCFOの役割として重要なのは、グループ全体の企業価値(グループの価値)の最大化を図ることです。企業価値最大化のために適切な戦略を選択するためには、CFOがその機能において、役割を果たす必要があります。
しかし、昨今の不確実性の高まるニューノーマルな時代においては、企業のビジネスモデルの陳腐化が早まり、企業の利益や儲けを表される『経済的価値』だけでなく、『社会的価値』を含めた両面で企業の価値を創造していく「サステナビリティ経営」が求められています。
従来のグループ経営におけるCFO役割は、経理・財務といった分野のオペレーションやマネジメントが中心であったのですが、現在ではグループ全体の企業価値の向上と持続的成長への戦略的意思決定を支援・実行する役割へと大きく変化しています。
グループの企業価値という点では、これまでは成長事業への投資によって、収益とキャッシュフローを最大化するという財務戦略による「経済的価値」の向上が求められていたわけですが、企業価値に占める「社会的価値」の重要性が高まってきている今、非財務資本への投資を行うことで企業価値の向上と持続的成長を実現していこうという動きが活発化しています。
また、非財務情報の開示が求められている中で、これを義務と捉えるか?戦略として捉えるか?で企業価値は大きく変わってきます。
したがって、財務資本だけでは企業価値が図りづらくなる状況であり、今後は非財務資本の定量化と非財務戦略による企業価値向上施策が必要になっています。財務戦略においても従来から重視されているROEやROAに加えて、ROICを重視した資本コスト経営に軸足を移す企業が増えてきており、ROICによる事業ポートフォリオに対する戦略判断や、ROICツリーによる事業部門と連携したKPIマネジメントなどが活用されています。
―グループ経営におけるCFOの7つの役割
上記を踏まえ、今後のグループ経営におけるCFOの役割がどのように進化していって、どういった視点が必要であるか、以下にまとめました。
1.事業会社における事業ポートフォリオを最適化する
複数の事業会社を有し、経営を行うグループ経営において、グループ全体で企業価値を創出し、企業価値を最大化するために、経営資源をどの事業会社・事業にどの程度、経営資源を配分すべきかを判断していく必要があります。
そのためには、各事業会社の事業の成長性や収益性などを客観的かつ定量的に示し、経営判断していくことがグループ経営におけるCFOの役割として求められます。
「成長事業」「安定収益事業」「縮小・撤退検討事業」というような事業分類を行い、中立的な立場・視点から中・長期的なグループ全体としての企業価値向上のための経営資源の配分・投資を判断していくことが必要となってきます。
2.グループ企業全体の組織・人事・マネジメント運営におけるプラットフォームづくり
事業会社や事業の多角化や子会社化が進み、グループ企業が増加すると、グループとしての価値観の共有、コーポレートガバナンスの強化や経営の効率化等、グループ全体を総括する仕組みが必要となってきます。いわゆるグループ全体を統一していくため仕組み『プラットフォーム』づくりを行うことが、CFOの役割です。
プラットフォームには、大きく
(1)規程関係
(2)業績管理
(3)人事
(4)情報システム
の項目が考えられ、グループ全体として統一させる部分と子会社に状況に応じて臨機応変に対応するべきところをCFOの視点で入口の段階で提言していくことが重要な役割です。中立的な立場で組織の潤滑油的な役割を果たすことができるのもCFOの役割です。
近年、本社の管理部門がすべてを統括するマネジメント方法だけでは、限界がきているグループ企業も散見され、グループ本社と事業会社がお互い成長・発展していく視点が重要になってきています。
3.ファイナンス機能におけるキャッシュ・マネジメント・システムの導入
グループ全体の資金を本社機能を有する会社が一元管理することにより、グループ各社で生じる資金の過不足を調整し、効率的な資金運用を行うことをキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)といいます。
CMSを導入するメリットは、以下3点があげられます。
(1)借入金や支払利息等、グループ全体のコスト削減
(2)財務機能の集約化による省人化
(3)グループ全体の財務指標の改善を図ることができる
CMSを取組む上で最も基本的な機能はプーリング機能です。本社機能を有する会社に専用口座を設け、資金が余っている子会社から銀行口座に資金を吸い上げ、資金が不足している子会社には、資金を分配します。つまり、本社機能を有する会社がグループ内金融機関の役割を果たすのです。
4.グループ全体でシナジーを発揮するための推進役
シナジー効果は大きく分けると2つに大きく分けることができます。
1つは売上高および限界利益率向上のためのシナジーです。
2つ目はコストサイドのシナジーであり、各社ごとに共通する機能を集約することにより発揮されるものです。
売上・利益、コストサイドのシナジーにおいてもグループCFOの立場であれば、定量的な数字や業績情報を把握できるポジションであるため、各社では気づきにくいシナジー効果やアイデアを提案し、推進していくことが可能です。
5.新規事業の創出支援および事業成長の支援役
様々な事業展開を行っているグループ企業において新規事業の立ち上げや不振事業・会社等の撤退を判断、支援する役割がCFOにはあります。事業リスクを低減すること及び多角的にグループの成長を図っていくことは、有効な手段です。しかし、一方で経営資源が分散され、経営の効率性は阻害されることも考えられます。経営資源である人・もの・金をグループバランス良く配分し、最適化していくための視点を持つことが必要です。
6.グループの成長を加速させるM&A・経営統合機能
グループを成長・発展させるには、自ら成長して規模を拡大する方法とすでに出来上がった会社を回収する方法があります。グループ経営を行うことでよりM&A等組織再編を行いやすい環境を作ることができます。ここでのCFOの役割は、買収先のデューデリジェンスは当然のこと、その後の経営統合、買収後のマネジメントによる二次再編に至る可能性を検討する役割があります。
7.グループ全体を総括するコントロールタワー
グループ全体で創業時から受け継がれてきた理念や信用・ブランドを軸とした経営を行わなければ、各事業会社がバラバラの方向を向いてしまい、バランス感覚を失い、グループとしてのシナジー効果が生まれません。グループ全体の理念や基本方針を明文化し、それに基づいた価値観の共有やコーポレートガバナンス体制を構築、強化していくグループ全体を総括していくことがCFOの役割です。
以上が、今後、サステナブルな成長を実現するために必要なグループ経営におけるCFOの役割であると考えます。
※本コラムは稲岡が、タナベコンサルティングのコーポレートファイナンス・M&Aの情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
コーポレートファイナンスコンサルティング事業部 ゼネラルマネジャー
稲岡 真一
企業における収益モデルを研究テーマに、数多くの企業の業績構造を分析。その中から新しいビジネスモデルに即した収益構造をデザインし、確立することを得意とする。多くの中堅・中小企業の財務戦略構築や中期経営計画の策定・推進、指導などに携わる。企業の再建にも多数関わっており、顧客の立場に立った真摯な取り組みが高い評価を得ている。
主な実績
・上場企業(製造業)の中期ビジョン・中期経営計画策定
・中堅(売上高300億円)食品製造業の製品・商品群別限界利益分析および
・中堅(150億円)製造メーカーのグループ再建計画策定
・中堅製造メーカー(売上高300億円)の事業承継スキームおよび人事組織体制の構築
- 経営戦略・経営管理
- 法改正対策・助成金
- リーダーシップ
- ロジカルシンキング・課題解決
- 財務・税務・資産管理
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