非親族承継の押さえるべきポイント
非親族承継の押さえるべきポイント
~親族間承継から非親族間承継へ~
新型コロナウイルス感染症が2023年5月に5類感染症へと移行し、本格的なアフターコロナの時代へと移ってきました。日本においては 2020年1月に最初の感染者が確認されて、実に3年4ヶ月の月日が経過したこととなります。この間、様々な生活様式が大きく変化し、不便を感じる場面がありましたが、世の中のデジタル化への取り組みは大きく進みました。その一方で、大きな転換期を迎えているテーマがあります。それが事業承継です。
2022年の帝国データバンク「特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」では、後継者不在と回答している企業は全体の57.2%と、コロナ前(2019年)から8.0ポイントの改善となっています。また2011年の調査以降、後継者候補が「非同族(36.1%)」であるとの回答が「子供(35.6%)」を抜いて初めてトップとなりました。時代の潮流は明らかに非親族承継へと動いており、今がまさに転換点と言えます。
今回は、非親族承継が進んでいく理由と、押さえるべきポイントについて説明させていただきます。
―脱ファミリー化が進む理由
前述のとおり、非親族への承継が増えていくなかで、その理由を継がせる側と継ぐ側からの両面から見ていきます。
1.継がせる側(現経営者)からの視点
(1)親族内承継を希望しない経営者の増加
経営者の方々は社長業を経験され、その楽しさや面白さを肌で感じている反面、厳しさや辛さも十二分にその身に受けてこられました。コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争などの近年の経営環境を振り返ると、後者を目の当たりにする機会も多くあったのではないでしょうか。そのため「子供や親族に大変な思いをさせたくない」という親心により、次の代では親族以外に継がせるという選択をする経営者が増えています。
(2)後継者として能力に不安を感じている
もう一つの理由としては、子供の経営者としての能力が社長業に適していない、もしくは不安に感じているということです。これは以前からもありましたが、会社の代表としての価値判断基準を備え切れておらず、また育成するにしても時間がかかってしまうことが想定されているケースです。昨今の厳しい経営環境下では経営手腕が必要となり、あらゆる情報を踏まえた判断力が求められます。
2.継ぐ側(親族・子供)からの視点
(1)経営者になることに、魅力を感じていない
継ぐ側からの視点で見てみると、まず最初にあげられる理由が、経営者になることへの魅力を感じていないことです。経営者である両親が大変な姿を見て育っているため、そこにやりがいを感じられていません。また、世の中の価値観も変化しており、以前よりも仕事に対して"安定"を望む人が増えていることも要因です。
(2)社長業以外にやりたい事がある
現経営者が後継者問題を考え始めるタイミングは自分自身の年齢によるところが大きく、いざその時がくると子供の年齢も30~40代となっており戻ってくる気がないというパターンもあります。一般的には30~40代では、責任あるポジションにいたり、企業の中枢で仕事をしていることもあります。また研究開発職や海外勤務など、今の仕事にやりがいを感じているケースも多く見られます。
―脱ファミリー化のメリット・デメリット
脱ファミリー化が進む理由について述べてきましたが、必ずしも非親族承継が正しいというものではありません。大切なのはそのメリット・デメリットを押さえたうえで自社に合った選択をしていくことになります。
まずメリットについてですが、一般的には以下の3点があげられます。
(1)後継者の選択肢が増える
(2)経営能力のある人物を選定できる
(3)経営の一貫性を保てる
1番のメリットとしては後継者の選択肢が増えることです。企業経営に興味がある人や、過去に経営経験のある人(社長・役員)など、非親族となると対象は広がります。また2点目は親族では経営能力に不安がある場合、より資質の高い人材を招聘することで育成時間を短縮することができるということです。さらに能力不足による経営状態悪化のリスクを最小限にすることも可能です。3点目としては会社に精通している人物に任せることで社風なども保つことができ、シームレスな承継が実現しやすくなります。
次にデメリットについてです。
(1)関係者の理解が得づらい
(2)従業員の離職を招く可能性がある
(3)個人補償の引継ぎが難しい
業歴が長く、これまでの事業承継が親族承継となっていた場合、非親族への承継割合が増えてきているとはいえ、心象的にはまだ親族間承継が一般的と考えられている風潮があり、取引先や金融機関から理解されづらいことが考えられます。そのため、ステークホルダーからは、「親族がいるのになぜ非親族承継を行うのか?」と説明を求められるケースもあります。
次に、現経営者(オーナー)を強く信頼している従業員がいる場合、承継後の経営にギャップを感じてしまう事があります。経営者の求心力が強い場合は社員に対して承継について、しっかりと伝えていかなければなりません。そして、中小企業においては個人補償も引き継ぐ必要があり、後継者への負担が大きいことも懸念材料となっています。
―非親族承継時に押さえておくべきポイント
このように、非親族への承継が増えているとはいえ、何が自社にとって最適な承継なのかを考えて、それぞれのメリット・デメリットを考慮しておかなくてはなりません。そして非親族経営へと舵を切った場合でも押さえておくべきポイントがあります。
1.トップダウン型から組織経営型へと経営体制を切り替えていく
現経営者がオーナーの場合、トップダウン型で進めてきている企業がほとんどです。そのため後継者にも同様のスタイルを求めがちですが、非親族への承継の場合は、組織経営を進めていく方をおすすめします。
2.承継に向けて計画を策定し、継ぐ側(従業員・社外招聘)のマインドセットを行っていく
親族間承継でも、計画を早めに用意して数年かけて承継していくことは変わりませんが、非親族の場合は、よりマインドセットが必要となります。現経営者にの下で働いてきた従業員は、そもそも自分が経営者になるとは考えていない人もいます。また社外からの招聘に関しても、なぜ継いでもらいたいかを理解、納得してもらわなければなりません。
3.経営者としての実務や人脈だけではなく、継がせる側としての思いや会社としてのビジョンも承継する
一番大事なのが、この自らの思いやビジョンを承継することです。"継ぐ"と決めたのであれば、後継者としての思いは持っていると考えられますが、それが継がせる側の思いや企業としてのビジョンと一致しているかは分かりません。これに関しても成り行きで考えるのではなく、しっかりとその思いやビジョンを承継する時間を確保する必要があります。
今後、非親族への承継を考えている経営者は、これらのポイントを押さえて企業が持続的成長を遂げられるストーリーを描いてみてください。
※本コラムは井上が、タナベコンサルティングのコーポレートファイナンス・M&Aの情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
コーポレートファイナンスコンサルティング ゼネラルマネジャー
井上 禎也
販売促進活動の支援や営業力強化等のコンサルティング活動のほか、理念・ビジョン策定から推進までの支援、人事評価制度、教育体系づくりなどを行っている。アグリ・サポート研究会サブリーダーを務め、アグリ事業における新規立ち上げ支援の実績を持つ。
主な実績
・建設資材商社のビジョン実現に向けたプロジェクトマネジメント
・食品製造業における人事評価制度構築・教育体系づくり
・調味料製造業の企業内大学設立支援
・工業資材商社のミッションステートメント策定支援
・上場サービス業の次世代幹部育成支援
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