当たり前を疑う勇気を持て 目から鱗の提案はこうして生まれた
ビジネスの世界では、しばしば、"当たり前"の認識を前提に様々なことが進められることが多くあります。たとえば、お客様は安価なものを望んでいる、安くなければ売れないなどがその一例です。しかし、この当たり前が真のニーズや問題の本質を見誤らせていることがあります。つまり、当たり前の名のもとに、本質的なことが考慮されなくなるのです。
今回は身近に起こった企業のショートケースを見ながら、この"当たり前"を疑い、本質に迫る勇気がいかに大切かをみていきたいと思います。
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【ある会社での出来事】
H社は機械工具を製作しています。製品は単価の安い消耗品で、主にメーカーの工場に納められており、競合する相手が多い会社でした。そして製品の値下げ要求が大変激しいコモディティのマーケットでもありました。買う側である工場は、安く買うのが当たり前であり、また売り手であるH社も安く売るのが当り前と考えていました。そして、これが長年にわたりその業界の暗黙の了解になっていたのです。
ある日のこと、H社ではいつものように営業会議が行われていました。会議の終盤に差し掛かったときに、自社のマーケットに関する調査が報告されました。内容は当社の製品のコストは、顧客の加工費の5%にも満たない、というものでした。多くの営業担当者は、大して関心を示すことはありませんでしたが、ある課長は少し違いました。
「うちの製品は工場で使う道具だろ。使い方しだいで残りの加工費が半減できる提案をできたら、もう値引きなんかしなくてもいいんじゃないか?つまり、お客さんの本当の問題は、加工費を削減したいことだとする。でも、うちの営業がやっている仕事は相手の課題の5%をどれだけ切りつめるかを提案してきた。もし、当社の工具で、お客さんの加工費の半減までといかなくても、それに近い効果が実証できたら、工具の売値が2倍(加工費の5%から10%)になったとしても、間違いなく値切られず指名買いしてくれるはずだ。それ以上にコスト削減できるんだから。」
と笑顔を見せました。しかし、営業会議に出席している他の社員は、そんなことできるわけがなかろうと言わんばかりに、冷ややかな一瞥(いちべつ)を送るだけでした。
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【当たり前すぎて気づかないこと】
大方の会社でも、このH社のように、同様な反応を示すことでしょう。本当の顧客のニーズは何か。何を解決したがっているのか。いつの間にかそんなことは忘れさられるものです。しかし、時には、目線を変えて常識を一度疑ってみることも必要です。
その後、H社がどうなったかを見てみましょう。
件(くだん)の課長の発言に触発された一部のメンバーは、目先の仕事を犠牲にしてもまず実証してみようと立ち上がりました。結果はすべてではなかったのですが、一部の機種では加工費削減が可能とわかりました。そして、営業担当者に専用のパソコンを持たせました。顧客の加工時間や使用頻度などのデータを入力すると、どのくらいのコストダウンが可能なのかをシミュレーションできるようにしたのです。ここまで来ると、"安く売らないと売れない"という営業担当者の認識はもはや幻想にすぎませんでした。しかし、まだ超えなければならない壁がありました。それは購買担当者の"安く買う"という思い込みでした。かれらは購買コスト低減で評価されるからです。思い込みは何も営業に限った話ではありません。
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【提案が変わればキーマンが変わる】
思い込みを打破するために、当初は購買担当者に対して啓蒙していました。ところで、そもそも加工コストを決めるのはいったい誰でしょうか。それは、製品の開発や設計の担当者たちです。すなわち、この提案を通すためには、顧客の購買担当者ではなく、製品開発担当や製品設計担当に理解させる必要がありました。そこに気づいたことで大きく前進することになりました。提案内容が変われば、キーマンも変わったのです。幸いにして、この提案は大成功を収めました。製品は何も変わっていないにもかかわらず、顧客の製品に対する価値認識を高めることで、他の追随を許さない"目から鱗の提案"が生まれた瞬間です。もし、あの時課長が当たり前を疑わなかったらこの成功はなかったでしょう。
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みなさんの会社では、このように"当たり前"を疑う勇気をどれだけ持てるでしょうか。おそらくやさしいことではないでしょうが、この当たり前の壁を突破できれば、この会社のように、競合の存在しないブルーオーシャン市場を手にすることができるかもしれません。
人材開発コンサルティング事業部
谷澤俊彦
- 経営戦略・経営管理
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株式会社アクティブ アンド カンパニー 代表取締役社長 兼 CEO
株式会社日本アウトソーシングセンター 代表取締役社長
大野順也(オオノジュンヤ) 株式会社アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長 兼 CEO
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