人事施策を評価する:(1) 重要となる4つのアプローチ
はじめに
TIS株式会社の西村友貴です。人的資本データ利活用に関するコンサルティングサービスを提供しています。
本コラムでは、人事施策を評価し、施策の改善や社内外への開示に活かすための方法について解説します。
次の通り、全5回のコラムを公開する予定です。
人事施策を評価する:(1) 重要となる4つのアプローチ
人事施策を評価する:(2) KPI・コストのモニタリング
人事施策を評価する:(3) 因果推論的アプローチ
人事施策を評価する:(4) 応用行動分析学的アプローチ
人事施策を評価する:(5) 予測妥当性検証
今回は「(1) 重要となる4つのアプローチ」の内容になります。
人事施策を評価することの重要性
"採用活動や育成施策に力を入れてきたが、成果を定量的に示すのが難しい"
"人事制度を変更したが、その結果をどう評価したらいいかわからない"
こういった疑問や悩みは、多くの人事担当者の前に立ちはだかる壁と言えるでしょう。近年は、人的資本経営の取り組みや指標の開示なども求められています。これまで以上に、人事施策の評価や効果の定量化の重要性が高まっているのではないでしょうか。
もし人事施策を定量的に評価ができるようになったら、今後の活動・施策についてデータに基づいて意思決定することが可能になり、施策効果の向上、従業員の組織に対するコミットメントの向上、社内外のステークホルダーに対する納得感のある開示・アピールにもつながります。
本コラムでは、人事が担う活動や施策の評価・効果測定を実施する上で有効な4つのアプローチをご紹介いたします。次の図は、施策評価に有効なアプローチ方法をまとめたものです。
各アプローチの概要、ポイントについて説明します。
KPI・コストのモニタリング
人事は、採用活動や研修・育成、制度改革・運用など、様々な業務を担っていますが、それぞれの業務におけるKPIを意識することは、シンプルかつ重要なアプローチと言えます。
例えば採用活動であれば、応募者の数や、書類選考・各面接の通過率、内定承諾率、さらには内定者の入社前研修や入社後におけるパフォーマンスなども指標の候補となるでしょう。自社にとって重要な指標をピックアップし、過去の傾向や目標値の明確化、現状のモニタリングを行うことが重要です。
また、成果に関わる指標だけでなく、コストのモニタリングも重要です。採用や研修、制度運用などに、どれだけの人件費や外注費、システム費がかかったのかをモニタリングすることで、業務効率化が実現できたのか、費やしたコストを上回る成果が得られたのかなどについても分析・判断できるようになります。
因果推論的アプローチ
このアプローチは、主に育成・研修やエンゲージメント向上など、組織に対して介入する施策の評価に役立ちます。
施策の評価のために扱われる分析としてよく挙げられるのが、「施策の対象者とその他従業員を比較する」というアプローチです。例えば研修施策の場合、受講者と未受講者のその後のパフォーマンスや行動評価結果を比較して、研修効果を推定するようなイメージです。
しかし、このような分析の場合、施策の対象者がその他従業員と比べて年代が若かったり、特定の職種に偏っていたりすると、施策の効果を正しく見ることはできません。
ここで重要になるのが因果推論の考え方です。因果推論では、対象者と非対象者をそのまま比較するのではなく、適切な比較ができるように一工夫加えます。研修の例で言えば、受講者集団と同じような属性(年代や職種、役職など)を持つ未受講者を集めてきて、それを比較集団とするのです。こうすることで、年代や職種のような他の要因の影響をなるべく抑えた形で研修の効果を測定することができます。
応用行動分析学的アプローチ
このアプローチは、因果推論とは異なり、各個人の行動にフォーカスして、その効果を明らかにします。時系列データとして行動を観察・測定し、介入前と介入後でどのように傾向が変化するかをモニタリングするというものです。どんな介入をすることが従業員に有効なのか、試行しながら探索できる点で、優れたアプローチと言えます。
例えば新入社員研修において、「自分の意見を発信・表現する」という行動を目標にトレーニングを実施する場合、対象となる個人の目標行動回数(意見を発する回数)を測定しながら、モデル行動やマインドを教授するなどの介入を実施します。そして介入前後の目標行動回数の傾向を比較し、その違いを実施した介入の効果として捉えるのです。
ただし、ある個人の介入前後の変化を観察するだけでは、介入による影響なのか、他の要因が影響したのかがはっきりしません。介入のタイミングをあえてずらしながら複数人に実施し、それぞれの行動変化を比較して介入効果を確認する方法をとるとよいでしょう。
予測妥当性検証
このアプローチは、評価制度や採用活動において、評価基準を変更した場合に有効なアプローチです。
評価基準が妥当かどうかを判断する一つの観点として、「将来活躍する人材を高く評価できているか」が重要になります。例えば採用選考で問題解決力を基準としていた場合、入社後のパフォーマンスと採用時の問題解決力評価データとの相関関係を確認し、正の相関(片方が高ければ、もう片方も高いという関係性)が見られれば、妥当な採用基準が設定できていると言えるわけです。
このような将来の指標に対する評価基準の妥当性を、「予測妥当性」と言います。
採用活動や評価制度変更で評価基準を変更した場合には、予測妥当性が向上したかどうかを検証することが有効です。基準変更の成果をすぐには確認できなくても、変更後の評価基準の方が予測妥当性が高くなっていることが明らかになれば、効果的な改革を実施できていたというエビデンスになります。
さいごに
4つのアプローチの概要をまとめると、次の通りになります。
- KPI・コストのモニタリング
各施策について、KPIやコストの目標値を明確にした上で実績をモニタリングする、最も汎用的なアプローチ
- 因果推論的アプローチ
施策の効果を測定したい場合に、施策の対象集団と同属性の非対象集団の比較によって統計的に推定するアプローチ
- 応用行動分析学的アプローチ
施策の効果を測定したい場合に、特定の行動を時系列データとして測定・観察して変化を見極めるアプローチ
- 予測妥当性検証
採用基準や人事評価基準を変更した場合に、変更前後で将来的なパフォーマンスの予測力が変化したかを確かめるアプローチ
人事の業務は成果が見えづらいと言われますが、施策の特徴に応じた分析アプローチを選択することでクリアにすることができます。いきなり高度な分析を目指すのではなく、できそうなアプローチから試してみることをオススメします。
次回以降は、各アプローチの詳細な内容について解説していきたいと思います。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- キャリア開発
- 情報システム・IT関連
人的資本データの分析・可視化・利活用を通じて、従業員のウェルビーイング向上と企業価値向上をサポート
人的資本経営の実現に向けた施策策定やシステム導入の支援を担当。人事・人材データ分析サービスを通じた組織課題の可視化、採用・育成戦略の改善支援等の経験を持つ。
西村 友貴(ニシムラ ユウキ) エンタープライズサービス事業部 経営管理サービス第2部 チーフ
対応エリア | 全国 |
---|---|
所在地 | 江東区 |