人事変革を成功させる五位一体のフレームワーク (前編)
「新しい人事制度を導入しました!」「グローバルで人事システムを導入しました!」「キャリア自律推進のために99個施策をはじめました!!」など、人事領域でさまざまな取り組み事例をうかがうのですが、本来ねらっていたとおりの効果が得られているかを質問すると、達成できたことのかわりに「ミチナカバ」という言葉が返ってくることが少なくありません。
言葉通り道半ばであれば問題ないかもしれないですが、(制度を導入するなどの)変革を終えたはずなのに効果創出の兆しが見えないとなると問題です。「ミチナカバ」ではなく、変革に失敗していることに気づいていない/気づきたくないだけなのかもしれません。
本コラムでは、人事変革を成功させるための五位一体のフレームワークというものを紹介します。
■五位一体の変革のフレームワーク
変革がうまくいかない例はさまざまありますが、よく見受けられる例として、制度導入だけ、システム導入だけ、など局所的な取り組みだけを進めて全体が変わると過度な期待をしている、ということがあります。
変革というのは、こうありたいという北極星やそこに向かうための戦略があり、戦略というのは言葉だけでなく組織やプロセス・制度やシステムやデータなどの経営基盤の仕組みに落とさなければなかなか動きません。また、仕組みが整っていても社員が理解して、適切に動いていなければ宝の持ち腐れです。
つまり、北極星・戦略というのがある上で、「組織」「プロセス・制度」「システム」「データ」「人(の意識)」の5つの要素がうまくかみあって動くことで変革をねらい通りに進めることができます。
これらを五位一体の変革のフレームワークと呼んでいます。
![](https://img.jinjibu.jp/updir/column/054/05441/gomiittai.jpg)
■北極星・戦略
どの会社においても変わることなく実現したいことがあるはずです。そのことを、変わらない・ぶれないものという意味で「北極星」と呼んでいます。昨今、自社のパーパスやミッション・ビジョン・バリューを定める会社が増えている印象ですが、北極星となるものを言語化することによって、社員に会社の目指す方向と社員が向くべき方向を示しています。
ただし、北極星までのたどり方は1つではないですし簡単ではありません。社内の環境が変わることもありますし、それ以上に世の中の環境がどんどん変わっていきます。業界のトレンドが大きく変わることもありますし、世の中の価値観がかわることもあります。テクノロジーの進化もわかりやすい変化です。それらの変化を考慮して北極星に向かう考えが戦略です。経営やビジネスをどう進めていくべきかの戦略があり、"人"に関する領域では、人事・人材戦略が立てられます。つまり、人事・人材戦略というのは、常に経営・ビジネス戦略と整合がとれていなければいけません。
あたりまえのようなことを書きましたが、実際この戦略の整合性がとれていないことがあります。例えば、自社の業績に直結するビジネス戦略は数年おきに最適化されているけれども、人事領域では、「人事制度は簡単に変えてはいけないこと」という不文律があって10年以上人事の方針・ルールが見直されていないということがあります。また、世の中の人事トレンドで「ジョブ型人事」「人的資本経営」などのキーワードが出てくると、いきなり人事戦略の重要キーワードになったりもします。それが自社の経営・ビジネスの方向性と整合していれば良いのですが、表面的に飛びついている例も少なくないです。
■組織
組織は仕事をする単位の1つであり、戦略と整合した組織設計をすることで、社員や各組織が目指す姿に向かって動くことができます。組織設計となると、戦略実行のために各組織の役割はどうあるべきかをイメージされるかもしれませんが、経営の考えを適切におとしていくという点で、どのような軸・つながりで組織構造の設計をするかも重要です。
また、仕事の単位を「人」のレベルまで落として組織設計をする場合もあります。組織にどのような役割 (職務) があるべきか、何人必要か、といった内容です。このような考え方を"ポジション管理"と言いますが、昨今のジョブ型の考え方と相性がよいことから、取り組む例が少しずつ増えてきています。
人事領域では、「人材ポートフォリオが重要だ!」と言って、"それっぽい2軸4象限の表"を作って人をふりわけて眺めたり自己満足することがありますが、戦略と整合した事業ポートフォリオや、それを実現するための組織の軸・構造やあるべき人材ということまで考えると、ビジネスに役立つ人材ポートフォリオになると思います。
■プロセス・制度
自社のあるべき姿が見えても、日々に活動に反映されていなければ意味がないということで、業務プロセスの変革も必要となります。また、業務プロセスは人事制度がからみあっていることが多く、制度も含めて変革の対象とすることが重要です。しかし、人事部門では、人事制度が崇高で変えてはいけないものと認識されている方が多く、業務を見直す話をすると協力姿勢を見せてくれるものの、制度やそこに紐づく手続きは変えることはできないと前提をおいていることがあります。結果として、ほとんど変えられない、変えたくないということになってしまいます。
不要に制度変更する必要はありませんが、人事制度は導入時の頃と社員の就業観が変わっていて、現在においてはそれほど意味をなさなくなっている。本質的な部分が見失われ形骸化している。というものも少なくありませんので、大きな変革を進める場合は聖域なく見直し対象にしていただくべきです。また、制度自体が自社の重要な考え方と紐づいており変えずに継続すべきだという場合であっても、関連する手続きなど、本質的な部分以外は変えられるということがよくあります。
1つ例をあげます。「従業員の自律を促し、パフォーマンスの向上を図ること」を趣旨とした評価制度刷新の取り組みがありました。会社・組織の方向を向きながら目標を自分ごととして立てることや、目標の立てっぱなしにならないように、上司・部下で先を見たタッチポイントを定期的にもつ、というようなことが当初は考えられていました。
しかし、具体的な検討がはじまると、人事部門が気にしているのは現行制度の細かい点数計算ロジックや、今まで実施していた様式や手順を「ゆずれないこだわり」として守ることでした。そして、いつの間にか新制度のポイントは「ゆずれないこだわり」を残すことにすり替わってしまい、何をしたいかわからない中途半端な制度ができました。処遇の公平性など何かしら気にしたい事情があったのでしょうが、はじめからなんでも"変えられないこと"、"ゆずれないこだわり"にしてしまうと中途半端になるリスクがあります。
いかがでしたでしょうか。
後編では、「ITシステム」「データ」「人 (意識・行動)」について説明予定です。
- 経営戦略・経営管理
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人事変革のエキスパート
コンサルファーム、事業会社を経た経験・視点から、現職SAP社の強みであるHRテクノロジーをはじめ、人事戦略、HRオペレーティングモデル、HRトランスフォーメーションなどの助言が可能です。
籔本 レオ(ヤブモト レオ) HRバリューアドバイザリーディレクター
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