【後編】新施行の障がいのある人への合理的配慮の提供義務とは
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前編目次
障害者差別解消法における合理的配慮
合理的配慮の事例
合理的配慮の提供が企業に与える影響
後編目次
適切な合理的配慮を考えるには
合理的配慮を提供する際のポイント
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※本コラム名における障害者/障がい者の記載基準は以下の通りです。
障害者:法律名の場合に使用
障がい者:人をあらわす場合に使用
引用箇所については引用元に従います。
適切な合理的配慮を考えるには
対応事例やポイントを踏まえながら自社で合理的配慮を実際に進めるにあたっては、上述の通り「障がい者だからこうする」ではなく目の前の当事者から求められている配慮が何かを都度都度考える必要があります。
合理的配慮を提供するために、まずは必要とされる合理的配慮を理解することからはじめましょう。
本章では、「この人に適した合理的配慮とは何か?」を考え建設的会話を行うために、障害者差別解消法の根底となっている「障害の解消に向けた考え方」について説明します。
■社会モデル
社会モデルとは「日常生活や社会生活で受ける様々な不便や制限については、その人自身の心身の障がいのみが原因ではなく、社会の側に様々な障壁(バリア)がある」という考え方です。
このため、技術の発展や社会の変容によって、現在では障害となっているバリアがなくなる(該当する人は〇〇障がい者ではなくなる)こともあり得ますし、現在では障がい者でない人に対しても新しい障害が発生する(新たな△△障がい者に該当する)可能性もあると考えられます。
また、障害者差別解消法では障がい者を「障害や社会の中にあるバリアによって、日常生活や社会生活に相当な制限を受けている人全て」と定めており、障がい者手帳を持っているかではありません。
前述の障害者差別解消法の目的からも、すべての人に対して、社会の中にあるバリアを可能な限り解消していく姿勢が求められています。
■建設的対話
建設的対話とは「障害のある人と事業者等との間で相互理解を深め、ともに対応案を検討していくプロセス」を指します。障がい者側の意思の表明については、家族や支援者が本人の補佐として行うものも含みます。
建設的対話を一方的に拒むことは、合理的配慮の提供義務違反となる可能性もあるため注意が必要です。下の画像の例では、子どもの持つ障害に対して家族が補佐として意思の表明を行っています。
また、学習塾側はその意思の表明に対して「今すぐにはできないこと」を説明し、さらに家族と協力的に代案を検討するための建設的対話を行って合意にいたっています。
■合理的配慮の範囲と過重な負担
合理的配慮が義務化されるとはいえ、企業が持つ金銭・人員・時間といった様々なリソースには限度があり、合理的配慮の提供範囲は「法人自らの事業の遂行に関わることに関して、現状のリソースで可能な範囲で、障がい者でない人と同等の機会を得られるまで」と考えられます。
これを超える対応を過重な負担といい、障がい者から求められる配慮に対して、合理的な理由を説明することによって対応を断ることも可能です。
ただし、前例がない、あいまいな想定、「同じ名称の障がいを持つ人なら一律で同じ対応を行う」等は合理的な理由にはならないことは注意が必要です。
たとえば、「何かあったら…」ではなく「車椅子をそこに置くと火災が発生した際に、ご自身や介助者、従業員の避難の妨げになる」のように具体的な危険性を示すようにしましょう。
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合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例
・飲食店において食事介助を求められた場合に、その飲食店は食事介助を事業の一環として行っていないことから、介助を断ること(必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることの観点)。
・ 抽選販売を行っている限定商品について、抽選申込みの手続を行うことが難しいことを理由に、当該商品をあらかじめ別途確保しておくよう求められた場合に、対応を断ること。
(障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのもの であることの観点)
・小売店において、混雑時に視覚障害のある人から店員に対し、店内を付き添って買い物を補助するよう求められた場合に、混雑時のため付き添いはできないが、店員が買い物リストを書き留めて商品を準備することを提案すること
(過重な負担(人的・体制上の制約)の観点)。
※上記はあくまでも考え方の一例であり、実際には個別に判断する必要があります
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引用:内閣府 リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」
※上記リーフレットにはこのほかにも「禁止されている不当な差別的取り扱い」や「正当な理由がある場合」について具体例を挙げて説明されています。
合理的配慮を提供する際のポイント
法的義務に加えて様々な好影響もある中で、企業が合理的配慮を提供するうえでのポイントは以下の3つです。
■1.どのような配慮が必要か個別に確認する
世の中の例を学習して配慮の方法を想像することは大切ですが、すべての人に適合するユニバーサルな製品やサービスを提供することは現実的には難しいことが多いです。
また、ある人を想定した合理的配慮が別のある人にとっては必要がなく、異なる合理的配慮が必要なこともあります。
まずは目の前の当事者から求められている配慮を確認し、そこから様々な人に配慮ができている状態へと段階的に発展していくとよいでしょう。
■2.今できること・できないことを責任者が判断する
合理的配慮には「今できること」と「今すぐにはできないこと」があります。今できることは実行できますが、今すぐにはできないことに関しては事業者は当該障がい者に対して「合理的な理由」を説明する必要があります。
また、ある場面において従業員が顧客に、よかれと思ってマニュアルやルールにはない対応をした場合には、次の機会には同じ対応ができない可能性もあり「前回の人はやってくれたのに」といったクレームに繋がるケースもあります。
必ず責任者にエスカレーションを行い、責任者が判断するようにしましょう。
■3.受け入れる部署の業務切り出しや心理的な負担のカバー
当事者がいる場での対応はもちろん、そのあとには同様のケースや類似のケースに対応する方法を検討し、ルールやマニュアルに落とし込む必要があります。その際に、「どこまでの対応を誰がするのか」「決まっていないことを求められたら誰に連絡するか」等を決めましょう。
これらを決めることで職場の体制づくりや、体制を組むために必要な資格を取得するリスキリング施策にも繋がります。
一人ひとりの特性とともに働ける環境づくりを
労働人口減少に伴った労働力問題としても、法定雇用率の引き上げとしても、障がい者雇用はこれからも引き続き企業に対応が求められる人事テーマです。
人事担当者としては人材候補のためのハローワーク/支援学校との関係強化や、実際に採用する際の面接のしかた、入社後の業務の切り分け、職場受け入れ態勢の整備など多方面にわたって考慮することが多いでしょう。
一方で、それだけ採用コストをかけたにもかかわらず、働くことが難しくなり退職してしまうというのは大きな損失です。せっかく採用できた人材に長くとどまってもらうことは重要であり、本文に述べたような多様性の拡大による業績効果も期待できます。
「障がい者」と一口にいっても、それぞれの人にこれまで体験してきた背景や経験があり、どのような職場で、どのような業務をし、どのようなフィードバックや評価が向いているのかは異なります。
前後編にて本コラムで紹介した、合理的配慮に関して事例や基礎となる考え方を基に、目の前にいる一人ひとりの当事者について理解を深め、ともに楽しく働ける職場づくりを行っていただければ幸いです。
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WHI総研
入社後、通勤手当や寮社宅等福利厚生を専門に大手法人の制度コンサルやシステム導入を担当。子会社の人事給与BPOベンダーにて、複数顧客に対し人事関連業務のBPRを実施。顧客教育部門であるWorks Business Collegeを経て現職。
眞柴 亮(マシバ リョウ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研
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