エンゲージメント向上と人的資本経営につながる福利厚生【前編】
福利厚生とは、給与や賞与以外に企業が従業員に提供する施策・取り組みのことを指します。
企業には経営戦略の手段として、従業員や求職者にとっては働きやすさの要素として重要視される制度の一つでしょう。昨今はコロナ禍の影響が福利厚生制度にもおよび、在宅勤務/テレワーク化によって一部の企業では福利厚生の代表格ともいえる通勤交通費を廃止するといった変化が起きています。
また、人的資本経営が注目されるなかで健康経営やエンゲージメント向上、リスキル、タレントマネジメントといった新たな経営戦略の潮流が起こり、福利厚生についても従業員のパフォーマンスの最大化を図る制度へとトレンドが移行しつつあります。
本記事では、福利厚生の目的と種類を改めて整理したうえで、今後の制度設計に必要な視点について前後編でご紹介します。
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前編目次
ー福利厚生とは?取り組みの目的と種類
・福利厚生を充実させる目的
・福利厚生の種類
ー福利厚生の現状とは?人気のある制度は縮小傾向?
・人気のある福利厚生
・企業側が注力したい福利厚生
・企業側が縮小したい福利厚生
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ー福利厚生とは?取り組みの目的と種類
福利厚生とは、「企業が従業員とその家族に対して行う、給与や賞与以外の施策・取り組み」の総称です。「福利」「厚生」という言葉の意味を考えると、その取り組みが従業員の幸福や生活の充実をもたらすものととらえられます。そして、福利厚生は法定内福利厚生(広義の社会保険や子ども手当拠出金等)と法定外福利厚生(通勤交通費、住宅手当、寮社宅、健康診断、カフェテリアプラン等)に区分されます。
※本記事では企業によって任意に設計が可能であり、人的資本経営戦略の一つとして活用しうる「法定外福利厚生」に焦点を当てて説明します。
福利厚生を充実させる目的
企業が福利厚生を充実させる目的は、2つあります。
①ワーク・エンゲージメント(仕事に対する意識や行動)の向上
→生産性を高める
②エンプロイー・エンゲージメント(組織に対する意識や行動)の向上
→採用の活性化と従業員の定着に繫げる
事業成長のために従業員の生産性を高めることはもちろん、人材確保の観点での取り組みは、今後労働人口の減少が見込まれる中ではさらに重要視されることでしょう。
福利厚生の種類
また、法定外福利厚生は大まかに以下の8種類に分類されます。経済的な支援から能力開発を促すものまで種類は多岐にわたり、メディアに取り上げられるようにユニークな取り組みを行っている企業も多くあります。
①慶弔・災害
②休暇
③医療・健康
④通勤交通費・住宅
⑤文化・体育・レクリエーション
⑥勤務時間
⑦財産形成
⑧自己啓発・能力開発
また、近年注目されているウェルビーイング(※)に繫がるような、QOLの向上効果(従業員の健康や心身の安定)のある福利厚生制度も注目されています。これも前述の「エンプロイー・エンゲージメント」を向上させる効果があるといえるでしょう。
どのような種類の福利厚生であっても、従業員の意識によい変化が起こることでエンゲージメントが向上し、結果として企業へのメリットに繫がります。そのため、制度を提供する企業側の狙いと従業員の満足感がうまくマッチする必要があるでしょう。
※ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」と翻訳されることも多い言葉です。
ー福利厚生の現状とは?人気のある制度は縮小傾向?
人気のある福利厚生
では従業員の満足感を高めるためには、どのような制度が有効なのでしょうか。一般的に、従業員に人気がある福利厚生には以下の例が挙げられます。
・寮社宅・住宅手当
・レクリエーション関連(例:スポーツジムや宿泊施設の割引制度)
・法定外の健康診断(例:人間ドック)
・社食・食事補助
また、法定外福利厚生は任意の制度であるため、ユニークな福利厚生も多数存在します。
・部署をまたいだ交流補助
・英語をはじめとする外国語講座の提供
・ヨガ講座の提供
・昼寝
・福利厚生としての短時間勤務制度
・妊活サポート
これらは一例ですが、企業があらゆる取り組みを通じてエンゲージメントの向上を図っていることが理解できます。
企業側が注力したい福利厚生
次に、「企業側が福利厚生制度をどのように変化させていきたいのか」を考察すると、必ずしも従業員の満足度の高い制度を強化する傾向にはないようです。
調査(※1)からは、企業が注力したい福利厚生の領域は以下であることがわかりました。
・健康経営
・メンタルヘルス対策
・両立支援(育児・介護)
働き方改革やストレスチェックの義務化といった政府の動きのほかに、人的資本経営・健康経営のトレンドが反映されています。従業員のパフォーマンス向上や家庭の事情で十分に働けない時期への支援を行うことによって労働力を確保することが狙いでしょう。
企業側が縮小したい福利厚生
一方で、縮小したい福利厚生に挙がっているのは以下の2つです。
・寮社宅手当
・家族手当
この2つの手当は伝統的な「夫と専業主婦と子どもの世帯」を念頭に制度設計されていることが多いですが、現在はそのような世帯は少数派になっています。そのため、費用対効果が低いことや、成果と直接関係しない個人の状況に応じたサービスは、同一労働同一賃金の考えに馴染まないことが背景にあるでしょう。
実際に経団連の2019年度における調査(※2)からは、住宅関連が法定外福利厚生費の48.2%を占めていながらも、金額としては減少傾向にあることが読み取れます
しかしながら前述の通り、寮社宅手当のような住宅手当はレクリエーションと同様に従業員からの人気が高い福利厚生制度です。これは、生活費に占める固定費削減に目に見える効果があり満足感を得やすいためと考えられます。
社会情勢としても、所得の低下傾向と同時に今後も物価上昇が続くものと見込まれています。このような中で、社員の生活基盤を支えるためには財形貯蓄や社内預金といった福利厚生制度も有効に思われますが、現在の低金利では満足を得られる状況ではないでしょう。
そのため、生活費のうち固定費の削減に繫がる住宅関連の福利厚生制度を再設計することも従業員のエンゲージメントを高めるには有効と思われます。
※1 日本生命保険相互会社 福利厚生アンケート調査 https://www.nissay.co.jp/news/2019/pdf/20200324a.pdf
※2 経団連 第64回福利厚生費調査結果報告 http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/129_honbun.pdf
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以上前編では下記についてお話しました。
ー福利厚生とは?取り組みの目的と種類
ー福利厚生の現状とは?人気のある制度は縮小傾向?
後編では下記のテーマにそってお話していきます。
ー従業員と企業双方の利益のために意識すべき福利厚生のトレンド
ーエンゲージメント向上を目指して、適切な福利厚生の見直しを
- モチベーション・組織活性化
- 法改正対策・助成金
- 労務・賃金
- 福利厚生
- キャリア開発
WHI総研
入社後、通勤手当や寮社宅等福利厚生を専門に大手法人の制度コンサルやシステム導入を担当。子会社の人事給与BPOベンダーにて、複数顧客に対し人事関連業務のBPRを実施。顧客教育部門であるWorks Business Collegeを経て現職。
眞柴 亮(マシバ リョウ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研
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