シニア層の活性化の取り組み
ジェイフィールは、良い感情の連鎖を起こすことで、 人と組織の変革を支援するコンサルティング会社です
シニア層の活性化の取り組み
株式会社ジェイフィール 取締役 コンサルタント 重光 直之 コンサルタント 片岡 裕司
1.シニア活性化は何のため?
「シニア層を何とかしたいのですが、お願いできますか」というご依頼を受けることが少なくあ りません。皆さんのお会社でも、こうした課題認識をお持ちではないしょうか。背景の一つとして、 就業を希望する社員全員に 65 歳までの雇用を義務付けられるという法改正の問題があります。 シニアは何歳からという明確な定義はありませんが、50歳あたりを皆さんがイメージされるとこ ろでしょうか。研修の対象者として考えるときは、もっと若い層まで捉えて、40代半ば以降かもし れません。付け加えて言うならば、管理職も一般職も双方含まれますが、多くの場合はラインマ ネジメントを担っている人は除外しているようです。シニア層の活性化を課題として捉えるとき、 問題はこの層にとどまらず、次の世代である「バブル期入社世代(以下、バブル世代と略す)」の ことが影響してきます。つまり、今のシニア層を何とかしなければ、次はもっと多くのシニア層予 備軍が待っているという危機感が募っています。バブル層の中心が現在45歳とすると、彼らが6 5歳になるまでの今後20年間、この問題は皆さんの会社の組織課題、経営課題として向き合っ ていくテーマだと言えます。 一方現実は、研修の中で変えて欲しい、キャリア研修で本人の意識が変わればすべて上手く いくという思い込みがあるように感じます。アウトソーシングできる課題、属人的問題だと認識さ れているのでしょうか。「切実な課題なんです」と力説されるので、お話をお伺いしたら、「対象は 200名で90分の講演を考えています」と言われたこともあります。この問題の最大のポイントは、 シニアを不活性に陥らせている要因が個人の特質による以上、組織の問題による部分が大きい と言うことです。この問題を解決するには、シニアの問題だけではなく、組織の問題として、組織 全体にアプローチしていく必要があります。
2.シニアに期待する役割はなにか
組織として、最初に考えることは、彼らに何を期待しているのか、ということです。以前、ある グローバル企業の方から次のようなお話をお聞きしたことがあります。毎年、正月に全管理職を 集めた社長訓示があるのですが、その年、社長から出されたメッセージは「これからは実力主義 の時代なので、実力に応じて大胆に若手にも仕事を任せていく。こうした動きについて来られな い人に、多くのことは望まない。しかし、決して若い人の活躍を阻害しないように」というものだっ たそうです。人は、人として尊敬されたとき、人としての尊厳を持ち、自分の持てるものを発揮す るものだと言われます。どう活躍するかという期待を伝えられることもなく、一方で活躍できてい ないと言われるのも辛い話です。皆さんの会社では、ラインマネジメントに携わらないシニア層に、 どういうことを期待していますか。それが明文化されて、彼らに示されているでしょうか。しっかり 明示されている企業では、(1)スペシャリストとしての期待、(2)課題解決リーダーとしての期待、 (3)人材育成への期待、(4)マネジメントのサポートへの期待などが挙げられます。 しかし多くの組織では期待値が曖昧で、評価も曖昧なままとなり、結果として不活性なミドル を作り出してしまっています。「課題解決に取り組もうとしたら若手に譲るように言われて、もう積 極的に仕事を取りにいってはいけないと思っていました」。「人材育成を買って出たら部長からマ ネジャーの仕事の邪魔をするなと言われて・・・」。シニアを対象にした研修で、自分の分岐点に ついて振り返ってもらうと、不活性になるようにと言われたに近いような期待値を突きつけられた ケースが散見されます。組織の中でこんな事を言われて皆さんは頑張り続けられますか。その 期待値、評価に甘んじたシニアにはもちろん問題がありますが、組織マネジメント、またシニアの 活躍、キャリアに対する固定観念が問題の根本原因ということを認識する必要があります。
3.具体的取り組み(1)――最初に取り組むこと
シニア層の活性化に取り組むには具体的にどうしたらいいのか。弊社がサポートさせていた だいたある企業での実例をベースに、ステップを追いながら見ていきたいと思います。 ステップ1)方針を固めて制度面を整備し、組織風土改革である事を宣言する まず、何を実現するのか、シニアに何を期待するのか、その狙いを明確にします。この企業で は、組織課題を解決して成果を上げていくために、もっとダイナミックな動きをしてもらいたいとい う期待を設定しました。それを反映させるために最初に取り組んだのは人事制度の整備です。担 当部課長(便宜的に本稿では、ラインマネジメント以外の管理職をこう呼ぶこととします)にも、大 きく組織貢献をして欲しいという考えの下、昇格上限を、ラインマネジメントと同じところまで引き 上げました。 こうした制度改革を社内で徹底した上で、この企業ではトップ自ら「ラインマネジメントと担当 部課長は役割の違いであって、優劣ではない」、「個人の特性、自分の強みを通じ全員が貢献す る組織になろう」というメッセージを強く打ち出しました。出世競争の勝ち負けではなく、全員が自 分の可能性を最大限に活かし、お互いに生かし合える組織になる事が本当の意味での我々の 成功だと説き続け、「シニアの活性化は、我々と我々の古い価値観との戦いだ」と宣言しました。 こうしたメッセージは、ともすれば綺麗事に聞こえてしまうことが少なくありません。だからこそ、土 台となる人事制度の整備を先立って行いました。 ステップ2)上司を対象にしたワークショップ この問題を解決するキーマンは当事者であるシニアであると同時に、その上司であるマネジ ャーです。この企業では、シニア層の上司にあたる部長を対象にしたワークショップを開催しまし た。このワークショップでは、シニア層に対する役割期待を考えます。個々のシニアがどうかとい う話ではなく、この層が役割期待を担うためには、何が必要なのか、何が不足しているのかを部 長同士で話し合います。そして、演習の最後に、トップが登壇し、そこでの議論を見ながら、あら ためてメッセージを直接伝えました。シニア層の問題は、彼らの問題ではなく、経営の問題であり、 誰もが無関心ではいられないことを、情熱を持って本気度を伝えることで、このプロジェクトはスタ ートしました。 ワークショップに引き続き、部長はシニア向けのワークショップ前に面談を実施しました。会社 は本気でシニア層に今以上に活躍して欲しいと思っていること、そのために気合を入れて取り組 んでいく。その手始めが、このワークショップであることを伝えました。
4.具体的取り組み(2)――ワークショップで勝ち得るもの
ステップ3)ワークショップの実施 ワークショップでは、まずスキット(映像)を見るところからスタートします。理屈ではなく、まず リラックスしてドラマ仕立ての映像を見て、素直に感じてもらいます。シニア問題は、スキルの前 に圧倒的にマインドの問題があります。知らず知らずのうちに、自分(の可能性)に蓋をしている ことに気づいてもらうことが必要です。気づきを得るうえで、映像の持つ力はとてつもなく大きなも のがあります。 その後キャリアの棚卸しやこれからについて考えます。若手のキャリア研修と最も違うことは、 彼ら自身にもまとわり付いているキャリアに対する固定観念を払拭する事です。誰もが仕事を通 じ認められ、自分の存在実感を持ちたいとおもっており、その根源的欲求を掘りおこす事にあり ます。最後は、ワークショップの感想と自分なりの活躍イメージを、一人ひとりが語って締めくくり ます。
5.具体的取り組み(3)――ワークショップ後に行うこと
ステップ4)上司面談 ワークショップでは、職場に戻って何をするかを考えましたが、全体として決めていることは上 司との面談です。まず、研修でどんなことを感じたのかを報告します。必ず研修で使ったシートを 持って、面談をするようにしています。いくつものワークシートにびっしりと書き込んだ過程を目の 当たりにすると、上司もその迫力を感じ取ります。ここではまずワークショップでの気付きの共有 と、具体的なアクションについて可能な限りのサポート体制を確認することで、この面談は終りと なります。実際の仕事上の役割変更などは、この面談の内容を踏まえて、あらためて上司が検 討することになります。 ステップ5)役割再定義と仕事のアサイン 上記、面談からあまり日を開けずに、役割再定義と仕事のアサインを行っていきます。上期後 半にワークショップが終われば、下期のスタートに合わせることが可能になります。ここでは、単 純にやる気を出したシニアにもっと期待をかけるということではなく、組織としての連動性を高め ることを考えます。部長にとって対処すべき課題だったシニアをどうすれば一番の自分のサポー ターにできるかを考えていきます。自己と対峙するワークを行う中で、多くのシニアが「自分は自 分の役割を果たそうと思ってきたが、それが間違いだった。自分が組織の中で中堅、若手からど う見られているかを認識すべきだった。自分の存在感は自分が思っている以上に大きかった」と いう趣旨のコメントを残しました。こうした気づきをうまく活かしていくことがとても重要になります。 ステップ6)フォロー研修による成功事例の横展開 こうして新たな役割を担ったシニアたちは、各職場で決意したアクション(自分の中の習慣化 と組織内での行動)を行っていきます。しかし、必ずしも全員が、うまく組織の中で変化し、貢献度 がアップするとは限りません。そこで、いくつかのモデルケースをピックアップして、みんなで承認 することが効果的です。認められた本人も嬉しいですが、やれば出来るということを、言葉で言う のではなく、実例として見せることは、他のシニアや周囲の人達にとって大きなインパクトを与え ます。
6.成功のポイント
今回、ある企業での実例をもとにお話しました。改めてこのプログラムの最大の成功のポイン トはと問われれば、この企業の持つ、人を大切にする組織風土です。この問題の解決には、根 本的な組織風土が問われています。人を使い捨てにする会社か、大切にする会社かということ です。事例の会社が成功を収めたその大きな理由は、会社が常に誠実で、人を大切にするとい う風土を形成してきたからだと言えます。また、シニアの問題を組織全体のキャリアに対する考 え方の転換と迫り、組織全体で課題解決に臨んだことが最大の成功要因と言えます。
7.まとめ――あらためて思うこと
戦力化しない人材は入れ替える。日本企業の中にそういう考え方の企業が増えてきたように思 います。しかし残念ながらそういう企業では問題が解決しません。なぜなら、この問題が組織の 問題だからです。弊社のスペシャルサポーターであるヘンリー・ミンツバーグ教授は、今年来日し た時に繰り返し、「四半期の業績が目標未達だからといって大規模なリストラをするようなアメリ カ企業を真似てはいけない。短期的には成功しても、長期的には失敗に終わる」と警鐘を鳴らし ました。 このテーマは、究極的には、何のためにこの会社は社会に存在するのか、という根源的な問 題を問うていると言えます。ピーター・ドラッカーは、次のように語っています。「長年真摯に働い てきた人が貢献できなくなったからといって馘にすることは間違いである。正義と礼節にもとる。 そして、社員の士気を低下させ、マネジメントへの不信を生む」、と。 組織は人の集合体ですから、効率だけで動くものではないとあらためて思います。今回のテ ーマにどう対処していくのか。そのことを議論することを通じて、そもそもの会社の存在意義や、 自分がこの会社に働く意味を問い直す機会になれば幸いです。
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世界的研修プログラム『リフレクション・ラウンドテーブル(インターナショナル名:コーチングアワセルブズ)』を日本へ導入・開発
ミドルマジネジャーの行動変容プログラム「リフレクション・ラウンドテーブル」の開発と講師を担当。「感じる研修エンジニアリング」の展開にも力を入れ、スキットを使った研修、演出家を招いての役作り研修、即興劇を演じる研修など多彩な研修を行っている。
重光直之(シゲミツ ナオユキ) 株式会社ジェイフィール コンサルタント
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